第3話


 森の中へと入ったランザ達は四人一組の四パーティーに別れ、四方へと散った。

 薄暗い森の中を、海辺で見かけたゴブリンの集落を探しつつ、周辺に強力な魔物の気配がないかも探って行く。


「ランザさん……この森、なんか変です。」


 パーティーの斥候を務めるニールの言葉に、ランザは周囲への警戒を切らさず返答する。


「……あぁ、分かってる。」


 森に入ってから暫く散策を続けているが、未だゴブリンを発見できずにいた。

 それどころか、他の魔物達や動物の気配すら感じられないのだ。

 時折遠くから鳴き声が聞こえてきていた為、いないと言う事は無いはず。

 

「引き返しますか?」


 ニールの問いかけに、ランザは無精髭の生えた自分の顎を撫でながら少しの間考え、頷いた。


「そうだな、一度拠点へ戻るぞ。魔伝機で他の奴らにも戻るよう伝えてくれ。」


 ニールが背負い鞄から通信用の魔道具である魔伝機を取り出し、他のパーティーへと撤退の指示を出すと、一行は踵を返して来た道を引き返ていく。


 引き返しながら、ランザはこの島へと降り立つ時に聞いたミカルドからの忠告を思い出していた。


『ランザ、少しいいですか?』


『ん?どうした?』


『この島、魔素濃度が異常に高いんですよねぇ。もしかすると、がいるかも知れませんねぇ。』


『……この島全体が領域・・だってのか?ゴブリンがいたんだ。それはねぇだろ。』


『確かに、主の領域内にゴブリンのような弱い魔物が住んでいるとは考えにくいのですが……ここは未知の島ですからねぇ。我々の常識が通用しない事があってもおかしくないでしょう。』


『まぁ、そうだな……』


『簡易拠点が形になるまでは警備に当たって貰いますが、その後は周囲の探索と安全確保に行って貰います。こちらもすぐに逃げ出せるようにしておきますので、何かあればすぐに逃げて来てくださいねぇ。』


 高い魔素濃度と、魔物や動物のいない森。

 いよいよミカルドの懸念があたってそうだな、と考えながら、ランザは拠点へと急ぐ。


「ッ!!全員止まれ!」


 ニールの声に、パーティー全員が足を止めると同時にすぐにでも武器を抜けるように構えを取った。


 ランザは自分たちの進行方向に黒い騎士鎧を着た人物と、その横にフードを目深に被った人物が立っている事に気が付き、訝しげに目を細めた。


「(この島の住人か?だとしても、何者だあいつらは。目の前にいるってのに気配が感じられない。どうなってんだありゃ……)」


 ランザは務めて冷静を装い、謎の二人組へと声をかける。


「俺はランザ!シーガルド王国の調査団に雇われた冒険者だ!あんたらは、この島の住民か?」


「貴様らは、ニンゲンか?」


 しかし、黒騎士からの返答は、そんな訳のわからない問いであった。


 気配を感じない不審な人物。

 こちらの問いかけには答えず、人間か?と言う訳のわからない問いかけ。

 ランザ達は警戒を努め、武器にかけた手に力を入れた。


「……勿論、人間だ。それ以外の何かに見えるのか?」


 ランザがそう返答すると、黒騎士は隣にいるフードの人物に視線を向けた。


「ニンゲンで間違いないようです。如何致しますか?」


 フードの人物は何も答えない。

 いや、なんらかの手段で会話をしているのだろう。

 その証拠に、黒騎士が数度頷いているのが見えた。


 ランザは奇妙な静寂が包む中、そっとニールに視線を送る。

 それを受けたニールは僅かに頷き、そっと左腕に付けた腕輪に手を触れた。


『ミカルド様、こちらニール。森の中で謎の二人組に遭遇した。現在——』


 背負いカバンの中に入れた魔伝機とは違い、一方通行の通信しかできない腕輪型の魔伝機により、拠点にいるミカルドへと報告を入れる。


 ニールが一通り報告を終えたのを見計らった様に、再びこちらに視線を向けていた黒騎士が声を発した。


「貴様らの主人の元へと案内してもらおうか。……ミカルド、と言ったか?」


 黒騎士の言葉に、パーティー全員の動きが止まる。

 特にニールはその顔に驚愕の表情を浮かべ驚きの声を上げた。


「まさかっ……!通信を……」


「そんな事はどうでもいい。早く案内せよ。……ニールとやら、その通信機で先に連絡を入れておけ。」


「ちょっ、ちょっと待ってくれ!」


 ランザは咄嗟に叫んだ。

 

「先にあんたらの目的を聞かせてくれ!この島から出て行けと言うのなら、俺たちはすぐに出ていく!」


 ふむ。と一言呟いた黒騎士は再びフードの人物の方を向き、無言になった。


「(この距離でフードの中の顔が見えないところを見るに、あのローブは恐らく認識阻害の魔道具。一々黒騎士を通して会話までして、徹底して俺達に正体を隠すのは何故だ?騎士が仕えてるって事は、どこかの貴族か?だが、だとしたら何故こんなところにいる?こんな大陸から離れた島に態々隠れていたのなら、何故姿をみせた?何故、ミカルドの元へと案内させようとする?……まさか)」


「口封じ、か……?」


 ランザの口から漏れた言葉に、他のパーティーメンバーが息を呑む。

 目の前の二人組に意識を戻すと、フードの人物がピクリと反応したのが目に入った。


「ニール!ミカルドに島を出るように伝えろ!俺達で時間を稼ぐ!」


 そう叫んだランザは、腰の剣を引き抜き、目の前の二人組に向かって一気に駆け出した。

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