第33話・図書の村
エヴァルスとタンクは砂漠を抜け、ワイキの村にやってきた。
「ここで合ってるのか?」
タンクは高くそびえ立つ壁を見上げている。
その壁は今まで滞在したどの村よりも高く、ひょっとするとアカサの街の壁より高かった。
「ここ、入れる場所なんてあるのかな」
「うっぱー」
2人が立っている場所から左にズレた場所にうぱが指を指している。
その場所に向かって歩いていくと徐々に門が見えてきた。
その前には衛兵のような人物も立っている。
「すみません。この中に入るにはどうしたらいいのでしょうか」
エヴァルスは門を挟んで立っている衛兵に声をかける。
「……ん?別に許可など要らないよ。入りたいなら入るといい」
「でもなんでこんな壁を?」
誰でも入っていいのであれ、こんな壁など必要ないと思ったエヴァルスは思わず尋ねてしまう。
「人間を遮るものではない。魔物が襲ってきても、書物を抱えて逃げられないからね」
衛兵は腰に付けた旗を振ると、壁の上に立っている兵が人ひとり通れる高さまで門を引き上げると顎をしゃくる。
エヴァルスとタンクは背をかがめながら中に入っていく。
うぱも兵に手を挙げて挨拶をするも兵は何の反応もしなかった。
「やっぱり、うぱのこと見えてないんだよ」
「逆に見えていたら退治されてたんじゃないか」
タンクは呆れた顔でうぱを見下ろした。
村の中に入ってみるとそれこそアカサの街並みに近かった。
この規模で村と言って良いのか分からないレベルで発展していた。
「で、図書館の場所だろう?」
「そうだった」
周囲の建物に圧倒されていたエヴァルスは、タンクの声で気を取り戻して、歩いている人に声をかける。
「すみません、この街の図書館はどこに?」
「え?えっと、村の北だけど……行くの?」
声をかけた村人は怪訝な顔で聞き返してきた。
「ええ、どうかしたんですか?」
「知らないの?燃えたよ、図書館」
2人は手に持っていた武器を思わず落としてしまった。
「本当に燃えたんだ」
2人は言われた通り村の北、図書館の前に立っていた。
言われた通り、半分燃え落ちた図書館があった。
「あんた、ここに用があったのかい?タイミングが悪いね」
図書館の前にあったベンチに腰かけていた老人が2人に話しかけてきた。
「タイミングが悪いって?」
「ついこの間なんだよ、燃えたの。おかしいよね、火の気なんてない場所なのに」
「もしかして、放火?」
エヴァルスが老人に尋ねると、口を結んだ。
「わからんさ。調べてわかることじゃないし。もし、お目当ての本が有って焼け残っていたらいいんだけどね」
老人はそれだけ言うと腰を叩きながら立ち上がるとふらふらと歩いていってしまった。
「お目当ての本……え?もしかして閉館してないの?」
「エヴァー。燃えてない場所なら入って良いみたいだぞ」
タンクは既に職員に確認とってくれたのか、図書館の扉から手招きをしている。
「で、なんの本読みたいんだ?」
タンクに連れられて図書館の中に入ると、燃え残り部分はあわただしく人が動いているが、火の手が回らなかった場所はおそらく普段通りの静けさを保っていた。
「こっちの場所なら良いんですよね。ふらついてみます」
職員へ礼をすると、エヴァルスは図書館の中を歩き始めた。
探している本は勇者について書かれていることが第一。
そして、可能であればウェールの言った「守護遣い」という単語についても調べておきたかった。
「エヴァ、オレも調べものしていいか?」
タンクはエヴァルスの答えを待たずに図書館の奥に消えていった。
エヴァルスの頭に乗っているうぱは手を振って見送るとエヴァルスの顔をのぞき込んできた。
「うぱ、行こうか」
勇者の伝承の棚を探す。
どうやら燃えていないようだが、詳しく書かれているものはあまり見つからなかった。
「どうだった?見つかったのか?」
夜、食事をしながらお互いに情報を交換し始める。
「まだ全部見れていないけど。タンクの方は?」
タンクはフォークを咥えながら左右に手を広げた。
「やっぱりないな。紋章の秘密知りたかったんだけど」
「ボクの方も勇者のこと、調べたんだけど」
2人はため息を吐いた。
「紋章のことを調べているのですか?若いのに感心ですね」
席の隣に座っていた修道服に身を包んだ女性が声をかけてきた。
「いきなり声をかけてしまい、申し訳ありません。私はマヤと申します」
マヤは2人に頭を下げる。
「紋章について知りたいのであれば、明日協会にいらしゃってください。失礼します」
マヤはそれだけ言うと再び頭を下げて席を立った。
残された2人は顔を見合わせる。
「だってよ」
「行こう。この紋章のこと、気になるし」
エヴァルスはコップの水を飲みほした。
明くる日、言われた通り協会に向かうとマヤは敷地内で掃き掃除をしていた。
「お2人さん!早いですね」
マヤは2人に気付くと大きく手を振った。
「昨日お名前を聞きそびれてしまいまして。今伺っても良いですか?」
朗らかに尋ねてくるマヤ。
「エヴァルスです」
「タンクだ」
2人の名前を聞くとマヤの顔が青くなっていく。
「ゆ」
『ゆ?』
「勇者さまでしたか!?」
マヤの叫び声で協会の屋根にとまっていた鳥たちが一斉に飛び立っていった。
「こちらも名乗りそびれてしまってすみませんでした」
「いいい、いえ!こちらこそ偉そうに申してしまって!」
両手をぶんぶんと振りながらマヤは顔を真っ赤にする。
ずいぶんと表情が豊かな人である。
「ボクたち、紋章のこと何も知らなくて。できれば教えていただきたいんですけど」
「しょ、少々お待ちを!」
掃除もそこそこにマヤは協会の中に飛び込んでいってしまった。
「……大丈夫かよ」
「たぶん?ボクたちの身分を知らなかっただけでしょ」
最近あきれ顔が板についてきたタンク。
エヴァルスはなだめながら返した。
「お、お待たせいたしました!勇者さま!」
あわただしくかけてきたマヤの後ろには、恰幅の良い神父が立っていた。
「わ、私はこれで!」
言うが早い、マヤは足早に教会の中に引っ込んでしまった。
「あわただしい子ですみません。後で言って聞かせますので」
神父は頭を下げながら苦笑いを浮かべた。
「勇者さま、タンクさま。ようこそおいで下さいました。紋章について知りたいと伺いました」
神父は穏やかに笑みを讃えるのだった。
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