第23話・魔竜武具

2人の前に置かれた魔竜の牙とウロコ。

鍛冶屋の主人はこれで武器を作るという。

「あの騎士どもからどうにかこれだけ引き取ったんだ。悪いことは言わねぇ。作らせてくれ」

エヴァルスとタンクは目を見合わせる。

魔物を素材として道具を作ることは広く知られている技法だが、それはあくまで人の手で討伐できるレベルの物を加工するに留まっている。

例えば大型のネズミの皮を防寒具にしたり、狼の牙をナイフにしたり。

あくまでも生活用品の延長として使うことがほとんどで、武具として使うことは聞いた試しがない。

まして魔竜と呼ばれる強力な魔物を素材にするなんて。

エヴァルスはじっと牙を見た。

主人曰く、牙を剣に、ウロコを盾に加工してくれるという。

自分だけでなく、タンクの武器も強くなる。

2人からしたら願ってもない申し出であることに違いなかった。

「ボクは、何もできませんよ?」

エヴァルスは申し訳なさそうに目を伏せた。

主人はその頭を掴むと強引に目を合わせてくる。

「魔竜倒して、炭鉱助けてくれて何もしてないってそれはムシがいいだろ」

本来問い詰める時に使う言葉をあえて使ってくる主人。

「騎士どもノシてくれた時もそうだ。アンタは充分やってる、充分すぎる。もう少し自分に自信もってくれねぇか」

主人の言葉は途中から勢いがなく、目にはかすかに光が反射していた。

「エヴァ、こりゃ負けたな。おっさん、何日かかる?」

タンクは喉で笑いながら尋ねた。

「おう!3日貰えるか。3日で必ず鍛えてやる!」

あっけに取られているエヴァルスの肩を抱き、タンクは耳打ちする。

「ここで断るのは人で無しだ。それに剣は必要だろ?」

「それはそうだけど……」

元々折れてしまった剣の代わりを求め村に立ち寄った。

現状折れた剣以上のものは無理と言われた本人から魔竜素材で作らせて欲しいと言うのであれば、それは間違いなく前の剣以上の物ができる自信があるのだろう。

エヴァルスにとっては願ってもない申し出であることに違いなかった。

「ありがとよ。盾のほうが先に上がる。盾は明後日だな」

「ありがとな、おっさん!」

タンクの返事も聞かず、主人は素材を持っていそいそと出ていくのだった。



「はい、ええ。今勇者はヤィラに居ます。武器も折れ、魔竜と戦い疲労しています。ええ、勇者を亡き者にするには今が絶好の機会かと。私ですか?御冗談を。手柄はあなたのものですよ。はい3日ですね。わかりました。それまで引き留めておきましょう。では。……ふぅ、これで潰し合ってくれるのならそれでよい。勇者などという空想が世界を守っているわけではない。秩序と安寧を支えているのは、私たち聖騎士団だという事を思い知らせてやる」



「どうだ!いい盾だろう!」

2日後、エヴァルスとタンクは鍛冶屋を訪れていた。

宣言通り、タンクの盾を仕上げてくれた。

見た目は素材のウロコ、そのままで盾にしては少々攻撃的な形をしている。

「軽い……コレ、本当に防御は平気なのか?」

タンクが仕上がった盾を構えるとあまりの軽さに疑いのまなざしを向ける。

「試してみるかい?」

主人が槌を構えてそのままタンクに目掛けて勢いよく振りぬく。

咄嗟に盾を合わせる。

金属音が部屋に響き、そして静まった。

「……ウソだろ。なんの衝撃も伝わってこない」

タンクは舌を巻いた。

「すげえだろ。しかもこのウロコ、どうやら防火耐性が付いている。火にくべてもびくともしない。だから切り出しになっちまった」

「そういえば魔竜も炎があまり効かなかった」

エヴァルスは納得したように頷く。

「つまり炎も防げる盾ってことか。便利だな」

タンクも耐久性に目を見張りながら持ったまま振り回して手に馴染むか試している。

「それで謝らなきゃならん。牙の方も同じく炎耐性があってな。ちょっと時間がかかってる。明日に仕上げるには仕上げるが遅くなっちまうだろうな」

「いいじゃねぇの。こんな良い武器ができるなら、じっくり作ってもらおう」

タンクは新しい盾の出来にご満悦のようである。

「無理はしないでくださいね」

エヴァルスの心配をよそに、主人は豪快に笑う。

「コレ作ったらのんびりするさ。とにかく明日まで待ってくれな」


エヴァルスたちは郊外の広場に来ていた魔竜の盾に炎が耐えられるという事を聞いたタンクの提案でどれくらいの威力に耐えられるのか検証するためだった。

「まずこの子のブレスから?」

エヴァルスは頭に乗ったうぱを指さす。

「オレを殺す気か。お前に魔法だろうが」

「冗談じゃない」

エヴァルスがクスクス笑う。

うぱはハチを追い払った時以外ブレスを吐かない。

ブレスを吐くほどの脅威ではないのか、それとも体力的に吐けないのか。

それはうぱしか分からないのだが。

「お前のコントロールも兼ねるから絞って撃てるようにしろよ」

タンクはエヴァルスから十数歩のところに距離を取って、盾を構えた。

エヴァルスは魔力を細く鋭く尖らせる。

普段使っている炎が拡散だとしたら、今回は集中。

槍のように魔力を尖らせ、タンクの構える盾の中心に向けて炎を放つ。

その炎は光線のように細く、速く、タンクの反応を追い越して盾の真ん中を貫く。

その光線をもってしても、盾はびくともしない。

直撃した部分がわずかに焦げただけである。

「……すげぇ。エヴァ、それもすげぇけどこの盾もすげぇ!」

語彙力を置いてきたようにすげえと繰り返すタンク。

エヴァルスは自分の中から出た魔法の威力に目を剥いていた。

と、言うのも魔法を放ったエヴァルス自身すら今の魔法は目で見ることができなかった。

それこそ魔竜の盾が魔法に耐えることができたからよかったものの、もし貫くだけの威力を持っていたら……。

エヴァルスは背筋に薄ら寒いものを感じていた。

脇に座ったうぱはそのことを察したのかズボンの裾を引っ張る。

「うぱ?うぱぱ?」

「ううん、大丈夫。大丈夫、のはず」

うぱを抱きかかえながらエヴァルスは底知れぬ、嫌な予感が頭によぎっていた。

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