シャワーから出たら目の前に血濡れの包丁を持った女がいる。その後ろには刺されて横になった女が倒れている。死にたくなければ全力でいいわけを考えろ!

大舞 神

第1話 Dead or Alive

「ゆう君……」


シャワーから出たら血濡れの包丁を持った女が立っていた。


俺はその女を知っている。

俺が人生を壊して捨てた人妻だ。

言い寄ってきたから遊んで捨てた。

向こうから言い寄ってきたんだ。

俺は悪くない。


「……ねぇ、あのメスブタ誰だったの? ゆう君のベッドで寝てたから殺しちゃったぁ」


「っ……」


女の後ろ、ベッドには真っ赤に染まった人が寝ていた。

さっきまで情事を楽しんでいた女だ。

包丁を持った女は黒い服でわかりずらいが、頬に返り血がついている。


『いつか女に刺されて死ね』


むかしよく言われた言葉が頭の中で蘇る。


「ねぇ?」


女がイラついた声で一歩近づいた。

床に血が垂れる音がした。


(どうする?)


このイカれた女から逃げるにはどうすればいい?

俺は今裸にバスタオルを巻いただけだ。

あの包丁で切り付けられたらマズイ。


「……ひさしぶりだな、エイコ」


「ひさしぶりだよね、ゆう君。 だって連絡とれないんだもん」


連絡も取っていないし、引っ越しもしたはずなのにどうやって突き止めた?

俺はそう訊ねたかったが、向こうが話してくれる。


「勝手に引っ越しちゃうから、友達の直樹君いたでしょぉ? 彼から聞いたんだよぉ? なかなか教えてくれないから、切り取っちゃったぁ……あは、あははは!」


べちゃ


床に投げ捨てられたソレに、俺は一気に体温が低くなるのを感じた。


「なんでっ、そんな!?」


勝手に言い寄ってきたバカ女が悪いだろう?

俺はそれに応えて少し現実を忘れさせてやっただけだ。

感謝されても恨まれる筋合いなんてない!


「え、エイコ、落ち着けよ。 ……俺たちまたやり直せるよ、大好きだよエイコ」


そうだまだやり直せる。

こいつはブタ箱にぶち込めばいいんだ。

俺は悪くない。


「ほんとぉ? ゆう君、大好きだよぉ」


女が泣いている。

ははは。

ほんとにバカな女。

簡単に騙される。


「ああ――」


「一緒に死んで?」


俺は悪くない。


「ずっと一緒だよ」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

シャワーから出たら目の前に血濡れの包丁を持った女がいる。その後ろには刺されて横になった女が倒れている。死にたくなければ全力でいいわけを考えろ! 大舞 神 @oomaigod

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ