第14章
療養生活2日目
本日も朝から温水球に漂って川に虹をかけております。
腫れも殆どおさまって、歩くと痛むがこの分だと後3日もすれば治りそう。
薙刀の鍛練が出来ないのが悔しいけれど仕方ない…。
悔しいからイメージトレーニングだけは入念に行っている。
昼ご飯を食べると魔法書を読み始める。
どうやら光魔法で回復魔法が使えるらしいわね。
ものは試しにとライトと唱えてみたが全く光らなかった…。
もしかしたら何で何もないところが光る?と先入観に苛まれているからかもしれない。
魔法書によると光魔法の真髄は信仰心。
神様の存在を信じる心、それは今の状態を考えれば当たり前にある。
神様の奇跡を信じる心。それは奇跡されてますので信じている。
じゃぁ、何で光る?
結局、二時間ほど試行錯誤していたら、なんと、物語で良くある神様が登場するシーンでパーっと光るイメージを思い出した時にライトは成功した。
解せぬ…。解せぬが…要するには奇跡なんでしょう…。
私が根っからの地球人だからかなぁ。
ちょっとショックだったので、イメージしやすい電撃ラケットを取り出して網に集まる雷の魔力を水晶に込めれないか試してみたら、こっちは上手くいった。
魔素が関係しているのかな?帯電する水晶って格好いい。
これは3つ程作っておいたので、1つは黒服さんにでもあげようと思う。投げつければ一瞬の足止めくらいには使えるだろう。
因みに、回復の光魔法は精霊に力を借りても良いとある。
ヒール。ホーリーヒール。エクストラヒール。の順番で回復量が高くなるとのこと。
精霊はお医者さんなのかねぇ?
試しに指先にダガーの先を刺して傷にヒールをかけようとしたが、どうしても菌が気になるので小さな水球を作って汚れを浮かせて除菌をイメージする。
それから神様登場シーンをイメージしてヒールと唱えたけれど、傷はパッカリ開いたまま…。
色々試してみたが結局出来なかったので、傷パッドの様に傷を薄く魔力で囲んで様子を伺ってみた。
指先が気持ち悪いけれど回復が使えないなら別の方法を試すしかない。
やっぱり回復魔法は専門の人に学んでみた方が良さそうね。
悔しいけれど、ある程度使えるようになったら地球の知恵を借りましょう。
午後からは入念に魔力操作の練習をした。
特に傷ついている筋付近を調査していた。
回復使えたらなぁ…。
トントン。
来客だ。
扉を開けると黒服さんがいた。
「調子はどうだ?」
黒服さんはロッキングチェアへ座ってちょっと笑いながら聞いてくる。
「腫れも引いたので数日で歩けるようになりそうです。」
「そうか。それは良かった。」
「はい、お世話になりました。ありがとうございます。」
「あぁ。新種のスライムは面白かったな。」
「あれは、仕方なくですよ…。」
「ははっ、そうだったな。」
黒服さんは思いだし笑いをしている。
「それで、足が治ったらどうするんだ?」
黒服さんは窓の外に視線を落として聞いてくる。
「そうですね、まだ鍛練したいこともあるので、この街にもう少し滞在すると思います。」
「そうか。」
黒服さんは少しの間、黙っている。
「そういえば、あんたは何であの時俺に声をかけた?」
あの時と言えば、冒険者ギルドに最初に行った時かな?
まぁ、嘘をつく必要もないので普通に。
「面倒くさくなさそうだったのと、黒髪だったからかなぁ。」
黒服さんは、眼を押さえてまた少し黙る。
「黒髪を選んだ理由は?」
「え?だって私も黒髪ですし?ピンクの部分はこれはなんと言いますかちょっと薬品で…やらかしたと言いますか…。」薬品を使ったのは確かだし嘘ではないはず。
黒服さんは私の髪の毛をじっと見つめてまた「そうか。」と言った。
「名前、聞いた方が良いですか?」
翼は旅人だし、あまり距離をつめるのも良くないかと男性には名前を聞かずにいたが何となくそう言ってみた。
「ユウだ。」
しっかりと目線が合う。
「漢字は?」
「優しい…で。」
「似合ってるじゃないですか。」
翼は黒服さんと数日しか付き合いがないが、人生経験はある。この人は大丈夫。
ユウさんはちょっとばつの悪そうな顔をした。
「…そういうあんたは?」
「名前はもう知ってますよね、名字はえにしの縁、名前はそのままの漢字で翼です。」
「エニシと書いてエンか…聞いたことがないな。」
あぁ、なるほどと思った。
白人系の人が多いこの街になんでユウさんがいるのかはわからないし、ソース顔で目が金色だから最初は髪の毛だけ黒のこちらの人かと思っていたけれど、どうやら違うようだ。
「私は1人で随分遠くからこの旅をしてきました。ユウさんはこの街で生まれたんですか?」
名前からして、日本に似た国があるのだろう。
「俺は東にある大和国出身だ。」
「そうだったんですね。私の住んでいた処は大和国ではありません。あまり知られていないとても辺境にあったので、ユウさんが知らないのも仕方ないと思います。」
「そうか…。」
ユウさんは窓の外を見て何かを考えている。
大和国かぁ。お米あるんだろうなぁ。
「味噌汁は好きですか?」
翼も窓の外を見ながら聞いてみた。
「味噌汁?…あぁ、まぁ味噌汁は好きだが。」
「納豆は?」
「…まぁ、俺は嫌いではないな。」
「梅干しは?」
「…お握りなら梅干ししかないだろう。」
良かった。大和国では色々と手に入りそうだ。
「それで良いんじゃないですか。」
翼はにっこりと笑ってユウさんを見る。
「?」ユウさんは良くわからないと首をかしげる。
「別にどこの誰であっても何でも良いじゃないですか。だって、味噌汁と納豆と梅干しの良さがわかるんだから。」
「…おまえなぁ。」
「ふふっ。そんなもんでしょ。」
ユウさんはちょっと頭をかかえたけれど結局笑った。
髪の毛とか目の色がどうであれ、食の良さがわかれば皆おんなじだ。
「あっ、そうだ。」
翼は忘れていた水晶をユウさんへ2つ渡す。
「これも何かの縁です。だからこれはお守りです。」
ユウさんは不思議そうに水晶を見る。
「…光魔法に似ているけど、違うな。これは、お前、これは外にだせるやつか?」
「出せないでしょうね。でも、いざという時に思いっきり対象にぶつけて下さい。足止めくらいにはなりますよ。」
翼は苦笑する。もしかしたら危険なことをしたのかもしれない。でもきっとこの人は私を利用しない。そんか気がしている。
「はぁ…。翼、ここの領主は俺の命の恩人なんだ。この国の中ではお人好しの部類に入るやつだが仕事もきっちりこなすやつだぞ。」
「…そうですか。だったら丁度良いですよ、2つありますからね。一つはユウさんが、もう一つはその恩人さんの為に使えば良いじゃないです?」
翼はまたにっこり笑って答えておく。
「お前さぁ。はぁ…。無駄なんだろうけれど、これの出所を教える気はないんだろう…」
「出所も何も拾ったんです。旅の途中でね、水晶に雷でも落ちたんでしょう。」
この世界に雷魔法がないのはわかっている。
だから渡す時用の理由は考えていたのだ。
「…そう言えってことだろう。全く。」
ユウさんは諦めた感じでこちらを見る。
「えぇ、全くその通りです。だって貴方と私は友ですし」
翼は有無を言わさない笑顔で言い切る。
「お前なぁぁぁ。」
ユウさんはがっくりと項垂れる。
おばちゃんだからね!いじいじすることもない。友と決めたら友だ。
結局、ユウさんは最後には笑っていた。
女には敵わないってさ。
それで良い。この街での友人1号だって言ったら調子に乗るなとチョップされた。
少しして、おかみさんがご飯だと呼びにきて「お邪魔だったかしら?」と定番の言葉を言ってきたので、「まだ襲ってないですよ。襲われてもないですし。」と答えたら今度はちゃんと痛めのチョップをくらった。
結局、これは只のお守りだから人に伝えることもないだろうと。ユウさんはぶっきらぼうに言って帰っていった。
男の子の友情はぶっきらぼうだけれど優しいんだわ。
おばちゃんそれ知ってるから、ごめんね。
翼は窓からユウさんの後ろ姿に大きな声で「またね!友よ!」と叫んでおいた。
気持ちジト目で睨まれた気もするが、馬鹿と口パクしてきたので翼はまた笑ってしまった。
後からおかみさんが教えてくれたところによると、ユウさんはA級の冒険者だそうだ。
実力的にはSかもしれないが、欲がない人で必要な時にしか動かないらしい。
王子だった頃の今の国王陛下とここの領主様が親善の為に大和国へ行った時に拾ってきたらしい。
大和国で金色の目が珍しかったので、ユウさんの兄がイビっていたようだ。
才能があったユウさんへの嫉妬もあったのだろう。
本人は強いので気にしていないようだったが、毒を盛られてしまい、病院で死にかけていたら大和国の薬を見に来ていたここの領主様が回復魔法で助けてそのまま連れて帰ってきたらしい。
なるほどなぁ…。
時代なんだろうねぇ…。私達の世界では克服してきた事も、こちらの世界ではまだわかりあえていないことだってあるんだろう。
日本だったらねぇ、むしろ金色の目が何か格好いいとか騒がれてYouTubeとかで人気になりそうだわ。スッキリとした目鼻立ちしてるし。
おかみさんには、翼は大和国の出身ではないけれど、大和国から離れた民の末裔だと伝えておいた。
おばちゃんだからもあるけれど、どうしてそこまで事情に詳しいのか尋ねたら、領主様の奥さんとおかみさんが仲良しで、ユウさんも最初はここに預けられたらしい。
息子みたいなもんだって笑っていたので、私もそう思うって言ったら息子にしては大き過ぎでしょうと笑われた。
今日のご飯も温かい。
翼は1人友ができて満足だ。
部屋に帰ってもう一度魔力操作の鍛練をする。
そして初めてこの世界で友が出来たことを神様に伝えて翼はゆっくりと寝た。
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