第12章



次の日の朝。




宿で美味しい朝ごはんを頂いて、そのまま草原までやってきた翼。




この草原は人気が無いのか誰もいない。




一時間程歩いて適当な場所を見つけると、座り良さそうな石があったのでそこで座禅を組んで静かに瞑想をする。




まずは意識を周りの元素が認証できるくらいまで集中する。深く深く。




翼の世界が眼を瞑っても解るくらいに細分化されて認証出来たら魔力を活性化させて次元を意識してのバリアの調整。




まずは薄く広げて深呼吸。次に出来るだけ厚く世界から翼を遮断するような強固なバリアを30分程維持費する。


その状態で無駄な力が入らなくなってきたら、後は徐々に身体の回りへ違和感の無いように張り巡らせる。




そのまま、今度は風を吹かせて竜巻を作る。作った竜巻の温度を上げて出来るだけ上に上げてそのまま維持。竜巻がぶれなくなったらそこへウインドカッターを翔ばして竜巻を飛散させる。




沢山のウインドカッターを飛ばす練習をしたら最後に大きなウインドカッターを翔ばして翼は地面を見る。




魔力を地面に張り巡らせたら土をかき混ぜる。2m四方くらいの土が柔らかい畑の様になってきたら、一気に土を集めて土壁を作る。なるべく強固に。頑丈に。




ふぅ。。。。




身体は動かしていないのに全身が疲れたわ…。




翼は一息付くと竹水筒に入れて貰った果実水を飲んで休憩する。




残り少なくなってきたりんごを食べて、これもう一度探しに聞きたいなぁ、なんてのんきに草原の奧を見ていた。










見ていた…






えっ…?








あれは。。。








ドドドドドドドド!








奥から凄い土煙が此方に向かってきている?






良く見たら遠くの方から高速で猪の魔物っぽいのが憤怒のオーラを出して爆走してくる!!!






もっと良く見たら昨日ギルドでガタイの良い斧戦士を殴り飛ばしていた男の子が涙目で逃げてくる!!








えーっとこっちに来てるわね…。






翼は思わず立ち上がる。






「!!!あぶねぇ!!にげろぉぉぉ!!」




「くそっ!!!」






翼が前にいることに気付いたのだろう男の子は、急に立ち止まって突進してくる猪に向かい合う!




猪は止まらずそのまま男の子へ顔を下げて突進している!




男の子はギリギリまで引き寄せるとぶつかる寸前に右に避けて猪の脇腹に猛烈な蹴りを入れる!




猪はふらついたが倒れない…




身体を男の子にぶつけて男の子をぶっ飛ばす!




!!!!




危ない!!!




猪はぶっ飛んでしまった男の子に身体を向けて蹄で地面をかいて今にも突進しそうだ。






!!!


母親だった翼。おばあちゃんだった翼。


歳をとったら若者に沢山助けられてきた翼。


ふつふつと怒りが沸いてくる。






「やめなさぁぁぁあいいい!!!」




翼はあらんかぎりの大声を上げてウインドカッターを飛ばす!




猪の身体から血が吹き出すが、致命傷にはなっていないのだろう、邪魔されて怒り狂った眼を翼に向ける。




そのまま今度は翼に向けて突進しようと蹄をかきだしたところで男の子が猪に体当たりをしている!!




「馬鹿!逃げろ!はやくっ!」




男の子は必死で攻撃しようとするが、猪は煩わしそうに男の子をはね飛ばす!




男の子はついに気を失って倒れてしまった。




人一倍優しかった息子…


1人親でも文句も言わず、いつも仕事で疲れた翼を庇って我が儘も言わず全うに育ってくれた息子…




翼を庇って倒れた男の子がかつての息子に重なっていく。






男の子を見つめて、ふんっと鼻息をはいて今度は翼をはね飛ばしてやろうと猪が翼の方を向いた…




その時、猪の目の前に鬼がいた…




詳しくは鬼ババアがいた…。




気付いた時には風魔法を使って猪まで接近していた翼。




あらん限りの強固なバリアを前に展開して横から突進してきた鬼ババアがその勢いで猪を転がす!




ぶもっ!?


猪は意味がわからない。。




すると猪が見たこともないような変な武器を手に持った鬼!怒りに任せてありったけの魔力を込めたであろう、青白くバッチバッチのラケットが猪の繊細な鼻っ面をぶち叩く!!




「わりゃぁ!ほんまに!」




「おめぇの住むとこはここじゃなかろうが!!」




バシバシっ!




猪は全く訳がわからない痛みに頭が破裂しそうだ…。




「何勝手に人里に降りて悪さしとんならごらぁぁぁ!!」






バチ~ン!!!






強烈だった…




まだ可愛いうり坊だった頃に母猪にまとわりついていた走馬灯を思い出す。。


意識を飛ばしそうになった猪、だがっ




「帰れっ!」




鬼ババアは一切の無慈悲のない冷たい眼で猪をしっかりと見つめる。


手にはあの凶悪な変な武器がまだ殺れるとバッチバッチ光っている。






猪はあまりのことに動けないでいる…。




「はよぉ、、、帰れって言っとるじゃろがぁぁぁ!!」




今度は何処から出したのか、鬼ババアは槍のような武器で猪のお尻を三度程ぶち刺してきた!!




ブモっブモー!!!!っ(悪魔、いや、鬼がデター!!!)




これには猪も堪らない…






涙を流しながらヨロヨロと一生懸命に森の奥へ走りだす!






人間なんて何ともないと思っていた自分が甘かったのだ…




あんな意味の解らない鬼に変身できるなんてしらなかったんだ…




怖いコワイ、、人間怖いよぉぉ~~!!




そのまま、猪は二度と人になんて関わらないと決めて森へ逃げ帰っていった。






翼は猪がちゃんと森へ帰るかをじっと睨み付けながら確認する。




「ぼけがぁ、勝手に人里におりてきよってからに!次見つけたら皮むいで焼いて食ってやる…」




怒り冷めやらぬおばちゃんは両手に武器を持ってぜぇぜぇいってる。




「あっ、いけない!」




男の子を思い出した翼は怒りが一気に冷めたのだろう。慌てて男の子に駆け寄ろうとする!




「いった…」




無理に風魔法で走った弊害だろう、翼は左の足首を痛めていた。




「もう、せっかく若返ったのに、身体を使いこなせていないんじゃ意味が無いわね…。」




痛む足を引き摺りながら男の子へ辿り着く。




身体強化を使っていたからだろう、息もあるし見た目には血は出ていない。




まだわからないわ。




翼は呼吸を落ち着けて、魔力を繊細に操って男の子の身体を確認する。身体の中を詳細に診ていかないと…。




10分くらい集中していた翼。


内臓に出血はないみたいね、でも肋骨に何本かヒビが入っているわ…。折れて変な処に刺さらなくて良かった。




翼はこれなら命に別状はないだろうと、気絶している男の子をどうにか運ぼうと思案する。




足がやられているからバランスを取りづらい私が背負うわけにはいかないわね…。


下手に落としてしまって肋骨が折れてしまったら危ないかもしれない。




どうしましょう…。人もいなさそうだし…。




あっ、そうだわ!




翼は昨日買った体力回復薬と魔力回復薬を飲んでいく。




次に男の子の身体に負荷をかけないように温水プールくらいの温度の水球で顔だけ出して包んで浮かせた。




これなら運べるわ…。




効果があるかは解らないが、男の子の入った水球に昨日買った傷回復の薬を流して循環させる。




あとは、根性ね…。




相棒のテント棒を杖変わりに翼は歩く。


重い水球をなるべく揺らさないように集中して浮かせて運びながら…。




三時間程歩いただろうか、遠目に南門が見えてきたので翼は衛兵達にわかるように、今まで使用していなかった火球を三発空へ打ち上げる。




魔力で元素を認証する訓練を続けていたのと、火の構成はg先生で確認していたので苦労せず成功した!






そこまですると翼は疲れてバリアだけ張って座り込んでしまった。




15分程その場で待っていただろうか、ふと声がかけられる。




「新種のスライムと冒険者か…?」




「え…?」




見上げると、五人程の兵士が翼のバリアの周りを囲んでいる。




「あっ、違います。この男の子が怪我をしたので水球で包んで運んだだけです。肋骨がやられているから負荷をかけると悪化しますので。」




翼が顔を上げて説明すると、兵士は納得したようなしないような微妙な顔で頷き合う。




「では、このバリアを解いてくれるかな?」




「あっ、忘れていました申し訳ないです…。」




翼がバリアを解いて男の子を包んでいた水球を静かに消す。




「この男の名前は?」




「あっ、たまたま草原で出会ったので知りません。」




「そうか、何故怪我をしているか知ってるかい?」




「はい。猪に追いかけられていたようです。走っている途中に運悪く進行方向へいた私と出会ってしまって…私を庇うために無理に猪へ向かっていってくれて怪我をして…」




「そうか、わかった。猪はどうなった?」




「はい、私があまりに驚いてしまって命の危機からでしょう、普段では出ない派手な魔法を撃ってしまい。猪は驚いて森へ逃げていきました。」




ラケットでしばきまわして薙刀でぶっ刺した何て言えるわけがない。




「…そうか。念のため後日話を聞きに行くが良いか?」




「はい、すずめの宿に泊まっていますので、必要があればそちらへ。」




「あぁ、まぁ災難だったな。」


嘘をついている様には見えなかったのだろう。


ボロボロの翼を気づかって、兵士は男の子を抱き上げた。




「こいつを運んでやれ。他のやつは猪について報告。今日は城門の警備を念入りにするように!」




ずっと翼に話かけていた壮年の兵士は、部下の兵士にテキパキと指示をだすと




「君も足を怪我しているね、運んであげるよ。」




「いや、杖があるんで大丈夫です…。」




いくらおばちゃんでも、流石に意識がある状態で兵士に抱き上げられるのは恥ずかしい。




すると




「あぁ、そいつなら俺が運んでやるさ。」




いつの間にか騒ぎを聞きつけたのだろう、冒険者ギルドの黒服さんが翼の側へ立っていた。




「あっ、黒服さん。昨日ぶりです。」


気配がわからなかったのでちょっとびっくりする翼。




「あぁ、昨日ぶり。死体にはなっていない様だな。」




「えぇ、何とか(苦笑)」




にやっと笑うと黒服さんは翼の痛めていた足を確認して、




「捻挫だな。安静に休めば直ぐに治る。おぶされ。」




有無を言わさない態度で翼の前にしゃがんで背中を向ける。


翼も姫抱っこよりはましだろうと、素直に背中に掴まって兵士さんへお礼を言う。




「そいつの知り合いだったのか、なら任せておく。」


兵士さんと黒服さんは知り合いなのだろう、軽く頷き合うとさっさと南門へ歩きだす。




慌てた翼はもう一度、兵士達にお礼を告げると笑いながらお大事にと手を振ってくれた。






「…新種のスライムと杖をついた女冒険者ね(笑)」


黒服さんの背中はくつくつと笑っている。




「もう!」翼は軽く黒服さんの肩を叩いて、小さく「ありがとう」と呟いて大人しく背負われておいた。






宿に帰ったらおかみさんに叱られた。


薬師の人にもらった布湿布を張り付けて包帯を巻くと、絶対に安静にするようにともう一度こっぴどく説教を受けた。


こんな歳にもなって怒られるのは恥ずかしいが心配してくれているので仕方ないし少し嬉しい。




黒服さんはそれを見てまたくつくつと笑って帰っていった。




おかみさんが部屋まで食事を運んでくれたのでそれを食べると安心したのかあっという間に眠ってしまった。




身体もっと鍛えないとなぁと次の鍛練メニューを考えている翼はあまり懲りていないみたいだった。


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