第11章



街について3日目の朝。


日課の魔力操作を終えて、おかみさんとのんびり談話してからリュックを背負って出かける。




今日は最初から東側の森へ向かって昨日と同じ場所で鍛錬をする。


昼前までにモンスと蜂の魔物の魔石が手に入ったので、翼はお昼ご飯を食べに冒険者ギルドに寄っていた。




「こんにちは。今日も買い取りお願いします。」


カレンさんの受付へ足を運んでモンスと蜂の魔石25個を渡す。




「ツバサさんこんにちは!魔石ですね、お預かりします。」


カレンさんは真面目な顔をして魔石を調べて清算してくれる。


お金は銀貨2枚程になったので宿代が稼げて特に問題はない。良かった良かった。




「ツバサさん今日の狩りはもう終わりですか?」


「ええ、お昼ご飯はここで食べますが、後は南の商店を見て回ろうかと思ってるのよ。」


まぁ、ここでなら森に危険がないか等、何かしらの情報も早いだろうとお昼はギルドで食べると決めている翼。




「そうなんですね、ご苦労様でした。また明日もこられますか?」


カレンさんは来てほしそうな顔をしている。




「ええ、毎日鍛錬をしているので、魔石が集まればまた寄りますよ。」


「わかりました。お待ちしております。」




ちょっとはにかんで笑うカレンさん。この娘の笑顔は素直に可愛い、癒しだわ~。


いつも疲れた顔をしているけれど、いつかこの娘を守ってくれる優しいお人に出会えるようおばちゃんは心の底から願っているよ(泣)


そして子供が生まれたらおばちゃんが服を縫ってあげるからね・・。ヨヨヨ


そんなことを密かに涙ぐみながら思って食堂へ向かう。




今日は鍛錬をした後だからお腹も空いている。煮込みシチューなるメニューがあったので、それを頼んで今日もソロご飯をしている黒服さんの前に座る。




「森はどうでした?」


黒服さんが食事に目を向けながら話しかけてくれる。




「ええ、そこまで深く入っていないので宿代を稼げるくらいには倒せましたよ。」


「それは良かったです。」


黒服さんは行方不明者を探す人員なんだろうと推測しながら翼はシチューを食べ進める。




時折ぽつぽつと狩りについて喋りながらお互いゆっくりと食べていると・・・。






ガシャーーーーーン!!




え??!!




受付の方で何やら揉め事が起きているようだ・・。




よくよく見れば猫耳娘さんの受付で細い男の子がでかい斧を手に持ったいかにもながたいの良い冒険者を殴り飛ばしているみたい。




「えーっと・・・。テンプレかしら・・?」




「テンプレ?」




「いや、何でもないです。揉めてるみたいですね(汗)」


二人でやんやんやと騒いでいる受付を眺める。




「まぁー・・見たところ、相手の力量も考えずに喧嘩を吹っ掛けた小物がのされているようですね。」




「えぇ、なんだかそのようですね・・。あっ、もう一人吹っ飛ばされましたね・・。」




「はは、あの男の子は身体強化に優れているようですし、体がでかいだけの彼らでは相手にならないでしょうね。」


何かを感じ取っているように細い男の子を観察して黒服さんは答えてくれる。




「なるほど、身体強化ですか・・魔力をで体を纏うだけでは難しそうですね、細胞を活性化させるのかな?反動がきつそうで私にはまだ使いこなせそうにないですね。」




「はは、貴方も変わったシールドを身体に纏っているじゃないですか。そちらの方が使いこなすのが難しそうですよ。」


黒服さんは串焼きをモグモグしながらにやりと目を細める。




「ええ、女で一人旅をするには丁度良い盾ですよ。」


そう言ってにっこり微笑んでおく。




「そうなんですね、それはそれは。」


まいったというように手を挙げて黒服さんはもう一度騒動の方へ眼をやった。




「そろそろ決着がつきそうですよ。」




その言葉に翼がもう一度目を向けると・・






やめなさーーーーい!!!!!!!








いつもは可愛い猫娘さんがでっかいハンマーを持ち出してギルドの石の床へ穴をあけた。




『あーあ・・』




二人、同じ言葉でハモル。




そして騒動の当事者達は正座をさせられて、これでもかとネチネチと説教をくらっている。




「流石、受付嬢ですね。」


「ええ、獣人の方は力が強いですからね、あれで済んでまだ良い方ですよ。」




なるほど、彼女たちを怒らせないようにしようと翼は一人納得して最後のシチューを飲み干す。




「そういえば、図書館には魔物についての本があるでしょうか?」


翼は魔物図鑑があれば良いなぁと聞いてみる。




「それだったらここの2階に資料室があるので、そこに全ギルドから集められた最新の魔物図鑑があるはずです。」




「お~、それは良いですね。また来た時にでも確認してみます。」


「ええ、事前に魔物について知っておくことはとても大切です。顔を知ってしまった相手の死体を持って帰るのは目覚めが悪いですからね。」


そう言うと、黒服さんはため息をついて遠くを見る。




「そうですね、なるべくそうならないように気を付けます(苦笑)」


なんか苦労してそうな人だなと翼は笑って、ではまたと席を立つ。




「あ、そういえば。最近イノシシの魔物が増えてきているようなので明日も森へ行くようなら気を付けてくださいね。」


「え?猪ですか・・それは倒すのに力が要りそうですね。教えてくれてありがとうございます。あまり深くまで入らないように気を付けます。」


「ええ。夜行性なので朝活動しているなら大丈夫だと思いますが、お気をつけください。」


翼は黒服さんへペコリと頭を下げるとわかったというように手を上げたので出口の扉へ歩いていった。




こっちの世界の猪は大きいんだろうねぇ、とまだ説教されている冒険者達の後ろを通って・・・。




強く生きろ。若者よ。




と心の中で応援しながら扉へ向かった。






ギルドを出て、南街道へ入ると商業ギルドが直ぐに見つかったので取り合えず掲示板を眺めてみる。




今の所、売れる品はないわね。水晶は魔力が込められると聞いたから手元に残しておくことにした翼。




あまりすることもないので受付には向かわず、おかみさんに教えてもらった薬屋へ向かってみる。




店内は狭いけれど、色々な種類のポーションが置いてあるようだ。




奥にはうつらうつらと眠そうなおばあちゃん。




傷回復(中)銀貨1枚と毒回復(中)銅貨20枚と魔力回復(中)銅貨40枚を一本ずつ手に持っておばあちゃんに声をかけてお金を払う。




傷薬は傷に直接かけること、毒回復と魔力回復薬は服薬したほうが良いことを教えてもらう。




ついでに調薬についての本があったので銀貨10枚と高かったが、種類が沢山載っていたので購入をしておき、足りない素材はないかと聞いてみると、アロロンがあれば欲しいといってくれたので1本売ってあげた。




薬屋を出ると隣が衣料品店だったので中に入ってみる。


下着とタオル用の布を数枚、後はおしゃれ着がなかったので青のロングスカート1着と白のブラウスを購入しておく。


実はアイテムボックスにそれなりのワンピース(黒のセクシーなマーメイド型と白の清純そうなふわふわ型と水色の小花柄がついた膝丈)が入っていたのだが、流石にこれはまだ着る機会がなさそうなので普通の町娘のような服を選んでおいた。


てか、これは神様の趣味でしょうね・・間違ってはないけれど、違うのよ・・。ありがたいけれども(苦笑)




おしゃれ着の値段はどちらも銀貨1枚と安くはなかったが、この世界の生産率を考えれば仕方なさそうだ。


ついでに皮の肩掛けバックも購入しておく、これは魔物がいる世界だからかこちらはそこまで高くなかった。


図書館に行くときにでも着てみましょうかね。






近くに雑貨屋もあった。バレッタと蜂蜜配合のリップクリームとヘチマ水があったので購入しておく。


若い身体はこれで充分でしょう!化粧品にお金がかからないってほんっっとうに素晴らしいわ!


翼はかつての基礎化粧品代を思い出して遠い目をしながら喜んだ。






明日は森には行けそうにないから、草原にむかいましょうかね。帰りにおかみさんに教えてもらった魔道具店を見てみましょう。




誰のことも気にせず思いのままに買い物を楽しんだ翼はご機嫌なまま宿について食事と身支度を済ますと、こっそりと神様ワンピースを着て変な笑いを起こしてからベッドに入ったのであった。




神様・・・胸のサイズが日本人じゃないよ・・これも趣味でしょ!




まぁ、ありがたい?けどね!!!




変な感謝をして眠ったのであった。






一方その頃、異世界の神様が日本から帰る為に日本の神様と平和にお別れしようとしていたところであった。






「貴方は大和撫子の意味をもう少し理解したと思っていましたがね・・(にっこり)」




「い・・いや・・・その・・すいませんっした!!!では!!!また遊びに来ます!!!」




・・・・・。仕方ないですね・・。




なんだかんだ言っても若い異世界神が可愛いのでしょう。結局許してしまう日本の神様であったとかなかったとか。

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