第10章



広場でしばし休憩をしてから翼は東にある冒険者ギルドを目指す。




時間的にも混んでなさそうね、ギルド証はもう作ってあるし念のため身体に薄めのバリアを貼るくらいで良いでしょう。




少し歩くと石造りで丸い屋根の広い建物が見えてきた。


ドラゴンと剣の看板がついているしあれっぽいわね




翼はそのままゆっくりとギルドの扉を開いた。




中に入るとどうやら2階建てのようで、ぱっと見、一階に受付と待合所と食堂。二階は資料室と事務所等があるようだ。


思った通り、人はそこまで多くない。


職員は受付に3名いて、猫耳がついている女の子もいる。


ほーあれが噂の獣人さんかねぇ、愛らしいわ。


おちゃこ(飼い猫)を思い出すわぁ!


にこにこと冒険者らしき人を相手にしており、人気のようだ。


その隣には狐耳の美人さん。スタイル抜群で冒険者がデレデレと対応してもらっているので、こちらも人気なようだ。


あらあら、いつの世も男の子ってしょうがないわね(笑)




最後はショートカットに眼鏡をしている清涼感のある女の子。受付は空いているようだが、てきぱきと手元を動かして仕事をこなしている。


一生懸命働いているのね。えらいわぁ、ご飯ちゃんと食べれてるのかな?


おばちゃんには若い子の栄養状態を見破る観察眼が備わっているので、勿論この世界でも疲れている若者は見過ごせない。




じゃぁ、せっかくだから空いている受付にいきますかね。




「こんにちは。素材の買い取りお願いできますか?」


翼はそう言うと、マルチギルド証を出して用意していたラビットの毛皮30枚と角を30本。モスンの魔石20個を受付に置く。




「はい。受付させて頂きますね、マルチギルド証をお預かりします。」


こうしてギルド証を青い半透明な四角い板の上に置く。


「こちらのギルドは初めてですね、素材の査定後にランクを決めさせて頂きますが宜しいでしょうか。」


「ええ。結構ですよ、旅の合間に集める素材なので、ランクは最初からで結構ですよ。」




「そうでしたか、わかりました。ではランクは最初のFにさせてもらいますね。実績を積まれましたらF~Aランク、それからその上にあるSランクまで上がります。では、素材の保存方法もきちんとされてますし、そのままの値段で買い取りさせて頂きます。」




ま、そりゃアイテムボックスのおかげなんですけどね。と翼は了承して苦笑しながら素早く査定を済ませてくれる女性の手元を眺めていた。




「ラビットの毛皮は銅貨3枚、角が2枚。モスンの魔石は銅貨30枚で買い取りさせて頂きますね。」




「わかりました。後、この街にはもう少し滞在する予定なので出来そうな依頼は受けると思います。良ければギルドの規約を記した紙等ありますか?」




「それでしたら、依頼掲示板の隣にある看板へ記されています。あまりきちんと読まれる方はいらっしゃらないのですが、大切なことなので確認して下さって良かったです。」




「あはは、まぁ仕方ないですね。良ければこの街にいる間にまたお世話になると思いますのでお名前聞かせてもらっても良いですか?」




「失礼しました、私はカレンと申します。ツバサさんですね、状態の良い素材を持ってきて下さるのはとてもありがたいです。お待ちしておりますね。解体が必要ならギルドの庭にある解体所へ直接持参されて構わないので無理のない程度にご利用下さい。」




「カレンさんですね。ありがとうございます。では宜しくお願いします。」




疲れているのだろう。少し青白い顔色に隈もできていた。


真面目な娘なんだろうなぁ、苦労するだろうけどがんばってね。とおばちゃんは慈愛の微笑みで返して掲示板まで進んでいった。




掲示板の前には人はもういなかったので、のんびりと依頼を眺めていった。


やっぱり薬草は薬師ギルドの方が買取額が良いわね。


討伐系はこっちの方が良いみたい。肉の買い取りもあるようだし。


魔石はまだ商業ギルドに行ってないからわからないけれど、名前的に強そうな魔物だと金貨もでるようね。


他にも、掃除や城壁修復、子守りの依頼もあるようだし、冒険者ギルドといっても何でも屋さんみたいなのね…。




翼は色々な依頼を眺めながら自分に出来そうな依頼を覚えていって隣にある規約を読んでみた。




要約すると、


冒険者は自己責任だから無理な依頼を受けないように。


酷い揉め事や人に危害を加えるとギルド追放の上、国に裁かれますよ。ってとこかしら。


Bランクからは指名依頼が入るのでなるべく断らないでとやんわり書いてもあるわね。




フムフムと翼は規約の前で1人頷いている。




食堂の方からたまにチラっと視線を感じるけれど、基本は受付嬢に人気がいっている状態なので直ぐに視線は外されて、翼はあまり気にしていない。




流石、荒くれちゃん達を相手にする娘達だわ。ちゃんと役割を考えて配置してるんでしょうね。




翼は大きな街のギルドで受付嬢に手玉を取られて嬉しそうに話している冒険者達を見ると、さらっと応援を送りながら食堂へ向かっていった。








食堂は広く、メニューは割りと充実しているようだ。


男の従業員が多いようで食べている人を見ると量も多いしお酒もあるみたいだ。




さて、量が多そうだからサンドイッチとスープで良いかしらねぇ。なんてのんびりメニューを見つめてカウンターに注文する。




あっという間に作ってくれた食事を受け取って、はて。何処に座ろうかしらと辺りを見回す。




奥の方には毎日飲んでいそうな歳をとった冒険者がポツポツと座ってお酒を飲んでいる。




手前には若いグループ、今日の仕事はないのだろう。楽しそうに狩りについて話している。




中間にはソロっぽい人が何人か、黙々と食事をしている。




結局、翼は年季の入ったダガーを腰につけている黒服のソロっぽい人の前に座ってご飯を食べる。


髪の毛も黒髪なので親近感があったのだ。




黒服さんは一瞬ちらっと翼を見たが気にせず食事をしている。




「東側に森の裾があるようですが、あそこは狩りをする必要がある魔物はでますかね。」


翼は食事に視線を落としながら話しかけてみる。




「あぁ。東側の森なら初心者向けの魔物がたまに出てくるな、湖の近くには蛙の魔物がいて毒を吐くぞ。」


黒服の人も視線を食事に落としたまま話してくれる。




「なるほど、ありがとうございます。魔物の分布的には東側が一番多いですかね。」


翼は続けて食事をしながらなんともなしに話していく。




「あぁ、そうだな。南の草原を奥に進んでもそれなりに魔物はでるが、東側の森が一番多いだろう。あまり奥に行きすぎると狼や猪や熊の魔物も出るから気を付けるんだな。」


「わかりました。ありがとうございます。」


最後にゆっくりと彼と眼を合わせてお礼を言う。




「あぁ、別に構わない。何も知らずに突っ込んでいっても捜索に手間がかかるだけだからな、気になることがあるなら聞いておく方が良いさ。」




目が合うと、金色の眼が少し笑っているように見えた。翼はゆっくりと微笑み返して、後は邪魔をしないよう黙って食事をした。去り際にりんごと水晶を置いて席を立つ。




「どうぞ、あまり良い品ではないですが私の旅のお気に入りです。」




「水晶は魔力を貯めれるので何個あってもいいさ。りんごは知り合いの魔法使いが喜ぶ。ありがとう。」


貰った水晶を手に納めながら黒服さんはお礼を告げてくれる。




「いえ、こちらこそ情報助かりました。ありがとうございます。」


翼はにこっと小さく会釈をしてその場を離れる。




他の客が若い娘の動向を少し気にしていたが、黒服さんが周りを威圧して納めてくれていたので悪い人ではないのだろう。


くすっと笑ってもう一度、遠くから会釈をしておく。


気にするなというように手をあげたので片手チョップスタイルでごめんねを伝えて扉に向かう。




扉の前でカレンさんと目が合ったので、若い娘らしく小さく手を振り合って冒険者ギルドを後にした。










翼はそのまま、東側の門へ向かって森の裾に入っていった。


今日はまだ薙刀の鍛練が出来ていないので、薬草でも探しながら刀を振るえる場所をさがして歩くと20分くらいで少し開けた場所にたどり着いた。




特に他に人もいなさそうなので集中して薙刀の鍛練を繰り返していく。


時折バリアにぶつかってくるスライムがいたので核をついて倒していく。




そのまま鍛練を繰り返すと途中でモンスも出て来たのでラケットでビシバシ倒していく。


三時間程鍛練をしていると、山道を街に帰って行く冒者達も見かけるようになり、良い汗もかけたので明日は湖に行くかなと遠くを眺めながら翼も街へ帰ることにする。




あ~。私、冒険者してるわぁ~~。


とポーカーフェイスのまま心の中で小躍りして冒険者ギルドへの道を歩く。




カレンさんの受付は少し混んでいたが、他の二人程ではなかったので、手早くモンスの魔石を精算してもらう。


おかえりなさいと言ってもらえて翼もただいまと嬉しそうに微笑んで二人で笑い合う。




ギルドを出て宿に帰る道、帰宅者達に紛れながら私も異世界人の仲間だねぇと感慨深く歩いていた。


みんなお疲れ様だよー。なんてのんきに川を眺めながら。




中央に近づくと橋の近くで立派な鎧を着た騎士が巡回をしているのだろう、数人で歩いている。




距離が近づくと、その中の1人が昨日の絵描きさんだったことにお互いに気付いた。


仕事中みたいなので軽く敬礼のようにオデコに手を上げてみると向こうもイタズラが見つかった様な顔をしてサッと同じように返してくれたので翼もにやりと笑ってそのまま通り過ぎる。




やっぱり良いとこの子だわねぇ。とひとりごちて宿に辿り着く。




おかみさんに鍵をもらうと夕食が出来ているとのことで、今日はウサギのソテーとスープとサラダとパンを頂いた。




とても美味しかったことを告げるとおかみさんは嬉しそうに旦那が料理上手なんだと顔を赤らめて教えてくれた。




いくつになっても女性は可愛いなぁ。とにまにましながら部屋に入る。




汚れた服と身体を清めて、ベッドに入ると魔力操作をして体内バランスを整える。


一時間程したら眠くなったので今日も早めの就寝。




明日は商業ギルドも見てみようと予定を立ててゆっくり夢に入っていった。

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