第9章



いつも通り空が白み始めた頃に翼は目が覚めた。


久しぶりのベットで寝たので二度寝がしたい所ではありますが・・




異世界に来てからの習慣で身体を動かさないと気持ちが悪い。ということで軽く柔軟をして体をほぐしてからロッキングチェアの上で座禅を組む。


窓の外の景色を薄目で視線を定めず眺めながら意識を飛ばして瞑想。周りが気にならなくなった頃にゆっくりとチャクラを意識して魔力操作をする。


繊細にバリアを操作しながら柔らかい風を起こしたり水球を掌で浮かせて自分の魔力を調整していく。




陽が完全に顔をだして眼下にちらほらと人が出勤していくのに気づくまで、翼は念入りに瞑想をしていた。




さて、朝ごはんを頂いたら出かけようかね。




1階に降りて食堂の庭にあるテーブル席に腰掛けると、昨日のおばちゃんがスープとパンとミルクを持ってきてくれる。




「おはようございます。」




「おはよう!よく眠れたかい?」




「ええ。美味しいご飯も食べれましたし、昨日はぐっすり眠ってとても気持ちの良い朝でした。出来れば後10日程、宿泊を延長したいのですが大丈夫ですか?」




「かまわないよ!気に入ってくれてありがとうね。」


翼はそのまま嬉しそうに笑っているおばちゃんへ銀貨20枚を渡して質問をしていく。




「そういえば、旅の途中で手に入れた薬草や素材を売りたいのですが。どこのギルドどの素材を持って行くのが良いですかね。」




「そうさね、薬になりそうな素材なら薬師ギルド。橋を渡って直ぐ右手側に建物があるよ。魔物の素材なら冒険者ギルド。川沿いに東側に歩いていくと屋根が丸い大きな建物が見えてくるからそこへ行くと良い。鉱石や珍しい食べ物があるなら商業ギルドだね、中央広場の南街道入口に建物があるよ」




「なるほど、わかりやすく説明してくれてありがとうございます。」




「まぁ、薬草や魔石なんかは薬屋や魔道具屋とかでも買い取ってくれるから気に入った店があれば交渉してみるのも良いかもね」




「それもそうですね。おかみさんおススメのお店とかありますか?」




「それなら薬屋なら南街道にある小さいけれど熟練の薬師のおばあちゃんがいるお店が良いよ。」


翼は昨日もらった絵描きさんの地図を取り出して聞いた場所を簡単に道を書き足して印をつけておく。




「魔道具の方は貴族街にあるからねぇ、でも南街道にもちょっと変わったお嬢さんが作ってる店があるんだけど良くわからない商品も多いから気になるならいってみると良いよ!」


そういっておばちゃんは翼の地図へ指をさしてくれたので、そちらも印をつけておく。




「ありがとうございます!助かりました。」




「いいさいいさ、また何かわからないことがあれば遠慮なく聞いておくれ!」




根っからの世話焼きおばちゃんなのであろう。若い翼にも値踏みすることなく話してくれるのでありがたい。




翼は部屋に帰ると、ささっと布を濡らして身体を拭く。出かけるつもりなので、バレーボールくらいの温水玉を浮かせて頭をつっこんで洗髪を済ませる。ついでに下着類も温水玉で洗浄して窓際のロッキングチェアのひじ掛けにかけておく。


ささっと髪の毛を乾かすと、サイドの髪を編み込んで後ろで一つに結んでおく。朝方、井戸の側で見た鏡で自分が桃黒色の毒プリンになっていることに気づいていたので、これで少しはましになったと思いたい。




はぁ・・若気の至りってね、もう少し黒が増えたらそこまで違和感はないと思うのだけれど・・当分は帽子が手放せないわね。


色とりどりの髪色をした若い頃の友人達を思い出しながら翼は苦笑した。あれはあれで、楽しい思い出なのだ。




翼はおかみさんに鍵を渡し、腰にダガーをつけてリュックを背負って出かける。




天気も良くどこからかパンを焼く匂いもして気持ちの良い朝だ。このまま川沿いに出ている露店を冷やかしながら、中央に向けてのんびり歩いていくことにした。






まずは教会へ行って、礼拝堂に入ってみる。




3体の像が並んでおり、真ん中と右側が女神様。左側にローブを着た男神がいたので、多分この方が私に第二の人生を下さった神様でしょう。


左側の列にある椅子に座ってまずは無事に街にたどり着いたことを報告して感謝を込めてお祈りする。




10分程、若い身体で冒険できたことがとても楽しかった等をつらつらと報告していると、脳裏に翼自作の納豆を持って苦笑いを浮かべた神様が手を振っているのが浮かんできた。




思わずくすっと笑いながら、無暗に奇跡など起こさず、旅をさせてくれる神様にもう一度感謝して教会を後にした。






さてと、じゃあまずは一番お世話になりそうな薬師ギルドにいきますかね。




橋を渡って直ぐ右というくらいだからそこまで貴族街に入ることもないだろうと、物陰でアイテムボックスから薬草を1束ずつ取り出して、根の部分に小さな水球をつけて薬袋に入れておいた。




重厚な木造建築に薬の絵が描いてある看板を掲げている薬師ギルドは、落ち着いた雰囲気。




入口にいる若い職員に旅の途中に手に入れた素材を持参したことを告げると、木製の待合札をもらったので、翼は受付前のベンチ横にある掲示板を何気なく眺めながら順番を待つことにした。




ふむふむ、おおよそ私が採取した薬草は買い取り可能のようね、10本一束というのも受け取り額にそのまま書いてあるようだしまとめておいて良かったわ。




でも、まだまだ見慣れない素材も沢山あるようだし、これから採取できたら良いわね。




おおよその値段はこの通り。




・ポインズ:1束 銅貨20枚


・ヨモモギ:1束 銅貨10枚


・アロロン:1本 銀貨4枚


・ドクダンミ:1束 銅貨10枚


・ミントト:1束 銅貨20枚




銅貨50枚 → 銀貨1枚 


銀貨200枚 → 金貨1枚




銅貨1枚100円・銀貨1枚5千円・金貨1枚100万円ってとこかしらね。




この辺りではアロロンが珍しいのかしら、良い値段がしているわ。






翼があれこれ考えながら掲示板を見つめていると、順番になったようで数字を呼ばれた。




「ようこそ、薬師ギルドへ。素材受付担当のエリーです。」




「おはようございます。旅の途中で集めた素材を売りにきました。」


エリーさんは濃い緑の髪の毛に金色の目をした優しそうな女の人だ。




「ありがとうございます。ギルド証をお持ちでしょうか?」




「いいえ、ギルド証は持っていません。後で冒険者ギルドにも魔物の素材を持参する予定なのですが、重複登録をした方が良いでしょうか?」




「それでしたら、マルチギルド証を登録されると良いでしょう。薬師・冒険者・商人ギルドを各ランク毎にまとめて記載でき、どの国でも共通仕様となりますので便利かと。」




「なるほど、それでしたら便利そうですね。旅をすることが多いので素材がたまると動きづらくなりますので(苦笑」




「ギルドまで持ち込んで下さるだけでも助かります。マルチギルド証の登録は、この薬師ギルドでもできますのでこのまま登録手続きをされますでしょうか。」




あれこれ考えすぎるより普通にしておいた方が良いだろうと、翼は登録することにした。




「はい。お願いします。」


エリーさんは門で見たような水晶の小さいバージョンを取り出してここに手を乗せるように伝えてくる。




水晶は少し光ったが。翼はステータス画面を隠蔽しているので、特に騒がれることもなくそのまま翼のマルチギルド証を作成するように別の職員へ水晶玉を渡してお願いしている。




「では、素材を見させてもらってもよろしいでしょうか?」




「はい、お願いします。」


翼は先程用意した薬草を丁寧に受付に並べていく。




「水魔法をこの様に使っていただけるのはありがたいですね。薬草が新鮮なので助かります。」


根についている小さな水球を眺めてエリーさんは嬉しそうに翼の薬草を受け取ってくれた。




「祖母が趣味で薬を作っていたので、薬草の管理には厳しく育てられましたから。」


園芸が趣味だった祖母を思い出して翼は答える。




「なるほど、素敵なおばあ様ですね、ありがたいことです。また薬草が見つかりましたら是非お願いしますね。」


エリーさんは翼が渡した薬草を、近くにあったバケツへそっと移して清算したお金を渡してくれる。




そうしているとマルチギルド証ができて、シルバー色で薬師ギルド所属Ⅾランクと記載されていた。




「本当はFランクから始まるのですが、状態も良く種類も多くいただけましたので、Ⅾランクからとさせていただきました。」


エリーさんはにっこり笑ってまたきてくださいね。と嬉しそうに手を振っている。




翼はこれくらいの魔法ならチートにならないことに安心し、最初に薬師ギルドを選んだのは正解だっただろうと橋を渡って広場に戻っていった。




きっとエリーさんは薬草が本当に好きなんだろうな。姿形は違うけれど、祖母を思い出しながら中央広場のベンチに腰かけた。




ふぅ、せっかく丈夫な身体を頂いたからね。途中で病気で動けなくなるよりは薬師ギルドに恩を売っておいた方が良いでしょう。


元気があれば、人生なんていつでも取り返せるしね!




おばちゃんだった翼にとってギルドの職員なんてのは娘のような存在だ、一生懸命働いているのを見るだけでも可愛いのだろう。


初めてもらったマルチギルド証に紐をつけて首から下げて服の中に入れておく。




これで一先ず仕事には困りそうにないね。魔法やスキルをくれた神様ありがとうね。




そういって人知れず手を合わせてもう一度神様にお礼を言っておく。

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