第8章
さて、夜があけて街道を目指した翼。
徐々に目指す街が見えてくる。
城壁は10mはありそうなほど高く城壁の外、西側の道には街道にそって畑や牧場をもつ家がぽつぽつと続いているようだ。
東側の道は森の裾、林のようになっている。北側はこちらからは見えないが遠くの方で街道が続いているのでどこかの村か街へ続いているのだろう。
城壁の中は、本当に中世ヨーロッパのようだ、北から続いているであろう川を中心に白い石づくりの家が立ち並んでいる。
街の中心には広場があるようで、北側からは大き目な川が街の中心に向かって流れている。
中心には昔行ったことのあるヨーロッパにあるような尖った棟のある大きな建物があるのであれは教会なんだろう。
比較的平民の方が住んでいそうな家は、隣同士を一つの石壁で繋げており、長屋のように沢山の家が立ち並んでいる。
2階建ての家もめずらしくなく、発展しているのであろうことが遠目からでもわかる。
この草原をまっすぐ突き進むと、南の街道が一番近いようでさまざまな人や馬車が行き来している。
さて、さらっと人に混ざりますかね。
翼はトレンチコートとズボンにリュックを背負い帽子を被ってからアイテムボックスにしまっていたテントに使った棒を杖変わりに街頭に向かって歩き出す。
街道に近づくとさも草原でちょっと薬草を探していましたよという感じで人々の波に交じっていく。
特に誰も翼を気にするようなことはなかったので一安心。
服装は綿や麻の人が多いわね、冒険者ぽい人は毛皮やら鎧やらローブを着ている。
馬車に乗っている商人らしき人は、中世ぽく仕立ての良いジャケットにぴちっとしたズボンを履いてとんがったブーツを履いている。
それなりの格好をするにはやっぱりお金がかかりそうね・・。
安価で質の良い服が手に入った日本は恵まれていたのであろう。
そのまま翼が城門に近づくと、見上げるように重厚な門が青空いっぱいに開けていた。
ほえ~~~すごいわね・・。ザ 異世界 !!って感じだわ・・。
門は木と鉄でできており両端には衛兵が立って城門側の城壁の上にも兵士がいる。
城壁の上には所々に監視塔のような場所も見受けられるので魔物の襲撃にも対応しているのだろう。
門の前には駅の改札のようなゲートが5つ程設置してあって、水晶玉に手をかざさなければいけないようだ。
翼の前にいたご老人に尋ねると、犯罪歴があると色が変化するので特に変化がなければそのまま通過してかまわないとのこと。
まぁ、これだけの人数の身分証を一々確認してたら切りがないからね・・・意外にハイテクだわ。遊園地の入場口みたいだもの・・。
特に問題なく門を抜けると、中央に続くであろう道は広く、馬車が2台すれ違うこともできそうだ。
南門付近には道沿いに商店や飲食店が並んでいて、その裏手には住宅が一段高い場所に並んでいる。
翼は石畳の道の端を商店や飲食店をゆっくり見回しながら歩いていく。
良いわね~~!お土産屋さんや軽食なんかを売っているお店も多いし、人々の交流が盛んな証拠かな?取り合えず、ジロジロ観察されたり喧嘩を売られるようなことはなさそうで安心する。
ゴミや汚水もなく、貴族街ではなくとも道は綺麗なので少なくとも下水管理は出来ていそうだわ・・いきなり上から汚水がふってくるかもと身構えていたのだけど・・大丈夫そうね。
それでも帽子は一応かぶっておくけど!
そのままゆっくりと、美味しそうなお店や役に立ちそうな商店の位置を脳内に覚えるようにして中央の広場へ向かう。
街の中央につくと、真ん中には噴水と芝生の広場があり奥には白い階段があって少し高い位置に教会が建っていた。
広場や階段には人々が好きなように座ってご飯を食べたりチェスのようなゲームをしていたり談話をしていたりで教会へは沢山の人が礼拝堂らしき所で祈っているようだ。
広場から北側に行くには川が横切っているので大きな橋を通る必要がありそうだ。橋の向こうには大き目の家が見えるのでやはり貴族街だろう。門等はないが、今は特に行く必要はなさそうである。
川は広いので小船も通っているし川に沿ってぽつぽつとベンチが置いてあり、恋人達や母子なんかが座っている。
ふと見ると、キャンバスに絵を書いている人がいたので、少し近づいてみると川と教会を描いていた。
翼は広場で売っていた果物ジュースを竹の水筒にいれてもらい、さっき見た若い青年絵描きの側にあるベンチに腰掛けてりんごをかじった。
「綺麗な絵ですね、絵描きさんですか?趣味でやられているんですか?」
白のシャツにズボンとラフな格好をしているけれど、身体つきが良く質が良い服をきているので衣食住が足りている人であろうと少し話しかけてみる。
「はは、僕の絵は趣味でやってます。珍しいりんごを食べていますね。旅人さんですか?」
芸術を好む人らしく柔和な笑顔で答えてくれる。特に探りを入れているようではなく何となくしゃべっているようだ。
「ええ、気の向くままに旅をしています。この街には今日が初めてです。」
そう言ってりんごを一つ差し出す。
「ありがとうございます。このりんごすっぱいけれど癖になる味で好きなんです。」
青年はシャツでキュキュッとりんごを拭いて美味しそうにかじる。
「いえいえ、私もこのりんごが気に入っているので」
しばしもくもくとりんごを食べてふふっと微笑み合う。良いところの子なんだろうなぁとお互いにおもっているようだ。
「ではお兄さん、この辺でゆっくり休めて良さそうな宿ってどこか知ってます?」
翼はにっこりと微笑みながら聞いてみる。
「美味しいりんごをごちそうしてもらいましたからね、ちょっとまってくださいね。」
青年は下に置いていた画材をごそごそ探ると、ラフに描いたのだろう一枚の絵を裏返してささっと地図を書いてすずめの宿というところを紹介してくれた。
「ありがとうございます。本日一番の旅の思い出になる絵ですね、得をいただきました。」
鉛筆描きだが、この街を描いていたのだろう味があって翼は思わず本当に嬉しそうに笑う。
「はは、またこのリンゴが手に入ったら声をかけてくれるかなと。下心付きの絵ですよ」
根は真面目な青年なのであろう、少し赤くなってはにかんでそういってくれたので、丁寧にお礼を言ってその宿に向かうことにした。
青年にもらった地図通り、そのまま川を西にむかって進むと、3階建てのレンガと木で出来た宿についた。
庭で薪を割っていたおばちゃんがいたので、一泊お願いする。銀貨2枚なのでちょうど良い値段だったので安心した。
用意してもらった部屋は3階で部屋に入ると ベットとクローゼットが一つずつ。大きな窓があり窓際にはロッキングチェアが置いてあって、目の前に川が見える。
翼はひとまずクローゼットにリュックを置いてロッキングチェアに腰掛けて外を見る。
夕方に差しかかった川がオレンジ色に染まって綺麗だ。下を見ると人々が帰宅しているのだろう、疲れた切った顔も見せず笑顔で家路についているようだ。
労働条件もそこまで悪くないようね、良かった。
翼はそんなことを思いながらしばし飽きもせずに外の景色を見た。
私、本当に異世界にきたんだ・・・。
野宿ではないので、魔物の脅威から解放された気持ちもあるのだろう。初めて異世界に来た日よりも存分に、生まれ変わった自分を噛みしめていた。
夜にはパンと少し肉の入ったスープとミルクをもらい、本当に久しぶりにバリアを解いてゆっくりと眠った。
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