第4章


異世界生活4日目




翼は涙を流しながら目が覚めた・・。




昨晩現れてくれたご先祖様。活発で薙刀を振り回す方が好きなお転婆な姫であったが、彼女が13歳になる頃には父上が戦に負けて一族で小さな集落のそのまた奥へ逃げて行った。


苦しい生活で一から村を開墾していき生活は一変した。そんな中、村の若者とひっそりと祝言を上げ、慎ましい優しい旦那様と一緒に貧しいながらも幸せな時間を過ごして翌年、赤子を一人もうけた。


しかし産後の肥立ちが悪く医者にかかろうにも人里とはずっと離れた山奥の村。どうすることもできずにあっけなくこの世を去っていった。


どうかこの子が幸せになれますように・・。彼女の最後は抱くこともかなわない子供への願いだけであった。




異世界まで私を助けにきてくれてありがとうございます。翼は残された子供の遠い子孫。お姫様に感謝の気持ちを込めて異世界の太陽に向かって手を合わせた。




ふぅ。母としての子を思う心がどれだけのものか知っている翼にとっては辛い記憶の継承であったが平和な時代を過ごした自分には必要なことであったと思う。


深く深く深呼吸をして、姫様が見たこともないであろう異世界の草原や朝日の景色をしっかりと見つめてアイテムボックスより薙刀を取り出した。




わかる・・わかるわ・・・。


昨日のまでの翼であればただ手を使って振り回していただけの薙刀。今日からはしっかりと下半身も使い、身体全体を使って重心を崩すことなく一心不乱に薙刀を振るうことができた。








ぐーっ






気づいたら太陽が頭上近くまで登っていた・・。


あらま・・朝ごはんを食べるのも忘れていたわ。


今まで武術等したこともなかった翼はつい時間を忘れて熱中していたのである。




ちょっと調子に乗ってやり過ぎてしまったようね・・。手もしびれているし、あらっこれは豆ができそうね・・でも仕方ない約束したものちゃんと毎日練習すると!


でもまずはご飯ご飯っと。翼は初日より幾分早く鍋に水を貯めると手早くお味噌汁を作って身体を動かした分お腹が大分空いてしまっているのでみそ汁が覚める間に手早くジャーキーと乾パンを3つずつをささっとあぶって全て平らげた。




ぷはーっ!お腹いっぱいだ!!




いつもより多めの昼食をとった後は軽く柔軟をしてふかふかの絨毯へ寝そべる。勿論昼寝をしてしまっても良いのだが焚火をして夜に起きているリスクが怖いので行儀が悪いが大の字に寝そべったまま魔力の循環を始める。


身体を動かしたことにより余計な力が入らないことも良かったのだろう、少しずつではあるが魔力の操作もスムーズにいくようになってきている。




やっぱり基礎って大切ね。




2時間程魔力を巡らせたり日課になっている水と風と土の魔法の理解を少しずつ進めていく。成るべくどの魔法を使う時も昨日できるようになったバリアを3mくらいの広さで展開し続けることを忘れない。




魔力の消費が少ない魔法しか使用していないけれど、これから先を考えると魔法を使いこなすことに慣れていかないといけないわね・・本当ならゲームで見たことのある技も使える様にしてみたいところだが、敢えて翼は属性魔法を深く理解して使いこなせるようになるまで手を出さないと決めていたのである。




4日目の翼はこのように魔法と薙刀の練習を身体の調子を見ながら交互に繰り返し、夕方がくるとささっと身体を清めてご飯を食べて床につく。




こんなに若い身体になったんだから美を楽しみたい気持ちもないわけではないが、それは前世の時に充分に楽しんだのでそこまで執着はなかった。


それよりも、今まで経験したことがない野性的な生活に面白さまで感じていた。誰の目も気にしないで良いのは楽ね~。


でもきっと、娘が見たらびっくりするでしょうね(笑)こんな薄汚れた母親なぞ見せたことがないのだから。


息子は呆れはするだろうけどスポーツが好きだったし案外面白がって一緒に鍛練してくれそうだけどね(苦笑)


息子が部活で日に焼けて泥だらけになって帰ってきていた日々、出掛ける時におばさんくさい服装はだめだとやんやと服装チェックしてくれていた娘の顔を思い出しながら翼は眠っていた。






異世界生活5日目




今日も朝日が昇る頃には目覚めた翼。まずは身体を入念にほぐして継承した薙刀を一心に振り続ける。


朝ごはんは身体を温める為にお味噌汁。それと組み合わせは悪いが乾パンとジャーキー。


朝食後は身体を動かす鍛錬が増えたので服を洗濯してこの世界の服であろう麻のシャツに茶色いズボンを履いて魔法の訓練。


一通り日課の魔法訓練を終えたら本日は攻撃できる魔法を考えてみる。




火魔法はまだ拠点を動いていないので川が見つからず後回し。


できることならスタンガンの様に雷魔法が使用できればと翼は考えていた。




雷・・というか電気というか・・電磁波?ちょっと難しいわね。普段、もっとも身近に使用していたであろう電力だけれど想像だけで使用して良いのかわからない。


確か家庭内に送られてくる電力も変圧器を通して電圧を押えて使用していたはず・・下手に高威力の電力を生み出すのは怖いわね・・。ブレーカーが体内についているわけではないんだし・・。


でもだからこそ魔物がおそってきた時に一番役に立ちそうなのもこの魔法だと思うのよね・・さてはてどうしたものか・・




そうだ!いつも使っているバリアを雷を通さないようにできないかしら?それから対象に効率よく雷を落とせるよう避雷針みたいなものをつけたいな・・そうでないともしも周りを巻き込んでしまった時に迷惑になってしまうし・・




どうしたもんか・・・




・・・・




・・・


何かないかな・・・




うーん・・・






!!!!!!そうだ!!!!!あれよ!!!あれだわ!!




虫ちゃんラケットよ!!






そう、翼が思いついたのはテニスラケットに電気を通したアレである。




テニスなら子供が習っていたから一緒に何度もやったことがあるし息子はそのまま部活でもテニスを続けていたのでなじみ深い。


ラケットを丈夫なものにしてそこに網目状の電気を通して魔物をスパーーーンよ!!!!!










そう。翼はあくまでも母でありオバタリアン(死語)なのである・・・。


異世界の神様も翼の想像する魔法に期待をしているとのたまっていたが、地球のおばちゃんを舐めすぎなのである・・・。






かくして、スキルの未入力欄に超強力電気ラケットと入力し、混乱した異世界の神様が日本の神様にヘルプを求めるのはまた別の話。






こうして翼は自分や攻撃対象ではない人間への影響を考えて、雷魔法は虫ちゃんラケットのみに限定することで今のところは実際に他の人がどんな魔法を使用するのか確認できるまではと諦めた。




おうし、雷魔法については無理せず神様にお願いしたし、土魔法も1mくらいの壁が作成できるようにして、風魔法はかまいたちみたいなのがかっこいいとは思うけれど、今使ってしまうと私を隠している芦がなくなってしまうし小さな竜巻でも起こせるようになってみるのもいいかもね!後は水魔法はジェット水流ができたら便利そうだし・・


と今までの魔法を無理のない程度にバージョンアップできるようにと。


まだ異世界について草原と青空しかわかっていない翼は、食料が続く限り好きに魔法や鍛練の練習をしようとあーでもないこーでもないと試行錯誤を繰り返して過ごすのであった。










それにしても月明りと星がこんなに明るく感じるなんて子供の頃を思い出したようで感慨深いね・・。


ご飯と洗濯をして身綺麗にした翼はテントの前にある岩に寝転がって夜空を見上げている。


ランタンもアイテムボックスに入っていたけど何が起こるかわからないので付けずに過ごしてきたので眼が暗闇に慣れてきている。


そよそよと草を揺らす風の音を聞きながら、まるで世界に一人しかいないような静かな夜。


守るものが自分だけという解放感と家族のいないさみしさで、子供達と夜に犬の散歩をして見上げた星空を思い出す。






もしかしたら川についたら蛍が見れるかもしれないな、なんて魔物がいるから危険なんだろうけど・・。


魔物らしき姿や声はまだ確認していない。




かくして本日も欲張りすぎないように薙刀と魔法の練習をして床についたのである。




明日は納豆の確認しましょうかね。どうか上手くできていますように!!




元々、会社と子育てに追われて子供たちにご飯を食べさせて自分は適当に納豆ご飯で済ますという生活を何年も続けてきた翼。納豆さえあればなんとかなると納豆に対する信頼が厚い!


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