第3話

 高名な魔法遺物研究家だけでなく、探検家でもあるバンス・ニールの屋敷は、旧市街でも貴族が多く住む名士街と呼ばれる一角にある。しかし、そこに爵位を持つ当主が住んでいることは稀で、大半はその兄弟や親族の住まいとなっている。二男であるバンスの実家も遥か遠くにある所領に存在し、今は爵位を受け継いだ兄が所領の管理、運営などすべてを取り仕切っている。バンスは屋敷に使用人たちをともに暮らしているが、発掘調査などで家を空けることも多い。

 バンスの屋敷の外観は付近の建物とは大差のないハンセン朝様式の二階建てなのだが、内部は彼が砂漠地帯の探検から持ち帰った発掘品を飾る記念館と化している。

 フレアが通された客間は、色褪せた壺や錆びつき変色した鎧や鎖帷子が並び、埃っぽい匂いで満たされていた。家具調度品は最高に趣味の良いものだが、敏感な鼻を持つフレアには少しつらいものだった。フレアは執事が出した甘い香りのするハーブティーで鼻を誤魔化しつつ、ソファーに座りバンスが現れるのを待った。

 ハーブティーが程よく冷めた頃、バンスは分厚い革表紙の本を片手に客間に入ってきた。赤茶けた髪の中年男で肌は陽に焼けて褐色となっている。

「待たせたね。少しローズさんの翻訳を見せてもらったが丁寧なお仕事だ。またよろしくとお伝えおいてもらえるかな」

「はい」翻訳の半分はフレアの仕事である。ローズによる教育の成果ではあるが。

 バンスはフレアの向かい側のソファーに座り、目の前のティーテーブルに革表紙の本を置いた。古びた表紙には魔器目録と書かれている。

「それより何があったのかね。ローズさんからの連絡では鮮血の剣について詳しい説明をしてほしいということだったが……。特化隊からも同じ要請があってその講義に行ったばかりだよ」

「鮮血の剣?……ああ、昨夜の事件の凶器のことですね」

 フレアは昨夜からこれまでの経緯をバンスに簡単に話した。彼もローズ同様に真剣にフレアの話に聞き入り、話が終わった後もしばらく黙り込んでいた。

「なるほど、ローズさんの考えは正しいかもしれないな。それで特化隊の要請の意味もわかったよ。確かにその事件には鮮血の剣が犯行に絡んでいるのかもしれない。しかし、あの剣の詳細は分かっていないことの方が多いんだ。とりあえず、これを見てもらおうか」

 バンスは目の前に置いた本を開いた。そこに書かれていたのは粗末な剣の絵と簡単な説明と起源。他は事件記録のようで地名と日時そして人名が並んでいる。

「それは百年以上前の情報で古いものだが、分かっていることは今と大差ない。なにしろ、この百年出現報告が無かったからだ。目立った新情報はなく、どれも推測の域をでていないんだ。」

 客間の扉がノックされ、挨拶とともに執事が入室する。彼はバンスの前に飲み物を置き、主人と二言、三言言葉を交わすと去っていった。

「まず、鮮血の剣の力から話すことにしようか。剣に留められている精霊は意識操作能力を持っているといわれている。それはローズさんの力ほどではなくとも、一般人なら十分脅威となりうると思う。剣はその力により人の感覚を操り、殺害時被害者が抵抗しないように体を麻痺させるのではないかと言われている。被害者が眠るように死亡しているのはそのためではないかということだ。数少ない目撃者の話によると、剣の姿は宝石が散りばめられた宝刀から錆びついた鋼の剣まで、まるでばらばらでこれも剣の力と思われる。これも意識操作の能力を示唆している。剣が意識的にそれをやっているか、力の効果範囲が単に狭いだけなのかは不明だが、姿が一定しなければ捜索は困難になる」

「姿が一定しないなんて探し出すのは大変そうですね」思わずため息をつくフレア。

「それでも、つけ入る隙はある」

「どういうことですか?」

「剣は自らは動くことはできないため、近づいてきた者をその力で操り乗り物とする。その際、乗り物の知識や記憶を利用しているふしがあるんだ。その知識などを利用してより有利で動きやすい人物を探し出し、次の乗り物として利用する。その際前任者は殺害されてしまう。被害者の周辺をたどっていけば乗り物の辿り着けるかもしれない。無差別に殺される被害者の方がはるかに多いのは確かだが、過去何度かはその方法で剣の傍まで迫っている」

「何度かって、そんなに被害が出てるんですか?」

「三百年前に錬成されて以来、十年から三十年の間隔で現れ、一晩で一人ずつ合計で十人ほどを手にかけては姿を消していた。前回の出現は百年前でどういうわけかそれっきり鳴りを潜めていた。そのため今では帝都でも剣のことを知るのはごくわずかだろう。わたしも研究、学習の過程でその存在を知ったが、今朝特化隊のオ・ウィン隊長から要請を受けるまで忘れていたぐらいだ。彼らは剣のことを聞くばかりで何があったかは教えてはくれなかったがね。君も聞いたことはなかったかな。昔でもかなりの騒ぎになったはずだ」

「知りませんでした。わたしの生まれは北方で山奥の田舎ですし、たいして年も取らないうちにこの体になってからは、ずっと西方を転々としてました。今のような語学力を得たのはローズ様にお会いしてからですし……」

「そうか。それは知らなかった。悪かったね」

「いいえ、お構いなく。しかし、迷惑な物を錬成する人もいるものですね」

「すべては力のためだよ」とバンス。

「君たちも好き好んでその力を得たわけではないだろうが、この帝都で平穏を得るために役は立っているだろう。我々もその力を利用している。力を得るために呪われたものと契約を結ぶ者も少なくない。フィル・オ・ウィンや特化隊の隊員たち、修道院特別部のダフ・マッケイ、リズィー・ストランドその他多数の力を持つ呪われた者たちが帝都を守っている。彼らは呪いに打ち勝った成功者と言えるが大半は敗者だ。剣を錬成したニコラス・エバリンもその一人だよ。

 当時は属州だったエル・コンデライトの裕福な魔導士一家の三男だった。彼は父やほかの兄弟と同様に魔導士を目指したのだが、不幸なことにその素養に恵まれてはいなかった。家族は無理をせず他の道を選ぶことを勧めたのだが、彼はあきらめきれなかった。彼はその問題を魔器によって解決しようと考え、そして錬金術にのめりこみ……」

「剣を錬成してしまった……」

「そう、しかし出来上がったのは魔力を増大させるための魔器などではなく、ただ人の生き血を欲するだけの呪われた剣。彼は剣に操られるまま周辺の人々を手にかけ、最後には家族を手にかけ、自らも命を絶った。真相を突き止めた地元警備隊がエバリン家に駆けつけた時には既に剣は消え失せていたそうだ。以来剣は現れては多くの人々を殺害し、消え失せることを繰り返している」

「それが今回はどういうわけか帝都に現れたということですね。探すべきは乗り物にされている人で、それも剣が乗り換えをする前に、速やかにと言ってもどこから手を付けてよいやら。ローズ様は剣は最近帝都に持ち込まれたに違いないから、その線で調査しろと、何か不正の痕跡を見つけ出せば剣も見つかるという話です」

「それも一理あるかもしれない。剣がこの百年帝都にあったとは考えにくい。そうなるとここ最近、誰かが帝都に持ち込んだことになる」

「剣は入都審査の審査官まで操って入ってきたんでしょうか」

「それはないだろう。彼らは強力な対魔装備で守りを固めている。故意にまたは意図せず魔器を持ちこもうとする者が少なくないのでね。彼らを操るにはそれこそローズさん並みの力が必要になる。考えたくもないが、審査免除の権限を持つ者が持ち込んだか。何らかの不正が行われたと見るのが一番妥当かもしれない」

「それなら対象は絞られるにしても、面倒な人が乗り物にされている可能性がありますね」

「そういうことになるな。……」バンスは眉の間にしわを寄せた。「まだやる気かな。特化隊も乗り出しているようだ。彼らに任せておく方が無難だと思うが……」

「それだと、また夜はずっとお勉強の時間になってしまうんですよね」

「勉強より外の空気が吸いたいということかね?」

「それはローズ様には言わないでくださいね」

 



 閑静な名士街から猥雑な東港湾地区へフレアがやってきたのは夜半になってからのことだった。小さな海辺の集落から新市街の一部へと加わった今もその位置づけは変わらない。帝都のはみ出し者のたまり場である。

 比較的に広い通りは明るく小綺麗になり、見た目は西の地域と変わらなくなってきた。しかし、少し路地の奥に入ると土色の泥煉瓦を乱雑に積み上げただけに見える粗末な建物が並んでいる。明かりは月光と武装したむろする者が起こした焚き火。ぬかるんだ路地に漂うのは腐敗臭と甘やかなの香の匂い。帝都はこの地区の再開発を望んでいるが、大半の地権はローズが有しているためその計画は進んではいない。

 そんな暗い路地を上等なお仕着せを身に着けた少女が悠々と歩いていく。その正体を知っている者たちは静かに頭を下げ道を譲る。彼女が目の前を通る時、大声で騒いでいた者達も少しの間静かになる。今夜は沈黙の後にささやき声が続いた。月に一、二度しか姿を見せないはずの少女が、日を置かず二度も現れているためである。少女を目にした者たちは顔を引きつらせ、その理由について声を抑えて語り合う。誰かが彼女の主人の怒りを買ったのではないか、それが自分たちに累を及ぼすことはないかと。

 フレアは路地から大通りに戻り、その辺りでは一番大規模であろう建物の前へとやってきた。地味な土色一色の煉瓦造りは周囲の建物と変わらないが、出入り口の扉の付近には剣や斧などで武装した数人の大男たちが立っている。扉の前に立っていた男がフレアの姿を確認すると喉元のゴルゲットに向かって何やらつぶやき、扉の脇へと移動した。

 男はフレアに会釈をし彼女のために扉を開けた。外の通りからは想像できないが、内部はコバヤシ製の音響設備が作り出す音の奔流で満たされている。奥にある舞台では派手な身なりの女たちが踊り、それを取り巻くようにテーブルが多数配置されている。

 フレアが入店すると案内係の男二人の出迎えを受けた。扉の前の男と同様で巨漢である。どちらも頭の毛を剃り上げ同じ服装のため双子のように見える。入店時に武器などは預けることになっているため、彼らは目立つ武装はしていない違いはそれだけである。

「こんばんは、お嬢さん」

「今夜もお越し頂いてありがとうございます」二人とも笑顔ではあるが、今夜は微妙に引きつっているように見える。

 彼らにローズは姐さんと呼ばれている。その配下であるためか皆フレアのことはお嬢さんと呼ぶことが多い。

「奥の部屋は開いてる?」

「はい、すぐご用意します」右の男が答える。やはり引きつっている。

「それとエリオットさんとお話がしたいんだけど?」

「はい、部屋の方でお待ちください。すぐに呼んでまいります」

 一人が横を向き襟元のゴルゲットに向かいつぶやき、相棒は足早に二階へと上がっていった。

 賑やかな広間を抜けて、フレアは最奥の特別室へと案内された。壁は白い漆喰で整えられただけの壁だが家具、調度品は旧市街の邸宅で使用されている物とさほど変わらない。

 フレアが備え付けの革張りの椅子に座ると、案内係が退出し、すぐさまにエリオットが入ってきた。彼も他の男たちと同じく剃髪された巨漢である。違いは右頬に龍の入れ墨で包まれていることと、首にかけている首飾りが頸の筋肉を鍛えるためかと思われるほどに太いこと。

「こんばんは、お嬢さん」エリオットの表情も他の者と同様不安げである。

 エリオットは額にびっしりと汗をかいていた。笑顔を浮かべてはいるが引きつっている。色黒でかなりの強面なのだが、今なら誰も彼を怖がらない。

「あなた達、何かあったの?」

「いいえ、特に何もありません。俺達は何時であってもローズ姐さんのお役に立つよう心掛けてやっております」

「何か変ね。あなた達ばかりか、他の周りのみんなが様子がおかしい」フレアはエリオットを睨みつけた。「何があったの正直に話しなさい」

「……じゃあ、お聞きしますが、お嬢さんは今日昼前から移民の連中の所に顔を出して何やら聞きまわってたそうですが……どんな御用があったんでしょうか?お聞かせ願いませんか」

「あぁ……気にしてたの?」昨夜からの調査については、彼らが事情を知らなければ誤解をしても仕方はない。フレアは大声を出して笑いだした。この辺りは噂が回るのは早い、それにローズの代理人であるフレアが絡んでいるとなればなおさらである。

「気にしますよ。お嬢さんがわざわざ昼間から商売敵の所を回っていると知れば……気が気じゃありません」エリオットは今にも泣きそうである。

「ごめんなさいね、あなた達には関係ないから、仕事とは関係ないわ。スラビアの人たちに少し聞きたいことがあったの。この部屋での話は外の人たちも聞いてるでしょ」

「えっ、ええ…」エリオットはバツが悪そうに認めた。彼のネックレス、部屋の調度品などに通信石が仕込まれていることはフレアも承知している。簡単に盗み聞きができるのだ。

「なら、他の人も聞いてるといいわ」フレアは深呼吸し間を置いた。「あなた達のことはローズ様も頼りにしていると思うから安心してください。今の良好な関係が保たれてるようこれからも頑張ってください。こんな所でいいかしら」

「ええ、十分です」

 ここでやっとエリオットは落ち着くことができたようでソファーに深くもたれこんで大きく息をついた。

「おい、強い酒一杯持ってきてくれ。それとお嬢さんにも何か…そうだ生の肉あったら持ってきてくれ」エリオットは喉元の通信石に向かって話しかけた。

「できれば内臓がいいわ」

 フレアからの注文に応じてエリオットが右手を上げる。

「新鮮な内臓はあるか……それでいい。すぐ持ってきてくれ」

 ほどなく、ハーブ入りの蒸留酒と大皿に盛られた牛の肝臓などが運ばれてきた。傍に手洗い用に水を張った鉢が添えられている。

 エリオットは蒸留酒の入ったカップをあおり一気に飲み干した。フレアはそれを横目に手づかみで食べ始めた。エリオットはその光景に見入ってしまっていた。フレアの正体が何であろうと見た目はかわいい少女である。それが生の肉を手で押えかぶりつき食いちぎる、それらを繰り返しているのだ。

「あなたたちはまねしちゃだめよ。どんな肉でも必ず火を通して食べなさい」

「え、ええ…」わかってますが、そうじゃなくってという言葉を飲み込んで「それよりもお嬢さん。今日の何ですか?話があるとお聞きしてましたが…」

 不安が晴れて冷静になったエリオットに普段の思考が戻ってきた。関係が良好であってもフレアが出向いてくるならそれなりの理由があるのだ。

「そう、聞きたことがあったの」フレアは真っ赤に染まった皿からから顔を上げる。彼女は手や爪に付いた血や脂を盛んになめとっている。

「昨夜、運河の傍で殺人事件が起こって、それにローズ様が興味を持たれて調査を始めたというわけ。被害者がスラビア出身で殺され方が普通じゃなかったから、誰か何か知らないかと思ってね、昼間はスラビアの人たちの所を回ってたの」フレアはここで間を置いた「あなたたち、スラビアの人達と今はもめてないでしょ?」

「今は特に何もありませんね。平和ですよ。お互い」

「彼らもそういってたわ。だから顔は出さなかったの、わかってもらえたかしら」

「はい」

「それで昨夜の事件についていろいろ調べて話を聞いていたら、どうも最近帝都に魔器が不正に持ち込まれ、それが犯行に使われた疑いが出てきたのよ」

「ええ……」

「そこで、そういう物のを扱っている連中を知っていれば教えて欲しいの」フレアは上目遣いでエリオットに聞いた。

 いくら可愛い顔をしていても、彼女の行状を知っているエリオットとしてはじっと見つめられると感じられるのは恐怖しかない。

「魔器ですか。はっきり言って俺の付き合いがある範囲じゃいませんね。確かに俺たちはいろいろと密輸をやってます。儲かりますからね。酒、たばこ、香辛料、その他やばい禁制品でなければ船を使えば割と簡単に持ち込めますし、陸路でもそれほど難しくない。ばれても大抵は大したことない罰金と営業停止の処分で済みます。捕まったところは潰して、別のを立ち上げてまた再開、その繰り返しです。しかし、魔器は危ない。俺たちじゃ、どんなにうまくやったと思っても特化か白服が飛んできてぶちのめされます。客の方もあえて、この帝都に持ち込もうとはしません。そういう物が好きな客は外にいるんですよ。帝都内よりはるかに自由が利きますからね」

 エリオットのいうことは妥当かもしれない。彼らを操ったところで結局のところ検査官の目をごまかさないければならない。剣の乗り物がその手段を知っていなければならないのだ。そして、それを知るような乗り物なら帝都に入るために生じる不利益も承知しているだろう。

「それなら、持ち込みの権限を持つ者が、正式な手続きを経て持ち込んだと考えるのが妥当なのかしら」

「それが一番楽でしょうね。持ち込みの権限を持った奴とつるんでるなら、担当の役人も文句のつけようがないでしょうから……、どんな魔器何です?本とか腕輪とそれとももっとでかい物ですか?」

「……きらびやかな両刃の剣、大量の宝石で飾り立てられている宝刀……」

「そりゃぁすげぇ……」

「……に見えることがある古びた剣」

「なんですよ、それは」

「呪われた剣らしいわ。白服、特化ともに動き出すようなやばさのね」

「それを持ち込んだのがお偉いさん?。まったく困ったもんだ」

「ねぇ、何か聞いてない?白服、剣、特化……絡みの妙な噂話」

「……ん、そういえば…あぁ」

「何?」

「つい最近のことですが、東部の砂漠地帯での話です。初代皇帝時代に砂に埋もれて捨てられていた寺院で、そこの壁の一部が崩落して新しい部屋が見つかったってことでした。初めは珍しくもない調査で誰も特に関心は持っていなかったのですが、すぐに状況が変わりました。壺や写本にまぎれて宝石が散りばめられた宝剣が見つかったという噂が流れて来たんです。その剣は干からびたミイラ男の胸に刺さっていたという話でした。そのミイラ男は服装から百年ほど前に寺院に迷い込んで、そのまま嵐で砂に埋もれたんだろうって話です。で、そいつに刺さってたというのが、金細工のすげえお宝だって話で騒然となったんですが、後からひどいがらくただとか、いや違う宝石まみれだとか、もう聞く話がてんでばらばらで誰も信用しなくなったんですよ」

「それから、その剣がどうなったかわかる?」

「間もなく白服が現れ現場を一時封鎖、発掘品と一緒に持って帰っていったそうです。発掘品にその剣が入っていたとしても相手が白服なら書類一枚で通過は可能でしょう」

「最初から白服が付いていたならね……」フレアはつぶやいた。

 確かに白服なら危険な剣であっても帝都に持ち込むことは可能だ。白服は剣の正体も知っていた、だから今回の反応が早かった?乗り物は白服?いや、いけすかない連中ではあるが、魔器に操られるほど軟ではない。では誰か……。

「白服がいつ頃帰ってきたかわかる?」

「うーん、連中が帰ってきたのは一週間ぐらい前でしょう。お宝をあきらめきれない奴らまで引き連れて……。奴ら発掘品を聖サヴェージ修道院まで追いかけてきたようです」

「修道院に収められてから、盗み出すつもりだったってこと?」

「郊外の物好きが買い手についてるのかもしれません。今回は白服の護衛付きって箔がついてます。隠れ蓑と封印を解除できる者がいれば意外と簡単だと思います。盗掘をやってる奴らはそれで食ってますからね。道中で白服を相手にするよりは遥かに楽でしょう」

 確かにその方が楽だろう。剣は金目当ての連中をうまく操り、自らの救出作戦を展開した?

「墓泥棒ね、面倒な奴らが出て来たわね。で、その連中は修道院に乗り込んだと思う?」

「どうなんでしょう。一昨日まではそれらしい奴らを見かけましたが、今はもう引き揚げたのか……姿は見ませんね。あぁ、そういえば、一昨日辺りから白服がこの辺りの宿屋に乗り込んで宿検めを始めているようです。何でも外からきた連中の居所を探しまわってるとか。関係ありますかね?」

「それかもしれないわ。入ってきた連中が剣を隠して逃げ回っているのかもしれない。立ち回り先に心当たりはある?」

「もし、はなから持ち出す気なら、剣は今頃外への持ち出しを請け負う業者のところでしょうね」

「え、そんなに簡単にできるの?」

「持ち込むのと違って、持ち出すの簡単ですよ。大概は貴族か力のある金持ちですから、遮魔布でぐるぐる巻きにして、頑丈な箱に入れて、後は買い手の紋章を入れて、適当な書類があれば持ち出せますよ」

「なにそれ、そのいい加減さは!」

「俺に言われて困りますよ。奴らのお客は外にいるんです。奴らの仲間は発掘隊の中に深く入り込んでています。発掘に同行して発掘品の目録を作って客を募る。そして発注を受けた品を博物館や他の研究室からくすねてくる。後はその威光で外に持ち出す」

「今回はその狙いが大胆にも地下宝物庫だったわけね」

「そういうことでしょうね」

「それで、その請負業者なら心当たりはある?」

「……ええ、もちろん」エリオットは少しの間渋ったがまもなく首を縦に振った。

 少なくとも帝都新市街で姐さんに逆らえるものはいない。

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