第29話「娘と母親」

「ママ! きょうね、これかいた!」

「あら、上手に描けてるじゃない! すごいねー」


 娘の愛奈あいなが笑顔で自分が描いた絵を見せてきた。母親の千里ちさとはよしよしと頭をなでた。


 娘と一緒に暮らして五年。たった五年と思われるかもしれないが、色々なことがあった。愛奈が三歳の時に高熱を出して、病院に駆け込んだのも思い出される。幼稚園に行き始めて、愛奈が楽しそうにその日あったことを話すのも千里は嬉しかった。


 千里は母親として、本当にちゃんとできているか不安もあった。愛奈には不自由させたくない。その思いで短い時間ではあるがパートで働くようになったし、家事育児もきちんとこなしているつもりだが、自信がなかった。


 それでも、母親として娘のことはちゃんと守りたい。成人するその日まで、しっかりと育てていくのが母親としての役目だ。千里はそんなことを考えていた。


「ママもかいて! ぷりきゅあがいい!」

「えー、ママはお絵描き苦手だからなぁ、愛奈よりはへたくそだよー」


 千里は紙に絵を描きながら思う。こうしてくっついてくるのも小さい時だけなのかもしれないと。しかしこれからも今を大事にして生きていけばいい。改めて決意みたいなものを胸に刻んだ千里だった。

 

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