第27話「テスト」
「ねえ……す、好きな人って、いる?」
聞いた。ついに聞いた。
心臓の音が一段と大きくなった。
先程まで、鳥や、犬の鳴き声が聞こえていたはずだが、今は聞こえない。
どくん、どくんと、自分の心臓の音が聞こえるだけだ。
「ん? んー……」
少し怖かった。返事を聞きたい。いや、聞きたくない。どっちなんだ。
自分の心臓の音が、彼女にも聞こえているのではないかと思った。
「次のテストで私に勝ったら教えてあげるね」
彼女からの返事は、僕が想像していたものと随分違った。「ちょっとずるいよ」と口に出しそうになったが、やめた。
その日は「分かった」と言って、帰ることにした。
* * *
テストの日がやって来た。
僕は必死だった。もちろん、彼女の言葉を聞くために、どうしても勝たなければならないからだ。
手応えはあった。できた。よくできたと我ながら思う。
心の中で「勝った! これで彼女の言葉が聞ける」と、勝手に思っていた。
そして数日後、テストの結果が出た。
僕は九十六点。ミスが勿体なかったが、思った通りによくできた。
また心の中で「これで勝った!」と、勝手に思った。
休み時間になると、彼女が僕のところへやってきた。
「何点だった?」
僕は自信満々に「九十六点だったよ」と答えた。
「やった、私九十八点。私の勝ちだね」
「えっ……?」
僕は目が丸くなった。彼女の解答用紙にはたしかに九十八点と書いてある。
次の言葉が出ない。まるで置物のように、僕は固まっていた。
「この前約束したこと、覚えてる?」
次の言葉は彼女のほうからだった。
「えっ? う、うん……」
頷くだけしかできないのか僕は。
「んー、私が勝ったけど、ひとつだけ教えてあげる」
「えっ……?」
先程からこの言葉ばかりだ。もう少し何か言えないのか僕は。
「キミが好きな人のこと、大切にしてね」
彼女はそう言うと、足早に女子達の輪の中へ入っていった。
僕は固まったままだった。
彼女の言葉を何度も思い出しながら、「どういうことだろう?」と考えていた。
僕が彼女の言葉を理解するには少しだけ時間が必要だった。
(……そうだよ、聞いてばかりじゃダメだ。今度は、はっきりと言おう)
そう自分に言い聞かせ、僕は立ち上がり、彼女の元へと向かっていった。
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