第24話「心と身体」

小春こはるさん、体調はいかがでしたか?」


 主治医に訊かれて、私は言葉に詰まった。ここ二週間、心も身体もずしんと鉛が自分の中にあるかのように重かった。そのことを言わなきゃ、でも言葉が出て来ない。


 主治医に伝えたくないわけではない。私のことをよく分かってくれている人だし、伝えないといけないことも分かっている。でも言葉が出て来ない。しばらく俯いたまま話せないでいると、


「……大丈夫ですよ、ゆっくり、ゆっくり。全部を話す必要はありません。小春さんのペースで、私に話したいことだけ、慌てずに言葉にしてみてください」


 と、主治医が言ってくれた。私の中にあった鉛が少し軽くなった気がした。


「……あ、あの、体調がよくなくて……心も身体も重くて……」


 やっと言えた言葉がそれだった。なんだか自分が情けないと思ってしまう。自分のことは自分がよく分かっているはずだ。それを話さないと伝わらないのに、言葉が出て来ないことに焦りと不安みたいなものを感じていた。


「そうですか……大丈夫です。今自分が情けないと思いませんでしたか? 落ち込む気持ちは分かりますが、慌てる必要はないです。今は休む時です。ゆっくりと心と身体を休めましょう」


 主治医がそう言って、パソコンに何か打ち込んでいる。私はその様子を見ていた。


「前回、お薬の種類を変更したので、効いてくるまでもう少し時間がかかるかもしれません。今日はまた同じものを出しておきます。飲むのは忘れないようにしてもらって、きつい時は頓服も飲んでください。そして無理をしないこと。いつもの日常を、ゆっくりと過ごしていきましょう」


 主治医が私の目を見て、ゆっくりと、優しく話しかけてくれる。その時、私の中の鉛がまた少し軽くなった気がした。


 今は心と身体を休める時。私はそう自分に言い聞かせていた。

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