第22話「にらめっこ」

「ねぇ、面白いことしない?」

「ん? 面白いこと?」

「うん、テレビ見るものつまらなくて。何かないかなぁ」


 ある日の午後、彼女がそんなことを言った。突然何かを言い出すのは彼女の癖というか、もはや特技といってもいい。それは言い過ぎかな。


「そうだなぁ……あ、にらめっこしない?」

「にらめっこ? ふふふ、可愛いところあるね、よしやろう」


 なぜ自分でも『にらめっこ』が出て来たかよく分からないが、そういえば小さい頃によくやっていたなと思った。

 俺と彼女は正座をして、向かい合って座った。


「「にらめっこしましょ、笑うと負けよ、あっぷっぷ」」


 未だに『あっぷっぷ』というのがよく分からないが、とりあえずやってみる。彼女は口角を上げて目線を細めてなんだか面白い顔をした。俺も負けじと面白い顔をする……と見せかけて、真顔を見せた。笑顔でもなく、怒った顔でもなく、ただただ真顔だ。


「……ぷ、くくくく、あっはっは、なんで真顔になるのよー」

「あ、笑ったな、なんかこれが逆に面白いんじゃないかと思って」

「あははは、それ反則だよー、面白い、あはははは」


 俺は真顔を続ける。彼女はツボにはまったようで、笑い転げている。


「あー笑った、こうして笑ってる時が一番幸せなのかもしれないね」

「そうだな、そういう時間も必要なのかなって思うよ」


 傍から見ればなんだこのバカップルはと思われるかもしれない。でも笑顔になるこの時間が大事なんだろうなと、俺も彼女も思っていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る