第17話「お笑い」

 春の陽気で心もなんだかあたたかくなる今日この頃。

 俺、山形やまがたは相方の小山内おさないと、俺の家でネタ合わせをしていた。なぜ相方なんて言い方なのかというと、俺たちはお笑いコンビ『山岳バスケット』として活動している。コンビ名は二人とも名前に『山』がついていて、高校のバスケ部で出会ったので、なんとなく決めた。まぁ活動といっても地方の劇場でネタを見せるくらいで、テレビに出ているような人気のお笑い芸人とは住む世界が違う。俺たちはお笑い芸人としての仕事では食べていけないので、それぞれバイトもしている。


「そこはツッコミがもうちょっとキレあってもいいんじゃないかなぁ」

「そうか? これでもかなりキレがあると思うが……」

「うーん、もう少しインパクトというかぁ、そういうものがほしいなぁ」


 ノートを見ながら二人で話す。小山内は『おさない』という名前っぽいと言っていいのか分からないが、しゃべり方が幼い感じがするところがある。しかし舞台に立つとしっかりとボケとしてしゃべることができるから不思議なものだ。


「……こんなもんかな?」

「ああ、うんうん、さっきよりいい気がするよぉ」

「そうか、それならよかった」


 お笑いのネタは基本的に俺が考えるが、小山内も俺が考えたネタにマイペースで指摘をくれる。けっこう鋭いところがあって、俺も新しい発見みたいなものがある。


「このネタが、ウケるといいねぇ」

「まぁな、そしていつかはM-1で天下取ろうぜ」

「あはは、いつかそうなるといいねぇ」


 目標がデカすぎる気がするが、何もないよりはいい。一歩ずつしっかりと歩んで、いつかは大舞台でみんなを笑わせたい。俺と小山内の気持ちは同じだった。

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