第16話「しあわせ」

「あ、ねこちゃんだ!」

「あ、優里ゆうり、道路に出ちゃダメよー」


 わたしはおかあさんと公園に遊びに来ていた。その公園の隅でねこちゃんを見つけたので、ねこちゃんのところへ走っていった。あ、走るとねこちゃんがびっくりしちゃうかな、途中でピタッと止まって、ゆっくりとねこちゃんに近づいた。


「ねこちゃん、こんにちは!」


 そっと手を出してみる。逃げようという感じはない。わたしはホッとしてゆっくりとねこちゃんの頭をなでた。ねこちゃんは目をつぶって気持ちよさそうにしている。


「ねこちゃん、まっくろで、かわいいね! よしよし」

「……お前は、しあわせか?」


 ……あれ? 今ねこちゃん何か言わなかった? ねこちゃんってしゃべるんだっけ? よく分からなかったが、わたしの周りに人はいない。やっぱりねこちゃんがしゃべっているんだ。わたしは嬉しくなった。


「ねこちゃん、おはなしできるの?」

「……お前は、しあわせか?」


 やっぱりねこちゃんが話している。しあわせ? どういう意味だろう? あ、おとうさんとおかあさんが好きかどうかってことかな。


「うん、おとうさんとおかあさんはとってもやさしいし、わたしおとうさんとおかあさんがだいすきなんだ!」

「……そうか、それならいい。おとうさんとおかあさんと仲良くするんだぞ」


 ねこちゃんはそう言って、くるっと回って向こうへ歩いて行ってしまった。しっぽがピンと立っていた。


「――優里? どうしたのボーっとして。何か話してなかった?」

「うん、ねこちゃんがね、おはなししてくれた!」

「えー? ねこちゃんはお話できないでしょー。変なこと言うわねぇ」


 おかあさんはそういってあははと笑った。そんなことないもん、ねこちゃんはわたしとお話してくれた。そういうねこちゃんもいるんだな。わたしはなんだか嬉しくなった。

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