第14話「エース」

 ああっ、また打たれた。

 先頭打者の四球の後、なんとかツーアウトまでこぎつけたが、二番、三番に連続でヒットを打たれた。これで満塁だ。

 野球ではよく先頭打者の四球は点に繋がりやすいと言うが、本当にその通りになりそうだった。

 ツーアウト満塁。次は相手の四番打者。三振も多いがツボに入った時の長打力がすさまじく、前の試合でもホームランを放っている。四番打者らしいバッターだ。

 なんとかして抑えないといけない。しかし自信を失いかけていた。渾身のストレートも得意のスライダーも打たれてしまった。それでも投げなければいけない。

 僕は二年生でチームのエースを任されていた。三年生の先輩たちに一つでも多く試合をしてもらいたい。その気持ちは大きいのだが、自分がピッチャーとしてここに立っていていいのだろうかと不安になることもあった。

 その時、タイムがかかった。ベンチから伝令の選手が出てくる。キャプテンだ。前の試合で足を少し痛めてしまって、今日はベンチスタートになっていた。内野で守っていたみんなも僕の元に集まる。キャプテンは僕の顔を見て、


「どうした、顔が引きつってるぞ、もっと笑顔になれよ」


 と言って、僕の頭をポンポンと叩いた。


「す、すいません、満塁で四番なんて……」

「そんなの気にすることじゃない。お前はうちのエースなんだ。もっと堂々としてていいんだよ」

「で、でも、ここで打たれたら大量失点になりそうで……」

「大丈夫、自信を持って投げろ。お前のストレートとスライダーはいいものだ。弱気で投げるのが一番いけない。先のことは考えるな。ほら、笑顔笑顔!」


 そう言ってキャプテンは今度は僕の背中をポンポンと叩いた。みんなで右手を出して心を一つにする。

 弱気になって打たれてしまったら後悔だけが残りそうだ。『自信を持って投げろ』というキャプテンの言葉を頭の中で繰り返しながら、僕は大きく振りかぶった。

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