第13話「探偵」

「ふっふっふ、分かりましたよ、幸田こうださんを殺害した犯人が!」


 大きな暖炉のある広間で、探偵と名乗る男がそう言った。外は雨が降り続いている。山の中にあるこのペンションに通じる道は崖崩れで通れなくなってしまった。私たちは孤立しているという、推理小説や推理漫画でよくありそうなシチュエーションになっていたのだった。

 それにしてもあの男、犯人が分かったとは本当なのだろうか。私は胸の鼓動が止まらなかった。平静を装わないと。ゴクリと唾をのむ音がはっきりと聞こえたようだ。

 ……そう、幸田という男を殺害したのはこの私。あいつだけは許せなかった。心の奥底にある憎悪が大きくなって、私を支配した。

 偶然が重なり、あいつを殺害するいいチャンスが私に巡ってきた。このチャンスを逃すわけにはいかなかった。探偵と名乗る男が私をマークしていたとしても、証拠はない。落ち着いていれば大丈夫。


「だ、誰なんだ!? その犯人ってのは!?」


 私の隣にいた男が声を上げた。まさか隣にいる女が犯人だなんて思うまい。私は落ち着けと何度も言い聞かせながら探偵の次の言葉を待った。


「ふっふっふ、じっちゃんはいつも一つって言ってましたからね。犯人は――」


 ……どこかの推理漫画が混ざったような言葉を発した探偵は、みんなの顔を見ながらゆっくりと犯人を言おうとしていた。何と、何と言うつもりなのか――


「――あ、あれ? やっぱりおかしいな、あれがああなってこうなってあの人だって思ったはずだけど……」


 ズコーという擬音が聞こえてきそうだった。みんなポカンとした顔をしている。私も驚いたというか呆れたというか、変な気持ちになった。

 何やらブツブツと手帳を見ながら独り言を言っている探偵の男。やっぱり大丈夫そうだと、私は勝手に安心していた。

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