第10話「マスク」
マスクを日常的につける生活も、もうずいぶん長いものになったような気がする。
世界的な感染症だか何だか知らないけど、あ、知らないってことはないか。これだけ話題にもなっているし、罹患している人も多いのだ。目に見えない病気に人々は悩まされていた。
「道行く人も、みんなマスクしてるねぇ」
私は車の中から外を見て、歩く人を観察していた。隣で彼が車を運転している。今日は車でどこかに出かけようと、彼が言ってくれた。この車は彼が二十歳の頃に買ったものらしく、それから十年、大事に乗っているそうだ。
「そうだね、もうだいぶ慣れたけど、いつまでこんな生活が続くんだろうね」
「どうだろうねぇ、感染者も減る感じがしないし、まだまだ普通の生活ができるようになるのは先なのかも」
「うーん、たしかに。でもそれだと困るなぁ、早くマスクしなくていいようにならないかなぁ」
「ん? マスク嫌なの? 息苦しい?」
「まぁ、それもあるんだけど……」
赤信号で止まり、彼がちょっと恥ずかしそうに頬をかいて、
「君の笑顔がマスクで隠れちゃうのが、残念でね。やっぱりマスクはいらないよ」
と、ぽつりとつぶやいた。
え、わ、私の笑顔……? そ、そっか、私は急に顔が熱くなってきた。顔がニヤニヤしているけどマスクで隠れているのでありがたかった。
笑顔……か、たしかに彼の笑顔も私は好きだった。早くマスクがいらない生活になってもらいたいものだ。
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