第8話「ひとり」

「ねーねー、沢井さわいさんも遊ぼうよ」


 昼休みにクラスの女子からめずらしく声をかけられた。


「あ、いや、私はいい……」

「おーい、沢井なんてつまんねー奴遊びに誘うなよー、こっちまでつまんなくなる」


 男子が私の机を蹴ってきた。私はその子を睨んだが、それ以上してはいけないと思い、ぐっと我慢した。


「な、なんだこいつ、睨みやがって、き、金髪だからっていい気になるなよ!」


 男子の足がプルプルと震えていた。本当は怖いのだろう。そんな奴は無視すればいいと思い、何も言わないでいた。


「お、おい、文句あるなら言えよ! 俺がムカつくんなら――」

「……ほっとけよ!!」


 結局大きな声が出て、机もひっくり返してしまった。みんなが怖がった様子で私から離れていく。そうだ、それでいい……と思っていたのだが、


「あちゃー、遅かったか、絵菜えな、よしよし。私がいないとダメだねぇ」


 と、ケラケラと笑いながら優子ゆうこが来た。


「あ、いや、別に……遊びたくなかっただけ」

「うんうん、無理して遊ばなくていいよー、絵菜……お家がごたごたしてるんだよね……ごめんね肝心な時に力になれなくて」

「い、いや、気にしなくていいから……」


 そう、親の離婚後も、父親がなんだかんだと理由をつけてうちにやって来る。私はあの男の顔も見たくなかった。それは母さんも妹の真菜まなも同じらしく、私が中学を卒業したら引っ越そうという話になっていた。


「うーん、でも私は絵菜が心配だよー。どこかに絵菜を守ってくれる人はいないかなぁ」

「そんな奴……いるわけない」


 私はもう何もかもがどうでもよかった。黒髪にしてこいと言う先生も、都合のいい時だけ話しかけてくるクラスメイトも、まとめてぶん殴ってやりたい。

 私を守ってくれる奴? どんなお人好しだよ。神様もお手上げの私はいつも一人だ。それでいいと思っていた――。

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