第6話「出会い」

「おっす、何してんだ?」


 昼休み、後ろの席の人に声をかけられた。この中学校に入学して数日、僕はひっそりと目立たないように過ごしていた。どうせ人と話したところで笑われたりバカにされるに決まっている。ならば余計な交流は避けようと思ったのだ。

 しかし、本を読んでいたら後ろの席の人が覗き込んできた。この人はたしか火野ひのと言ったか、背が僕より高く爽やかでイケメンだった。僕とは全然違う世界に住んでいるんだろうな、ふとそんなことを思った。


「あ、ほ、本を読んでて……」

「そっか、本読むの好きなのか?」

「あ、ま、まぁ……」

「いいじゃねぇか、もっと自信持てよ……って、あれ? お前名前何て言ったっけ?」


 名前……か。僕はまた嫌な気分になった。自分の変わった名前で幼稚園の頃からずっと笑われてきた。自己紹介というのがとても苦手だった。言いたくない。でも言わないとこの人に失礼な気もする。僕はぐるぐると頭の中で考えてしまった。


「……ん? どうした?」

「あ、い、いや、名前は……日車……です」

「あーそうだった、日車、下の名前は?」

「あ、だ、団吉……です」


 言ってしまった。そう、僕の名前は日車団吉ひぐるまだんきち。この変わった名前で嫌な気持ちになったことはたくさんある。また笑われるんだろうな……と思っていたら、


「そっか、団吉か、いい名前だな。あ、日車より団吉の方が呼びやすいな、俺は名前が陽一郎よういちろうって長いからさ、火野って呼んでくれよ」


 と、笑顔で言った。あ、あれ? バカにしないのか? 想像していた反応と違って戸惑ってしまった。


「え、あ、わ、分かった……」

「おう。あ、団吉は勉強できる方か? 俺あんまりできなくてさ」

「ま、まぁ、人並みには……」

「そっか、じゃあテスト前とか教えてくれねぇか? 頼む」

「あ、う、うん、いいよ」

「サンキュー、せっかく席が前後になったんだ、よろしくな」


 火野がまた笑顔を見せた。さ、爽やかだな……女の子にモテそうだ。

 それにしても、『いい名前』って言われたのは初めてかも。ちょっとだけ嬉しくなった僕は単純なのかもしれない。

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