第4話「乾杯」

 敵国が攻めてくるのは明らかだった。

 いつやって来るか分からない。俺は緊張で押しつぶされそうだった。こんなことではこの国を守ることなんてできない。しっかりしろ俺。


「よう、もしかして緊張してるのか?」


 男が話しかけてきた。こいつは俺の幼馴染。遊ぶことも、勉強することも、こうして兵士になることも全部一緒にやってきた。俺の一番の理解者だと言っていい。それだけに、俺の心はこいつには丸わかりのようだ。


「ああ、少しな。お前はなんでそんなに余裕なんだ?」

「余裕じゃないよ、俺だって心臓はバクバクさ。でも、覚悟は決めている。何があってもこの国を、俺の大事な人を守る。それだけは変わらないよ」


 男の言葉を聞いて、俺はハッとした。国を守ることも大事だが、それだけではない。俺にも大事な人がいる。その人が平和で暮らせるようにと思って、兵士になったのだ。大事な人の顔を思い浮かべる。いつも優しいあの笑顔を。


「ああ、そうだったな、この国も、大事な人も、守らなければいけない」

「そうだろ? じゃあこれで乾杯しようぜ。持ってきたからさ」

「え、そんなことしてていいのか」

「大丈夫だって、一杯くらいなんでもねぇよ、ほらよ」


 男からグラスを受け取る。とくとくと注がれるお酒を見て、俺はまた大事な人を思い浮かべていた。


「国を、大事な人を、俺たちで守ろうぜ」


 二人が打ち鳴らしたグラスの音は、いつまでも俺の耳に残っていた。

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