第2話「コーヒー」

 急に雨が強く降ってきた。

 今日は傘を持たずに外出してしまった。天気予報で雨って言ってたっけ? こういう時のために折りたたみの傘を入れておくべきかと思った。

 小走りで家路につくが、まだ家までは距離がある。途中に喫茶店があるので、ちょっとだけ雨宿りさせてもらおうと思った。

 

 カランコロン。

 

 扉を開けると、コーヒーのいい香りがした。この店の前はよく通るが、入ったことはなかった。まさかこんな形で訪れることになるとは思わなかった。


「いらっしゃいま――」


 店員の男性が私を見てびっくりしたような顔をした。それもそうだ、いきなりずぶ濡れの女が現れたのだから。


「す、すみません、急に雨が降ってきて……ちょっと寄らせてもらってもいいでしょうか?」

「もちろん、大丈夫ですよ。あ、ちょっとお待ちください」


 男性はカウンターの奥に行った。あれ? と思っていると、すぐに戻ってきた。手にはタオルを持っている。


「これで拭いてください、そのままだと風邪をひいてしまいます」

「あ、す、すみません、ありがとうございます」


 私はタオルを受け取って、体や頭を拭いた。


「せっかくなので、何か飲んで行かれませんか?」

「あ、では……ブレンドコーヒーを、お願いします」

「かしこまりました」


 男性はゆっくりとコーヒーを淹れる。いい香りがさらに漂ってきた。私は店の中を見回す。オシャレでとても落ち着いた雰囲気だった。


「どうぞ、ゆっくりお召し上がりください」


 男性はそっとコーヒーを出してくれた。私はコーヒーをゆっくりと口にする。深みとコクが口の中に広がる。とても美味しい。


「美味しいです」

「ありがとうございます。それにしても急に降ってきましたね、もう少し降りそうだし、ゆっくりしていってください」

「あ、ありがとうございます」


 男性の気持ちが嬉しかった。お店の雰囲気もいい、コーヒーも美味しい。このお店にまた来たい、そう思わせるには十分だった。

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