劇場版 不条理なる愛国者(パトリオット)③

 気を取り直して……

 メオちゃんが『ビシッ』っと指差す先には、木の影に隠れた少女の姿がありました。

 これは? どういうことでしょう?


『埴輪怪人ハオ! 貴様ッ! 俺の彼女になんて事を!』

 カメンマイダーは怒りが抑えきれないようです。抱きついたハオちゃんを剥がそうと躍起になっています。

「タケシくん。よく聞くんだよ! その彼女の名は何だよ?」

 ハオちゃんは離されまいと、必死に食らいつきます。

『……名…前? そんなの…… 何故だ、何故思い出せないんだッ!』

 タケシは苦しそうに頭を抱えます。

「タケシくん、君の倒すべき最後の敵の名は何なんだよ?」

『それは……豪血葬ゴチソウという悪の首領だ! お前達はその手下だろう!』

 その言葉で、タケシは『はっ』としました。

 そこにメオちゃんは、驚くべき推理を展開します!

「タケシさん、気づいたようですわね。 敵の首領の名を覚えているのに、他ならぬ『彼女』の名を忘れる訳がありませんわ。さらに言えば、埴輪怪人ハオと、ハオちゃんの名前も覚えている。そう!アナタはマインドコントロールされていたのですわ! その後ろでこそこそするヨクボウにッ!」


 カメンマイダーのタケシは恐る恐る少女に目を向けます。そして呟きました。

『なあ、嘘だろ? 俺は非リア充だったのか? 頼む!嘘だと言ってくれ!!』


 タケシの心の叫びに、木陰の美少女は涙を湛えながら強く答えます。

『タケシ! 騙されないで! 私の名前は何度も言ってるわ! 私の名前は騙しのヨクボウ怪人、オレオレサギちゃんよ!』


 墓穴ですね。圧倒的墓穴です。

その言葉にタケシは涙を流しはじめました。

『ほら! 彼女の名前はサギちゃんだ!! 超可愛い名前じゃないか!』


「目を覚ますんだよ! 非リア男子がぁ!」

ハオちゃんの強烈なビンタがタケシの頬を打ちました。

「誰しも英雄でいたい想いはあるんだよ。誰もがリア充を目指すんだよ! だけど、そんなお膳立てされた設定なんて、この世には存在しないんだよ! だから…… タケシくんは自分の手で掴まなきゃ駄目なんだよ!」


 ハオちゃんの熱い気持ちがタケシを呪縛から解き放ちました。

「埴輪怪人…… いや、魔砲少女ハオちゃん。すまなかった…… 俺の心の未熟さゆえの過ちだったんだ。あのヨクボウ怪人を倒す手伝いをしてくれるか?」

 正気に戻ったタケシの言葉に、二人の魔砲少女は頷きます。


 そんな中、木陰でコソコソと紫外線対策をしていた少女は、不気味な笑みを浮かべているではありませんか!

『くっくっくっ、惜しかったなぁ。でも、カメンマイダーはもう戦える力は残っていない。私が骨抜きにしたからなぁ! それに魔砲少女ごとき私の敵じゃねぇ! 『豪血葬ゴチソウ』に強化されたヨクボウの力を見せてやる!』


 なんと! 少女は正体を現しました!!

それは醜いガマガエルの姿です! そしてその大きさたるや、滑り台を遥かに凌駕しています!

 『全員喰ってヤル。げごごご!』

 ベタな鳴き声ですが、その大きな口は脅威です!! 丸呑みされたら、ひとたまりもありません!


「埴輪ハオちゃん。頼みがあるんだ。俺を、あの口の中に投げ込んでくれ」

 タケシは血迷ったみたいです。そんなに非リアが辛かったのでしょうか?

「それは危険だよ。なにか策があるのかだよ?」

「ああ、俺を投げ込むついでに……」


『何をゴチャゴチャと…… 一思いに丸呑みしてやるぅ。げごご!!』

 騙しのヨクボウは大きく口を開けました!

ネチャネチャした舌が垣間見えます!これはグロいッ!!


「……わかったよ。タケシくん、頑張るんだよ」

 ハオちゃんはタケシをヨクボウに向けて、投げました。

「行くぞッ!!マイダーーキック!!」

ああ、ダメです。勢いが全くありません。

こんな攻撃では無駄死に確定です!!

 騙しのヨクボウは『馬鹿だねぇ』と、醜悪にニヤつきました。


「メオちゃん!!合わせるんだよッ!!」

「ええ!やりますわよ!ハオちゃん!!」


 「「究極魔砲!! だよ!ですわ!」」

男子の背を押す乙女の声援ッキャー♡頑張ってぇ♪タケシく〜ん♡


 なんという圧倒的な魔砲でしょう!!

それは、タケシの背中を押して超絶加速させました!!

「超必殺!!声援有難う!自惚れマイダーキック!!!」

 –––– 時に勘違いは恐るべき力を発揮します。

 光の矢の如きタケシの飛び蹴りは、騙しのヨクボウを貫きました。


『ば…馬鹿なぁぁあああ!! (キックを)ご、豪血葬様ごちそうさまぁぁあああ!!』

 ヨクボウは見事に爆ぜました。

辺に降り注ぐキラキラとした粘液の中、タケシは立ちすくんでいます。


「タケシくん! よくやったんだよ!!」

ハオちゃんとメオちゃんはタケシに駆け寄りました。


「有難う、魔砲少女達。俺は君たちに救われたよ」

 そう言ってタケシは空を見上げます。

そこには雲一つない美しい夕焼けがどこまでも続いていました。


            –––– つづく

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る