劇場版 不条理なる愛国者(パトリオット)①
「–––– 風が…… 出てきたな」
少年は眉を顰めて空を仰ぐ。
その眼差しの中には、困惑と使命が入り混じっていた。
『そうね、タケシ。とても不穏な空気…… 次の敵は埴輪の怪人らしいわ。しかも女子中学生の姿をしている卑怯者よ』
タケシと呼ばれた少年の隣に立つ少女もまた、空を見上げると唇を噛み締めた。
「悪の首領……
少年が握り締める拳は震えていた。
それを少女は両手で優しく包みこみ、『ねえ…… もう怪人と戦わないで、私と一緒に逃げない? 誰もいない静かな場所へ……』と、呟いた。
少女の言葉に少年は静かに首を振る。
「気持ちは嬉しいよ。だけど…… 俺がやらなきゃ、この世は
『でもッ! もう、あなたの身体は限界が来ているわ! あの変身には負荷が掛かり過ぎるのよッ!』
少女の頬を伝う一筋の涙。
少年はそれを指で優しく拭うと、少女に微笑みかけた。
「俺は…… 君と一緒に生きていきたい。 でも、それは平和な世界でだ。 そう、平和を脅かす
『タケシ!! あなた、記憶がッ………』
その悲壮たる心情を映したような
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「ハオちゃん! チェロスが売ってますわ!」
今日は日曜日。メオちゃんとハオちゃんはショッピングセンターでお買い物を楽しんでいます。そう、彼女達は魔砲少女。このキュートな物語のヒロイン達です。
「ジョロキアは危険だよ」
「チェロスですわ」
ハオちゃんの刺激的なジョークが繰り出されました! まるで阿吽の呼吸。チェロスかチュロスかという哲学的思考で、メオちゃんとのガールズトークに花が咲きます。
おや? エントランスホールでヒーローショーが行われている様ですね? けたたましい熱血ボイスが聞こえてきました。
「出たな!!埴輪怪人!!成敗してやるぜっ!!」
なんという事でしょう! このヒーローは全世界の埴輪を敵に回したい様です。
この言葉には、流石のハオちゃんも怒りが抑えられません。
「ヤロゥ、ふざけんなだよ」
ああっ! ハオちゃんが声の元へ駆け出しました! その軽やかな足取りには、一言物申したい乙女の想いが溢れています。
そして、そこで見た光景にハオちゃんは目を疑いました。
「くらえッ!! 普通のキィーック!!」
ステージの上では少年が埴輪の被り物に飛び蹴りを炸裂させていたのです!
その威力たるや、埴輪の被り物は錐揉み状に吹っ飛びました。
なんて残酷な光景なのでしょう。
「お、おまえ…… なんて酷いことを…… するんだよ」
堪らずハオちゃんはステージに駆け上がります。
その勢いに乗じて、埴輪の髪留めが情熱的に叫びました。
『おおおお! ハオよ!! ヨクボウの気配がチョットするぞぅ!!』
ハオちゃんが変身しようと、髪留めに手を伸ばした時でした。
「出たな!!シン•埴輪怪人!! 俺は貴様をおびき寄せる為に、このショーを無断で行っていたのさッ! 成敗してやるッ!」
「何を言ってるんだよ!? アッシは正義の魔砲少女ハオちゃんだよ!」
そんなハオちゃんの声は届きません。
「嘘を言っても無駄だ!
少年は拳を握りしめ、あのポーズをとります。
斜め45度に突き上げられた右手にはお箸を、胸元に添えられた左手には、山盛りご飯の茶碗が現れます!
「
少年はそういうと、ご飯を口にかき込みました。
ああっ!! 噛んでいません、流し込んでいます。 なんという危険な変身なのでしょう。胃に掛かる負担は想像を絶します!
––––– 説明しましょう!
カメンマイダーは大量の炭水化物…… え?鬱陶しいですって? じゃあ、ご飯を食べて変身すると言っておきます。 変身後の姿は皆さんの想像に
『ごふっ! か…覚悟しろ! 埴輪怪人ハオとやら!』
むせて口から飛び散る米粒が、ハオちゃんを襲います。そんな危機を救ったのはメオちゃんのバリアでした。
「魔砲!『
しかし、ハオちゃんは衝撃的な一言を放ったのです。
「変身はしないよ。だって、ヨクボウの気配が殆どしないんだよ。敵じゃないんだよ」
確かに、埴輪の髪留めもヨクボウの気配は僅かに感じる程度です。 ……これは、一体どういう事なのでしょう?
『何ッ?! 仲間が居たのか! クソッ、卑怯な奴め! 喰らえ! 必殺マイダーキックゥゥ ぐっふう!』
なんと! カメンマイダーが必殺技でジャンプした時、食後の急激な運動により胃の中が大変な事になったみたいです!
度重なる変身の反動でしょうか、彼はその場で気を失ってしまいました!
「ハオちゃんが倒さないなら、私がやりますわ! 魔砲!『
–––– その時! カメンマイダーの前に立ち塞がる少女の姿が! メオちゃんは魔砲を慌てて解除しました。
『タケシを倒させはしないわッ!タケシは、タケシは私達の希望なの!!』
少女はそう叫ぶと、カメンマイダーを抱えて逃げ去ってしまいました。
「ハオちゃん…… これは一体どういう事ですわ? これじゃあ、まるで私達が悪役みたいですわ……」
メオちゃんの言葉に、ハオちゃんは表情を歪めます。苦悩するヒロイン達は、誰も居なくなったステージの上で暫く立ち尽くしていました。
–––– つづく
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