第2話 激震


 「コハルちゃんなら知っているよ」


体に衝撃が走る。

「えっ………どうしてですかっ!?」

「話せば長くなるが…君は祠堂大将の子だ」

「はぁ…?」

木城少佐はせき止めてあった水が放出されたかのように話し始めた。

「正確には妾の子だ。君は祠堂大将がまだ若い時に東京の花街の遊女との間にできた子だ」

しかしその時にはすでに本妻と子供がいた。

このままでは祠堂大将の邪魔になる、

そう考えた俺の母にあたる遊女は身重のまま

実家に帰ったそうだった。

あのクソ親父は本当の親父ではなく

母の再婚相手だったらしい。

「そうだったんですか…でもそれとコハルとは

一体何の関係があるんですか?」

「そう。単刀直入に言うとコハルちゃんは

祠堂大将のご子息の奥様になられたのだ」

…意味がわからない。

自分の聞き間違いを何度も疑った。

「…今、なんと?」

「コハルちゃんは祠堂大将のご子息の奥様に

なられた、と言ったのだよ。武藤」

「では…では崖にあった履き物は……?」

「多分偽装だろう。コハルちゃんは無事だよ」

肩の力がスッと抜けて大きなため息が出た。

とりあえず最悪の状況ではなかった。

「でも待ってください。やっぱり分かりません。どうしてコハルが祠堂大将の……?」

「君は祠堂大将の妾の子。軍人は高潔でなくてはならない。ましてや祠堂家は代々軍人を輩出してきた名家だ」

木城少佐がにやりと笑う。

「これ以上は言わなくても分かるだろう?」

………まさか!

コハルをわざと近くにおいて俺が取り返しに

来るのを狙って……!?

最初から俺が目的でコハルを………!!

「……ふざけやがって…っ!」

拳を握りしめる。

悔しい。

悔しい。

悔しい!

体の中にあるマグマが爆発しそうだ。

「私についてこい、武藤!一緒にコハルちゃんを取り返すのだ!」

肩を思い切り掴まれた。

木城少佐の黒曜石みたいな瞳と目が合う。

少佐の瞳はギラギラと黒く光っている。

「責任も全て私が取る。後始末も任せろ。

コハルちゃんならなんとかなる!

私が保護してやるから!だから!!」

突然周りがしん…と静かになる。

が、心臓の鼓動は大きな音を立てている。

どくん!

どくん!

「大丈夫だ。お前はただ、お前からコハルちゃんを奪った祠堂大将を討てばいい。武藤」

「どうしてそこまでしてくれるんですか?」


「…お前は私の大切な部下であり戦友だから

だよ、武藤」


「お前がいなければ私は戦地で死んでいたかもしれない。武藤、お前のおかげで私は今生きているのだよ。そんな大切な戦友の窮地を…

“私の1番の戦友“を放っておくわけないだろう」

私の1番の戦友……。

「木城少佐殿……っ!」

思わず涙が溢れる。

こんな俺のことをそんな風に…!

「大丈夫だ武藤、大丈夫だから、な?」

少佐に肩をまたさすってもらってしまった。


「さあ武藤。仇を取るのだぞ」

「…はっ!!」

コハルを利用して俺を誘き出そうとするとは!

許せない。

「………祠堂ッ!!」


ぶっ殺してやる。


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