言い訳

紫陽花の花びら

第1話

 あなたは不思議で酷い人。

「あのね……ねってばぁ私……えっ」 言葉を忘れるくらい抱き締てくれる。

「ごめん遅くなって寝ぼ……」

頰を摘ままれて、

「事故じゃ無くて良かった」って笑顔で言われたら……。

「私……」

「判ってる。俺も帰したくない」

そう言って肩を抱き締めてくれる。

何故何も言わせてくれないの?

何故酷くて、嘘臭い言い訳を聞いてくれないの?

 夜中寝込みを襲った時も。

「あのね、私物凄く……」

「逢いたくて今日一日寂しかった」だって!そしてやさしく愛し合う。なんで驚かないのって聞いたら、

「鍵渡してあるのに?」だって。

私の心の中は、いつしか山のような言い訳と言葉が吐き出されないまま汚い沼のよう。好きなのに……大好きなのに……嫌い!

好きな人の言葉聞きたくない?

私が単純だからお見通しって訳?

そんなの楽しく無い。そんなの嬉しく無い。

「ねぇ最近俺のこと怒ってる?」

「怒ってない……けど別れたい」

彼が固まる。私も固まる。

「なに? 別れたいって言った?」

「うん、そうみたい」

「みたいってなに? ねえみたいってなに?」

「なんだろ……心の声が漏れたかも」

なんか面白い。こんなに焦った彼初めて見た。そしてぶちまけた。これでもかって。彼は黙っている。やがて言うことが無くなり私が黙ると、

「予知能力が拙かったな。もう発動しないね」 こんな言い訳にまんまると乗る私って。

たまに発動するそれは、意外なくらい嬉しかったげど。

 隣の高いびきの奴は誰?

枕で思いっ切り引っぱたいても起きやしない。

「あなた! 煩い!」

「へえ?」

「毎日言ってるけど判らない?」

「さあ?……言葉にしろよ」

「昔の予知能力はどうした?」

「あら、面白い事をおっしゃる奥方様だ。そんなのあったら今頃左うちわです。お休み~」

妻に背中を向けた俺……思いっ切り舌出しちゃった。明日耳鼻科に予約入れてるから。ごめん許して。愛してる今もこれからも。


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言い訳 紫陽花の花びら @hina311311

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