第2話④
それから我々は毎晩のように、地面の底から衝き上げるような震動を感じた。最初は弱々しく、断続的に、すがりつく赤子の手のひらのような切なさを伴って―――しかし衝動は日に日に大きく、そして荒々しく、暴力的な狂乱を叩きつけるようになった。隆起は最早都市の地面を半分這い尽くすほどに拡大し、一番酷いところでは、小高い丘のように地形が変わっていた。……それでも我々は、もう数か月も前の雨のためだと嘯き、見ないふりをし続けていた。
そしてある月の夜のこと―――私は見たのだ。一番高い隆起の丘の、その頂点を突き破り、巨大な蚯蚓の先端が躍り出たのを。ああその蚯蚓の表面は、我々の皮膚にできた湿疹のように、うねうねと蠕動し、紫色の、饐えた悪臭のする粘液を垂れ流して―――激震と轟音にたたき起こされ、呆気にとられる我々のほうを、蚯蚓の頭部がぐりぐりと旋回して一目見やり、妙齢の女の声でこう言った。“麗しき騎士ジーンノート。其方の忠節に感謝する”と。
あろうことか、その懐かしく、艶かしき貴女のささやきは、蚯蚓の先端、ちょうど蛇なら目のありそうなところにできた瘤のようなものから発せられていたのだった。白銀の月光に陰翳を照らし出され、その瘤には表面に少しの凹凸があることを見て取れた。
少し丸く盛り上がっている部分の下で、なめらかに起伏しつつすらりと通る稜線、その両脇で優雅に瞬きを繰り返す二対のくぼみ、紅をつける必要がないほど鮮やかな桃色に染まる薄い唇は、口先で何かを愛撫でするかのように、徐に、婀娜っぽく蠢き続けていた。
ああ、私は、地に膝を擦り付け、滅茶苦茶な歓喜を叫喚した。誠実な忠義、報恩、恋慕、そして熟爛し、蕩けきった醜悪な愛情!愛情!愛情!
ああ、ああ。その時私は確かにこの眼に捉えた。かつての王后、美しきテレジア!その頭部を―――!
翌朝には、巨大な蚯蚓はどこかへと消え、我々の誰もがその夜の記憶を夢だったのだと思い込んだ。
そして尚も背に足に絡みつく、狂気の妄執に身を焦がし、それまで通りの、変わらない日々を送っていた。
今回、この手紙を書くことができるまでに精神を取り戻すことができたのは、ふと今夜、あの時のことを思い出したからだ。私が“彼女”に恋をしたあの日のこと―――君は不快に思うだろうか、あのよく晴れたクリスマスの朝のことを。
君にまだその気があるのなら、もう一度我々のところに戻ってきてくれないか?助けて欲しい。信じられる味方も、それができるだけの力を持つ者も、君の他には知らないから」
「追伸、もし君にその気がなくとも、できることなら、ただ会いたい」
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