第2話①胸が爛れそう
「それはこの土地には珍しく、空の荒れた日のことだったと思う。始まりは些末な、ごく小さな異常でしかなく、我々は事の端緒を軽率に見落とした。我々は、君がここにいたときと寸分違わず同じような日々を送っていて、つまりあの骸の檻の中、退廃してしまったかつての都城の残骸を未だに掻き漁っている。
ここへ流れて来てからの我々は、その作業に忙殺されることを半ば望みにすら思っていて、そのほかの欲望は、例え食事や、夜毎の酒さえ、我々を悦ばすものではなくなっていた。この狂えるまでの執念は、今も陰りなく燃え盛るままだ。ああ、あの時君の諫めに従っておくべきだったとつくづく思う―――そう、ことは起きたのだ。とうに起こり、そしてもはや我々のもとからは過ぎ去った。だというのに、我々は尚もここに残って、“彼女”のことを探そうとしている。
“我々の見た“あれ”が、我々の思うものでなかったとしたら?“そんなわけはないとわかっているのに、體は今日も、瓦礫の廃窟の中へと向かうのだ。君のいない間、我々は思い知った。呪いとはかくも抗いがたき情動なのか。切り捨てた千万の無辜の民、開闢以来続いた王朝にこびりつく霊魂たち、それらのすべてが我々の背に圧しかかり、ともに地の底へ沈めようとしているかのごとく―――だが、その雨の日ばかりは、久しく嗅ぐことのなかった湿った土のにおいに覚えたいくばくかの寂寥と、どんよりと立ち込めた黒雲の圧し潰すような重さのために、日夜泥のように絡みつく妄執も鳴りを潜めていた。
数歩先の人影さえ見失うような豪雨の白い帷のなか、瓦礫の中では比較的まともに、五十人の兵士が身を寄せ合うことのできるあの崩れかけの聖堂に、我々の中の誰かが“避難”しようと言い出したのだろう。クリストフか、アダンか、或いは前日に足を踏み外して酷く背を痛めたフランチェスカだろうか?
我々を、普段あれほど恐れて、忌み嫌っていたあの陰気な建物に導くことができたのは、声望の高い者か、判断に信頼のおける者か、休ませる必要のある怪我人か……そしてもう一人、彼らの指揮官たる私の他にいなかった。
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