マイマザーウィズダイ

園後岬

第1話 アンクルサムからの手紙


エドマンドより、親愛なる君へ


雪解けの水が、フロレインの大河に冷たい息吹を流し込み、凍てついた瀑布の封印を少しずつほどき始めた。


巨大な氷の壁が、ぎしぎしと轟音を立てながら日毎深く裂け、まるで大蛇が身を突き出しているような奔流をいくつも噴き出している。


ひとつひとつが小さな川の規模に匹敵する蛇の滝は、すっかり干上がっていた大河の底を濁流で満たし始め、数多ある支流も次第に深さを増して、ここキングズロックに注ぐ黒曜川もわずかだが時を取り戻した。


民は数か月ぶりに樽の中で腐敗していない、生の水を口にし、農夫は早くも土地を耕しているようだ。直に草木も潤いを取り戻し、緑と花の彩りで、この黒い大地をうめつくすだろう。


この土地に来てから、四度目の目まぐるしい春を迎えたよ、アレックス。


君は果たして息災だろうか、我が片身の友よ。



私のほうは、中々悪くない。新都の造営は順調だし、戦で負った傷痕も漸く癒えた。


ただやはり、金と人手のことは君のように巧く扱うことはできないよ。


先の戦争は、この国の随所に深い爪痕を刻んでいて、特に物価は我々の頭を悩ませている。


麦や家畜、塩、木綿、材木、鉄、銅、錫……入用のものはほとんど高騰したままだ。


農奴の多くが死に、税収、労力、生産、およそ国を動かしていくために必要なものは、補充するのに長い時間がかかるだろう。


隣国から人を借りることも考えたが、王権を奪うために我々がとった手段は、対外的にいい印象を得ているとは言い難い。


それに、旧都を攻める戦のために、内外に伝手を持つ古い家の多くを滅ぼした。


その後釜に据えたのは、私と共に戦場で功を立てた貴族や騎士たちで、彼らには相応の立場を与えたし、いずれも優れた将軍だったが、決して皆が能吏に変じてくれはしなかったよ。


君の後任などは、四年の間に二十人近くも代わってしまった。


今、君のその舌と手とを借りることができれば、我々が抱えているどれほどの問題が解決するだろう?


……愚痴っぽくなってしまったが、すまない、実は私はこの国の行く末よりも、無二の幼馴染が、側にいてその落ち着く音色をもった声で、話して聞かせてくれないことを憂いている。



同封した手紙は、君の叔母上からのものだ。差出人不明につき、不躾だが中身を検めた。


宛名は君で、しかし君はもうここにいないものだから、内容について多少用心せざるを得なかったが、要件は君と叔母上の個人的な問題に過ぎないようで、そこは一つ謝らねばなるまい。


配慮と称してはささやかだが、私が自ら確認したから、最低限のプライバシーは保たれたはずだ。


結局文中にも記名はなく、叔母上からのものだと推測したのは私の独断に過ぎない。


君のことは、もう長い付き合いになるからほとんど知らないことはないと思いたいが、しかしだからこそ、万一のことがあっては我々の友情に傷がつくだろうということを、私はとても恐れている。


最後に顔を合わせてから、もう二年に近くなるだろうか。


その間、君は一度も私を招くことも、訪ねることもしてくれなかった。我慢の限界が近づいている。君の顔が恋しく、一目見たくてたまらない。直接押しかけてしまうことを許してくれないか?


君の元にこの手紙が届く頃と多少前後するかもしれないが、どちらの場合になろうとも、君が私を門前払いすることはないと信じて、会いに行くことにする。


どうか、かつての付き合いと同じ暖かさで私を迎えてくれんことを!

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