【KAC20237】それで、いいわけ?

リュウ

第1話 【それで、いいわけ?】

 僕は、パソコンの”公開”ボタンをクリックした。

 これで、カクヨム・アニバーサリー・チャンピオンシップ2023の最後の投稿が終了した。

 ソファに背中からもたれかかる。軽く目を閉じる。

「終わったの?」と、キッチンで洗い物を済ませる彼女の声だった。僕は、あいまいなはっきりしない声で答えた。

 このイベントは、三月から十七日間に渡る戦い、この期間に七つのお題が出される。

 後半は、疲れが出たが、頑張った分、祭りの後のような脱力感に襲われていた。

今回もすべてのお題に答えることができた。自分でもよくやったと思っていた。

 もっと、明るくて楽しくなる物語を書きたかったが、ホラーが多くなり、暗い物語が半分以上を占めてしまった。

 お題のせいではなく、自分の引き出しが足りない結果だった。

 自分が納得できる作品が、一つでも生まれると信じていたのに。

 ソファから、身体を起こし、今回の投稿した自分の作品の一覧に目をながめる。

 ”★”に、目が行ってしまう。

 僕の作品の結果は、散々たるものだった。

 投稿して、数分で三桁の”★”を取得する者も居るのにだ。

 僕の”★”は、ない。0のまんまだ。何もない。

 作品が読まれているのかもわからない。

 人気のある作品しか、読まれていない?

 人気があるから、読まれているのか?

 時間を割いて、頭を抱えて書いた作品の評価がこれだ。

 参加しない方が良かったと言う言葉が心をかすめる。

 なぜ、良い作品が書けなかったのかと色々と理由を探った。

 でも、その理由は、ただの言い訳にすぎない。

”事実を認めろ”

 自分に言い聞かせる。

 誰によって書かれたかは、関係ない。

 純粋にすばらしいと判断された作品が評価されたのだと。


 これから、どうしたらいいのだろうと頭を悩ませていた。

 僕が、ソファで天を仰いでいると。

 彼女が、ビールと茹でた枝豆をテーブルに置くと、僕の横に座った。

 僕にコップを渡すと、はいビールと缶を傾けた。

「悩んでるの?小説の事?」

「ああ」と短い返事を返した。

「落ち込んでるの?……それで、いいわけ?」

 彼女は、僕を見つめた。何?と僕。

「忘れなさい。そして、進みなさい。それしか、ないのよ」

 彼女は僕に、さぁ、くいっとコップを開けてと、顎で合図した。

 僕は、苦いビールを喉に流し込み、コップを差し出す。

 彼女は、そう、その調子とビールを注いでくれた。

 僕は、顔を上げた。

 そうだ、進むしかないのだと。

 僕は、とっても彼女が愛おしくなり、肩を引き寄せた。

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