タダシくん(仮名)の13の言い訳

雲条翔

第1話 序盤で褒めてる理由

 コンビニの店長は、頭を抱えていた。


 最近のアルバイトには、問題のある若者も多いが、その中でも大学生のは、群を抜いている。


 タダシくん(仮)は、二十歳の大学生。

 長身の爽やかなイケメンで、物覚えも良く、てきぱきと何でもこなしてくれるし、指示を出す前に自分で判断し、率先して動く気遣いもある。

 その実績から、バイト一年目で、バイトリーダーを務めている。

 他のバイト仲間からも慕われているようだ。

 

 確かに、の彼の仕事ぶりは素晴らしい。


 しかし、彼の長所をプラマイゼロにしてしまうほどの短所がある。


 とにかく、時間にルーズなこと。

 しょっちゅう遅刻するのである。


 定時から、五分、十分遅れるくらいの遅刻であれば、大目に見たっていい。

 だが、それが、「ほぼほぼ毎回」となると、ちょっと困りものだ。

 

 しかも、彼は遅れてきたあと、必ず、笑顔でハキハキと言い訳をするのだ。


<パターン1> 寝坊


「すみません店長! 昼寝していたら寝過ごしました! いい夢見てました!」 

「堂々と言う度胸がすごいね。次回から気を付けてね」


<パターン2> 寝坊・パート2


「すみません店長! 一度起きたんですが、つい二度寝しました! しかも悪夢を見ました! 二度寝しなきゃよかった!」

「一度起きた時点で出勤しようね。次回から気を付けてね」


<パターン3> 寝坊・パート3


「すみません店長! 淫夢を見たので、意図的に二度寝しました! 続きは見れませんでした! 惜しい!」

「惜しくない。夢の内容、バイト先に報告は不要だからね。次回から気を付けてね」


<パターン4> 公共交通機関の遅延


「すみません店長! 人身事故で電車が停まって、遅れました!」

「ん? 君、アパートからこの店まで、たしか自転車で通ってるんだよね? 電車は関係ないんじゃないの」

「そうなんです! 自転車での通り道で、途中で駅が見えるんですけど、電車、ずーっと動かないなーと思って、ぼけーっと眺めていたら、けっこー時間が経ってたっす! ビックリですね!」

「うん、こっちもビックリだね。君の中での、ダイヤグラムと脳に乱れが生じていたんだね。次回から気を付けてね」


<パターン5> 交通事故


「すみません店長! 近くで、交通事故がありまして!」

「ええっ!? 巻き込まれたの? 大丈夫?」

「しばらく、野次馬の一員として参加して。見てました」

「野次馬参加宣言、立派だね。次から寄り道せずに、まっすぐ来てね」

「でも、ケガしたんですよ」

「えっこれ続くの? やっぱり巻き込まれたってこと?」

「大学で転んで、右手のヒジを擦りむいたんですよ」

「交通事故関係ないね。別の話題に飛躍したんだね。このトークがもはや事故だね」


<パターン6> 猫


「すみません店長! 途中の道路に、可愛い野良猫がいまして」

「猫だと! すごく可愛いのか!? 写真はあるのか?」

「ほら、スマホで撮ってきましたよ。子猫なんですよ」

「うっわぁ! これはいい! あとで動画共有な。猫なら遅刻も仕方ない。許す」


<パターン7> 犬


「すみません店長! 途中の道路に可愛い野良犬がいまして。ちっこくてふわふわの子犬なんですよ。スマホで写真も撮ってきましたよホラホラ可愛い」

「……あのさあ。俺、犬は嫌いだから。昔、噛まれてから、大っ嫌いだから。次回から絶対遅刻しないでね。今度、犬って言ったらバイト代を半額にするからね」


<パターン8> 困っている人


「すみません店長! ここに来る途中で、大きな荷物を持ったおばあさんと、苦しそうにしゃがみこんでいる妊婦と遭遇しまして!」

「大きな荷物を持ったおばあさん、苦しそうにしゃがみこんでいる妊婦との遭遇とは、ベタな言い訳パターンだね。うん。助けてあげてたから、遅刻したの?」

「世間話してたら、時間になってましたぁーっ!」

「世間話してないで、助けようよ。次から」


<パターン9> アルバイト


「すみません店長! コンビニのバイトに行ってたら遅れました!」

「ここもコンビニだよ!?」

「あっ、間違えた。今の、なしです。別のバイト先用の言い訳だった」

「別のバイト先用!? ウチの店を言い訳に使ってるの!?」


<パターン10> 異常気象


「すみません店長! 大雪で遅れました!」

「今は……夏だよね」


<パターン11> 天変地異


「すみません店長! 隕石落下を阻止していたら遅れました!」

「わかった」


<パターン12> 侵略者


「すみません店長! 空から宇宙人が! UFOで! だから遅刻!」

「もうわかった」


<パターン13> もはや意味不明


「すみません店長! 時空連続体の概念、その超越方法を巡り、遅刻という事象をどうやったら回避できるか思考実験を繰り広げた結果、遅刻そのものに到達するという矛盾を内包した結論に」

「もういいから。君、お笑い芸人か、作家にでもなったら」


■ ■ ■


 店長に言われて、こうして俺……は、「小説投稿サイトに書く側」の人間になり、自分の経験をネタにして短編を書いた。


 今はあのコンビニも潰れてしまったけれど……猫好きのあの店長、今も元気にしてるかなあ。

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タダシくん(仮名)の13の言い訳 雲条翔 @Unjosyow

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