第4話 刹那の風景2: 第二章 クリスマスカクタス: 剣と魔法(カクヨム限定)
【セツナ】
初めての訓練を終えたアルトに聞かれた一言で、僕は条件反射のように、最初の依頼のことを思い出した。その依頼は薬草採取の依頼だったのだけど、僕にとって初めての魔物との戦いともなった。
といっても、魔物に襲われたわけではなく、ほんのささいなきっかけから、僕は自分から魔物と戦うことを選択したのだ。
「メティスの討伐はあっしの依頼でやんすから、手伝ってもらうにはおよばないっす」
前日、知り合ったジゲルさんに討伐の手伝いを提案したところ、断られてしまった。一晩呑み語らい合っただけの仲だったけど、彼の誠実で真面目な性格は感じとれていたので、そういわれることは想定内だった。
一人で受けた依頼で、一人でこなせると冒険者ギルドが判断したのだから、最後まで一人で成し遂げなければならないということなのだろう。
今なら、冒険者なら当然だとも考えるし、ジゲルさんの決断を尊重しなければとも思って、別れたと思う。
でもあのときの僕は、初めての依頼で浮かれていたし、人生の先輩として敬意を持っていたし、カイルと話したあとにまともに話した最初の人だから別れがたかったのもあるし、何より前日倒れていたので心配ということもあり、さようならを選択することはできなかった。
「昨日いったとおり、冒険者になったばかりなので、魔物と戦ったことがないんです。なので、指導してくれると嬉しいです」
そういうと、ジゲルさんは少し考えたあと、笑っていった。
「あっしなんかが教えられることなんてとは思うっすけど、それでもいいでやんすか?」
おそらく、僕をほっとけなかったのだと思う。ジゲルさんからしたら、自分のこともままならないのに足手まといを抱える決断をさせられたのだから、迷惑だっただろう。それでも、笑って受け入れてくれたのだから、頭がさがる。
そのうえ、このときに受け入れてくれたことで、僕は助かることになったのだから、とても感謝している。
初めての実戦は、それから間もなくして訪れた。ジゲルさんはメティスを見つけるのにかなりの苦労を強いられたようだけど、カイルの遺してくれたこの体に宿る力を持ってすれば、それを探すことは、簡単なことだった。
(散々、苦労したんだろうな)
カイルからの贈り物であるにせよ、魔物を軽々と見つけてしまったことに少々後ろめたさを感じながらも、僕はジゲルさんに3匹のメティスがいる場所を指差した。
そのとき、メティスのほうでも僕達を見つけたのか、急に襲いかかってきた。僕が風の魔法で迎撃をしようか、それとも補助の魔法をかけたほうがいいかを話しかける間もなく、ジゲルさんは構えながらメティスに向かっていった。
「あっしが右側の2匹を受け持つので、セツナさん残りの1匹を頼むでやんす」
そういわれて、僕は少し焦った。
(そうだ、僕が魔導師だということを、伝えていなかったか……)
後ろ姿を見ながら、剣を構えて前にでるか魔法を使うか一瞬だけ悩み、僕はこの場に相応しいと思われる魔法を発動することにする。
その判断の理由は、二つあった。剣士として前に立ち魔物と戦ういう心構えをしてきてなかったので、魔物と正面切って対峙するのがためらわれたのが、一つ。
魔導師として戦うために、前もってカイルが使っていた魔法で、駆け出しの僕が使うに相応しい魔法を、幾つか覚えて準備してきたというのが、もう一つだ。
覚えてきたというのは、受け継いだ知識を検索するのではなく、すぐ自分の頭から思いだせる状況にしたということだ。前者と後者とでは思いだす時間差はほぼないのだけど、とっさのときにはそれでもその時間が大事になることもあるだろうと考えて、そうした。
覚えた魔法は、癒やし、結界、転移、敏捷さ強化、捕縛だ。その中で捕縛については、「風で捕縛?」と気になって調べたのだけど、下降気流で対象を地面に押しつけて動きを封じるカイル独自の魔法で、超簡単でお薦めと紹介されてあったので、覚えることにしたのだった。
このときメティスに放とうとしたのは、その捕縛の魔法だった。特に選んだ理由はなく、前述のように不思議に思ったことがどこか印象に残っていたからだ。
しかし魔力が動きだしたとき、僕の顔面が蒼白になる。自分の中で動かす魔力の量が、想定外に動いていることが実感できた。
(この魔力の量は、まずい!)
『覚えた』というのはあくまで魔法の構造や発動や制御の方法を頭の中に記憶したという文字どおりの『覚えた』であって、実際に試したわけではない。
なぜ実際試さなかったかといえば、試さなくても十分だと思っていたの一言に過ぎる。なぜなら、僕はカイルの体を受け継いだばかりの僕でも、何も意識せずとも転移の魔法が使えたのだから。
しかし、それは誤りだったと後悔せざるを得ない。今この瞬間に、魔法を発動させるために魔法陣を走っている魔力は、そこからあふれかねなかった。そうなれば、何が起こるかわからない。
僕は魔法の発動をやめ魔力の放出を止めるが、魔法陣を走っていた魔力については、それだけでは駄目だ。このまま放置したらたゆたっている魔力が、暴発する可能性があった。
(この魔力で、魔法を再発動するしかない。宙を漂っている魔力で行使できる魔法は……)
それは、結界二つ分の必要魔力とほぼ同等だった。
(それなら……)
結界を作るとき、遮断したい対象が動いていると結界の面を、どの位置にするか判断が難しい。幸運だったのはジゲルさんが戦っている前面の1匹以外は、僕とジゲルさんを警戒し動きをとめていた。
僕は魔力を寄せて2つの魔法陣に流し込むと、メティスをそれぞれ小さい結界の内側に閉じ込めた。
「ジゲルさんの右側のメティスは、結界内に閉じ込めました! 前面の敵だけに集中して大丈夫です」
「セツナさん!? ありがとうでやんす」
そういってからのジゲルさんの奮闘は素晴らしく、目の前で跳ねて噛みつこうとしてきたメティスを盾で叩き落として、剣でとどめを刺した。そのあと僕達は、結界内に閉じ込めた残りの二匹を遠巻きにして倒した。
「セツナさんは、魔導師だったんすね。驚きやした」
戦いが終わって緊張感が途切れたのか、ジゲルさんはその場に座り込みながら話してきた。
「申し訳ありません。話すのを忘れていました」
「いや、冒険者の先輩として、確認を怠ったあっしが悪かったっす」
そんな感じで、お互い意思疎通が大事だと反省し合った。
ただ、僕自身の反省はそれだけではなかった。それは、最悪の場合を除いて、使う魔法は前もって試すべきということだった。
後日、改めて先の捕縛魔法を一人のときに使ってみたのだけど、下降気流で敵が押しつぶされてしまって、あれは決して捕縛とはいわない……。
気になっているのは、そのときも流れた魔力の量が、僕の想定とは違った点だ。最初の内はカイル独自の魔法だからかとも考えたけれど、他のカイル独自魔法を使っても想定どおりに使えるものもあるので、よくわからなかった。
「それで、ししょうは、けんとまほう、どっちが、とくいなの?」
僕が黙っていた時間が長かったのか、しびれをきらしたアルトが、再び質問をしてきた。
「それは、剣かな」
僕は笑いながら、いつわらざる気持ちを答えた。
「えー、まどうしで、ぼうけんしゃとうろく、しているのに?」
アルトとしては、本職でもない剣でも強いのだから、本職の魔導師である魔法はもっとすごいのだという答えを期待していたのだろう。
「えー、魔法は難しいんだよ、アルト」
僕は苦笑しながらアルト頭を撫でたが、アルトは怪訝な表情を浮かべていたのだった。
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