1日目:魔獣積載
仕事場から徒歩10分ほどのところに俺の宿舎がある。床にはベッドが広がっていて、軍から支給された携帯端末が二つほどが机に並ぶ。衣装箪笥のハンガーにかかっていた軍服に袖を通し、帽子を被る。ズボンのポケットに携帯を入れ玄関を出ると目の前には国境が見える。
「おはよう、上等兵」
「おはようございます。ジョルベ曹長」
「本日から君は一人前の国境警備隊員だ。仕事としては簡単だが、国を守る重要な仕事だ。嘘偽りは確実に取り締まれ。いいな」
「総統の名に懸けて!」
「それでは、今日も1日よろしく頼むぞ」
俺はいつもの警備室の回転椅子に座り、ボタンを押した。ゲートが開門して、タングステンに渡る人々の列がこちらに向かってくる。拡声器のボタンを押して、並ぶ人に警備室まで来るよう催促する。
「次の方、どうぞ」
「やあ、看守さん」
まずやってきたのは身の丈190センチほどある大男だ。柔和な顔と声で彼の姿は優しさを感じる。だが、ここでは本人の性格はどうでもいい。要は証明証が正しいか、ただしくないかだ。
「入国許可証及び個人証明証を提示してください」
「どうぞ」
男は二枚の紙を提示してきた。1枚はジェローム王国製の個人証明証、そしてもう一枚は入国許可証。この二枚に誤りや偽りがないかを確認するのが俺の仕事だ。
「よし、間違いないな。通れ」
「ありがとう。ここは軍国だが、治安がいいですね」
「詰まるからさっさと行ってくれ」
男がもう一人の兵士に連れられながら入国していく。
さて、どんどんと進めていこうか。何人も何人も間違いがないかを確認する作業。はっきり言って最悪の仕事だ。疲れる。入国者を追い返すのも大変だ。しかも、魔法使いの見極めも大事だ。魔力を持つ人間かどうかは、この警備室の手前に立つとわかる。床が感知板になっており、その人の体重とともに魔力量が出る。魔力がゼロもしくは不明の場合は非魔法使い。そして魔力量が1でも検出されたら魔法使いだ。
『ビー』
魔力量を一定量検知するとはアラームが鳴る仕組みになっている。つまり、この目の前にいる人間は強制的に連れ去られていく。
「ちょっと! なにしてるんですか!」
「あなた、魔法使いですね。我がタングステンは魔法使いを弾圧していることをご存じないのですか?」
「そんなの差別だ! 誰にでも国は自由に渡っていい資格があるはずだ!!」
目の前の女は二人の軍人に取り押さえられてもなお暴れる。だが、軍人の一人が持っていた麻酔針によって彼女はおとなしくなり連行されていった。そんなことに時間を取られると1日がすぐに過ぎてしまう。 平均20人ほどさばいているが、こういうトラブルがあると減ってしまう。当然その分配当金は減ってしまう。そんなこと分かっている。頭を抱えつつ、俺は宿舎に戻った。
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また、同じ朝を迎えた。警備室で同じように許可証を確認していくと、次は大きな荷台つき4輪が警備室の前に現れた。ここは人間だけでなく、4輪のような車両も検問対象だ。俺は久しぶりに警備室から出て搭乗者に話しかける。
「どうも、運転手さん。入国許可証と個人証明証、そして積載証明書を見せてください」
荷台があるとさらに積載証明が必要だ。国は科学的に進歩したというのに、ここのあたりはすべて紙でやりとりしていると言うから我々の管理が大変だ。渡された証明書には『家畜 1匹』と書かれていた。俺が車両の後ろに回り、その荷台を見上げると黒い箱のようなものがガタガタと揺れていた。ここに家畜が入れられてるのか? 随分と頑丈だな。
「中身を確認したい。鍵を渡しなさい」
「だだっだだ 大丈夫ですって ただの豚、ですから」
「であればなおさら、確認しても問題ないはずです」
車両の運転手に降りてもらうも、魔力量は検知されなかった。ということは、非魔法使いか。でも、なんでこの荷物を見せたがらない? これも仕事だ。そう割り切って男の鞄や体をまさぐって荷台についた鍵を拝借する。
「ちょっと待って! それをはずしたら!!」
運転手の言葉も聞かず、俺はその黒い箱の鍵を開けた。すると、そこにはなんと大きな鳥が入っていた。しかも、羽根が燃えているように見える。熱気と共にその怪鳥は空へ羽ばたき、こちらへ向かってくる。国境警備にあたっていた他の兵士たちは十を乱射するも、怪鳥には当たっておらずそのまま不法入国していった。
「まさか、あれが噂の魔獣というやつか!」
「ああ! 3か月もかけて捕まえたフェニックスがぁ!! キミ! ちょっとどうしてくれるんだ!」
「それはこちらのセリフだ! 君、この運転手を連行してくれ。そして、君は国境を今すぐ閉鎖し曹長に報告してくれ! 私はあの魔獣を追いかける! いいな!」
「「総統の名に懸けて!」」
近くで待機していた二人に指示した後、彼らは声をそろえて敬礼する。俺に愛国心とやらはないが、トラブルは最小限にしなければ配当金が減ってしまう。俺は警備員二人を背に駆け抜け、配当された2輪にエンジンをかけて怪鳥を追いかけていく。
「曹長」
俺は、耳にイアフォンを取り付けて曹長に電話をかける。
曹長は騒動の話をすでに聞きつけており、すぐに指揮命令権が移る。
「今から私が指揮を執る。現在、4輪で対炎属性魔獣核冷却器を配備させる。現地合流後、被害を最小限にした上完全に対象を沈黙させろ。いいな」
「総統の名に懸けて」
2輪のエンジンをさらにふかし、現場へ急行する。
数十メートル上空には魔獣が自由に羽ばたく。彼が街に着く前に4輪と合流したい。
そう思っていると、対向車線から大型荷台4輪が近づいてくる。一度、俺が追い抜いた後、彼らはハンドルを切り替えて並走し始める。速度を落とし、荷台の方に行くと荷台の扉は開いていた。2輪を収容するリード線が荷台から放り投げられ、それを受け取ると俺は荷台に収容されていった。
「魔獣駆除班、班長のゴランだ。使い方は省略して大丈夫だな。君の活躍に期待する」
2輪を降りると、荷台にいた班長が握手を迫った。
俺も少し笑顔を見せた後、握手に応答する。
彼も笑顔を見せるが、少し不安だ。
「50式麻痺弾は配当されないのですか?」
「さすがは我が国精鋭の警備隊だ。魔獣対策基礎も万全のようだ。すぐ手配しよう。 よし、君の2輪にサイドカーを増設した。麻痺弾と冷却器はその中だ」
「ありがとうございます。行ってまいります」
俺は、改めて2輪に乗り直し荷台を降りていく。
そのまま、魔獣めがけて疾走する。敵は以前上空だ。
このまま、搭乗したまま相手を狙うしか方法はない。
始めの街まで後数メートルしかない!!
「クソ、自動運転切り替えろ!」
『オートモジュール起動』
両手を離し、2輪に増設されたサイドカーにあった麻痺弾を取り出した。
麻痺弾の底面にあるバーコードを腕に取り付けられたバーコードリーダーに触れた。
「なるほどな。スコープはここか」
麻痺弾に装着されていたスコープを利用して俺は羽ばたく魔獣に狙いをつける。
自動運転とはいえ、手元がブレる。しかも相手も動いている。ここは威嚇射撃でこちらに気を引かせるしかない。
「いけ!」
一発引き金を引くと、弾道は魔獣の真横スレスレを横切る。それを感知した魔獣はこちらに興味をしめしてくれた。占めた。これで狙える! 魔獣が羽を畳み、こちらへ急降下していく。熱が近づくにつれて、汗が止まらない。自動運転を取りやめ、2輪を道路の横に付けさらに狙いを正確に定めていく。
「まだだ。惹きつけろ!! 麻痺弾は数分しか持たない。............。 今だ!」
もう一発引き金を引いた。今度は魔獣の真正面に当たり、魔獣はすぐにふらついていき、道路脇の林の方へ墜落する。
「まずい! 消火器も配備してもらうんだった! とりあえず、冷却だ」
冷却器を担ぎながら俺は墜落した魔獣へ近づく。
こう見ると、大きな鳥程度だな。俺はすぐに冷却器を地面に設置し、先端のノズルを魔獣の口の中に入れていく。
「冷却開始!」
設置されていた装置の電源を押すと、ノズルから一気に液体窒素が流れていく。
それと共に地上に白い靄がもくもくと吹き出ていく。
数分立つと魔獣は赤い炎を纏った姿から、青白くなっていく。
「完全冷却まで、5、4、......。よし、完全冷却完了。対象沈黙」
沈黙と共に、さきほど合流した4輪にいた魔獣駆除班の班長が消火器を持って駆けつけてきた。
「ふう......。これで、わが国の美しい自然は守られた。君もご苦労だった。後はこちらで処理する」
「ご協力感謝します」
魔獣対策班があるなら、そっちの管轄だろとも思ったが俺は口を紡ぎいつもの国境警備へ戻った。今日は散々な1日だった......。
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