事の顛末

 * * *


「いやぁ、お見事でしたお二人とも!」

「真逆犯人が自死するとはな……」

「やれやれ。大変な事件だったねぇ」


 次の日の新聞。

 これまでの一連の”連続殺人事件”の犯人が辿った劇的な最期がその日の一面を飾った。胸に薔薇を一本突き立て、口に拳銃をくわえていた犯人。

 静かに目を閉じて、まるで”人形”のように眠っていたとのことだ。


 薔薇の茎には一通の手紙。


 ――待たせてごめんね。――

 ――今から会いに、行くよ。――


「天国で二人は再会しましたかね」

「さあどうだろうなぁ」

「……きっと、会えるさ」


 物悲しい秋の季節。

 涼風が落ち葉をさらってどこかへ行く。

 紅葉の時期もすっかり逃してしまった。




「で、修平君はこれからどうする?」




 大輝に聞かれ、彼の方を振り向いた。

「どうって、何が?」

 ぽかんと聞いた彼に大輝がちょっとだけ戸惑い、少し照れ気味に頬をかく。

「実は、さ。この、その……あの……『犯罪予備防止委員会』? ……続けたいかなって、思っててさ」

 それに直後返ってきた言葉!!


「えええええー!? またこき使われんのぉ!? マジごめんなんだけどおおおお」

「がーん!!」


 ……そりゃそうである。

 が。


「自分は委員長達のもとでまたお世話になりたいです!」


 そう言ったのは目をキラキラ輝かせた時沢武。

「本当かいっ!?」

「はいっ! ――自転車二人乗りして、警備員室の窓ガラス壊して、縄盗んで、隣りのビルの窓ガラス破壊して、犯人との格闘で大けが負わせてしまったので」

 彼の顔に「もう他に行く場所がありません」って書いてある気がする。

 しかしそれには全く気が付かない大輝。ぴょんぴょん小躍りして武の手を取りくるくる回り始めた。

 ……。

 何か哀れだ。


 ……。

 いつまでものほほんとした顔をしているおちゃらけた委員長。


 ……俺がコイツをしっかりさせてやらねぇといけない気がする。


「――なあ」

「ん?」

 今度はあちらがぽかんとした表情で聞き返してくる。

「何?」

「……最初の約束反故にするけどさぁ」

「じゃあヤダ」

「話は最後まで聞け!」

 思いっ切り胸倉掴んで彼の顔面目がけて唾を吐き飛ばす。


 ……。


 TAKE2。


「――なあ」

「ん?」

「……最初の約束反故にするけどさ」

「何だい改まって」


「あの……」


「……」


「……もご」

「なあに? 聞こえないよ」


 修平も修平でいざ自分の気持ちを言おうとすると恥ずかしくなってくる。


「だ、だから!」

「うん」




「ぴっ、ぴよちゃん飼っても良い、なら!」




「いてやらん、ことは、な――」

「やったああああああああああああああ!!」

「おい、俺はまだ何も言ってな――やめろ時沢、胴上げすんな!!」


 大学のド真ん前。

 正門前広場で高く高く胴上げされる真っ赤な顔の天才ハッカー。

 もうどうにでもなれ! と顔に書いてある元警官。

 そして今日も猫みたいにのほほんとした顔をしている謎多き委員長。


 この三人の騒ぎようったら祭りかと思われる程であった。(実際何人かには間違われた)


「あはは! 恥ずかしがり屋の!」

「絶対いつか殺してやる、このクソ沢が!!」

「へへーん! 出来るもんならしてみろってんだ!」

「クソッ! こーなったら『ぴよちゃんず』を使って――あれれれ!?」

「――あ。今朝、戯れにみんなウコッケイちゃん達にしておいちゃった!」

「シブサワアアアアアアアアアア!!」


 * * *


 これで悲しい悲しい悲恋の物語はおしまい。




 ――そしてこの事件をきっかけに創設された「犯罪予備防止委員会」ですが。

 後に本格的に彼らは独立。

 普通の探偵社や警察などには頼みづらいことを捜査、もしくはゴニョゴニョする集団として大成功!


 最終的には彼ら含め合計七人の構成員を抱える少数精鋭の委員会となりました。


 そんな彼らが「LIAR」という詐欺師が起こした奇怪な殺人事件に巻き込まれ、やがて起こる大事件に立ち向かっていくことになる――のはまた別のお話……。




 * * *


「……ところでさ、大輝」

「ん?」




「『幸せのシナリオ』って、何のことだったっけ」




 委員長の細い猫のような糸目が、すぅと見開いた。


(おわり)

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言い訳。 星 太一 @dehim-fake

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