【短編】教えて下さい先輩

うまチャン

わたしの疑問の答えを教えてほしいです先輩

「先輩、今ちょっとだけ疑問に思ったことがあるんですけど、聞いてもらってもいいですか?」


「おう? なんだ?」


「何でボールはだんだんと跳ねなくなるんですか?」


「は?」


 わたしの名前は浅井あさい 若葉わかば

どうぞよろしく。

そして、わたしの眼の前にいる暗そうな男子が、同じ部活の先輩の佐藤さとう れん先輩。

別に髪を長くして目元を隠しているわけじゃないんだけど、とにかく全体が暗い。

だから、周りからは結構怖がれているみたい。

そんなことを思っている人は許さない。


「あの……そんなに顔近づけなくても良くないか?」


「あ、ごめんなさい。どうしても先輩にわたしの疑問に答えて欲しかったので」


「いや、だからといってそんな若葉の目しか映らないくらいまで顔を接近しなくても良くないか?」


「それも確かにそうですね。何で先輩にだけこうしたくなっちゃうのでしょうか。それもぜひ教えてほしいです!」


「それは若葉の奇行だから説明できない」


 なるほど、これはわたしの奇行だったんだ。

だから、先輩だけにはこうしたくなってしまうんだね。


「とにかく、若葉の疑問は『ボールは何でだんだんと跳ねなくなっていくのか』だよな?」


「おー、そうです。すっかり忘れてました」


「1分も経ってないんだけど……?」


「わたしは忘れっぽい性格なのです」


「絶対違うよな……。まあとりあえず、解決方法は図書館に行くことだな」


「えっ、先輩もしかして……知らないんですか?」


「ああ、知らない」


 ――――そっか、先輩は案外役立たずだったんだ。

期待したのに……残念だなぁ……。


「ちょっと待て若葉。今俺のことを役に立たないからって放って置こうとしたな?」


「チッ、察しの良い先輩ですね」


「チッてなんだチッて! 舌打ちさなくても良くないか!?」


「たまに先輩をいじめたくなる。これも何ででしょうかね?」


「あーもう! そんな疑問はどうでも良いから早く図書館行くぞ!」


「あーれー」


 無理やり先輩に腕を引っ張られながら連れていかれた。

先輩、意外にも誘拐することなんてあるんですね。

しかもわたしみたいに可愛い女の子を。

でも……案外嫌じゃないかも。

他の人なら絶対に壁を突き破るくらい強く蹴り飛ばすけど、先輩なら……。

この気持ちはなんだろう。

明日先輩に聞けば解決してくれるかも。









◇◇◇









 先輩に引っ張られたまま、わたしたちは図書館に入った。

ちなみにわたしは図書館なんてほとんど行かない。

というか、初めて入った気がする。


「へえ、図書館ってこんな感じなんですね」


「こんな感じですねって……もしかして、人生で一度も図書館というものに行ったことはないのか?」


「行ったことはありますけど、覚えているのは小学生までですね」


「ま、まじか……。あー、でも若葉ってあんま図書館に行く感じしないもんな」


「――――もしかして、勉強できないからってバカにしてます?」


「しとらんわ! なんでそんな捉え方になるんだ!? てか、今はそんなことで言い争っている場合じゃない。若葉の疑問を答えてくれる本を探さないと!」


 そう言って、先輩は本棚に向かっていった。

文句を言いながらもちゃんとわたしの疑問に応えてくれる。

なんでだろう、心臓がいつもより早くドクドクいってる。

この正体はなんだろう。

明日先輩に聞いてみよう。


「先輩、わたしも探します」


「当たり前だ! あともうちょっと声の音量下げて。図書館は静かにしなきゃいけないから」


「――――? 周りに誰もいないのに?」


「そうだけどルールだから!」


「分かりました。静かにします」


 先輩がそういうのならしょうがない。

わたしと先輩はそれらしきジャンルが集まった本棚を見つけた。

そして、書いてありそうな本を中心に読み漁った。


「先輩ありましたか?」


「うーん……物理的なものだから書いてあるかと思ったけどないな。昔なにかのDVDで見た気がするんだけど……。なんだっけな〜?」


 先輩は優しい。

本当に素朴な疑問を投げただけなのに、こんなにも真剣に一緒に考えてくれる。

素敵。


「――――あっ! 分かった思い出した!」


 先輩は手をぽんっと叩くと、すぐに隣の棚へと急いだ。

わたしもついていくと、先輩は数学の参考書が集まった棚の前で立ち止まって探し始めた。

そして、しばらくすると見つけたのか、一冊のボロボロの本を取り出した。


「そうそう! これだよこれ!」


「見つかったんですか?」


「ああ! 今思い出したよ。俺の家にもあるんだけど、これすごい分かりやすくて好きな本なんだ!」


「なるほど……。『見てるものから知る数学』ですか」


「そうそう、この本は数学を普段目にしているものから探し出すっていう本なんだ。この本に若葉が疑問に思っていたことについて書かれているんだよ」


 そう言って、先輩はパラパラとページをめくった。

まるでどこにそれが書いているのかを知っているかのように、ピタッとそのページを開いた。


「若葉、これを見て」


「――――?」


 先輩にそう言われ覗いてみると、タイトルは指数関数だった。

この指数関数がボールがだんだんと跳ねなくなる理由?


「地球に限った話じゃないけど、惑星には重力があるよな? その影響でボールってだんだんと跳ねなくなってくるんだけど、最初にバウンドさせたら重力にかかった分だけ跳ね上がらなるのは分かるか?」


「先輩、このわたしを舐めないでください。そのくらいは簡単に理解できます!」


「そんな自信満々にドヤ顔言されて言われてもな……本当に大丈夫かなぁ? まあとにかく続きだ。そしたらまた跳ね上がったら重力でボールにかかって跳ねなくなる。そしてまた跳ねて重力に押されて……という繰り返しが起こる。ということは若葉、結果的にどうなるか分かるか?」


「結果的に……いつかは跳ねなくなるってことですか!?」


「そういうことだ! つまり最初に跳ね上がった高さを1にすると……1×Zの何¦じょうってすることが出来ないか?」


「――――! ということはだんだんと跳ねなくなっていくから……何乗の何は小数点が付いた数字になるってことですね?」


「大正解!」


「なるほどなるほど! 納得です! 先輩ありがとうございます!」


「良かったな。若葉の疑問が解けて」


 さすが先輩だなと思った。

ちょっとドヤ顔になっているけど、それを覗いたら普通にかっこいい先輩だ。

また疑問が浮かんだら先輩に聞いてみよう。

そうしたら、また解決してくれる。

なんて心強くて頼れて、優しい人なんだろう……。

あ、また心臓がドキドキしてる。


「あの先輩、もう一つ疑問があるのですが……」


「ええっ!? まだあるのかい! 今度はなに!?」


「わたし、先輩と話しているといつも心臓がうるさいくらいにドキドキするんです。それに舞い上がった感じになって体も団扇で扇ぎたくなるように熱くなるんです。さらに先輩の姿がさらに輝いているようで、いつもより男の人らしくて格好良く見えてしまうんですよ。これってどうしてなのか教えてほしいです」


「――――えっ?」

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