第33話 神社の参道がひどすぎる
今の世の中、過疎化が進み過ぎちゃって、管理する者が居ない為に、廃棄された神社や寺院は結構な数に登るだろう。
酒巻山の中にある廃神社もまた、人々の記憶から忘れ去られているのだろうと思っていたのだけれど、意外や意外、神社までの参道は誰かが雑草を刈り取ったような形跡が残されていた。
社長の祖父が家を出てから、分家の人間がその後を引き継ぐことになったと言うけれど、神主の職務を引き継ぐようなことはしなかったらしい。
戦後の混乱期の中、最低限の役目を全うすることにして、神様に関わるようなことはしたくなかったのだろう。
蛇の子孫と言われているだけあって、六百年もの間、血筋にはこだわりを持って守り続けていたはずだ。本家こそ絶対というか、本家だからこそ、神との交信(ご先祖様との交信)が出来るのだろうと考えていたのかもしれない。
だから、今の時代になっても、長野の熊埜御堂はあくまで分家扱いであり、さつきのアパートの隣に工場を構えている熊埜御堂社長こそが本家と一族の者は呼ぶのだ。
故郷から離れているのに、本家と言われる。それは、そこに流れる血筋の正当性を意味しているから。
跡を譲り受けた分家の人間は、里子に出されていた社長の叔母まで嫁がせて、自分の家の正当性を見出そうとしたのだとは思う。だけど、女の血では駄目なのだ。
女は代々、その血を守るために利用され続けてきたわけだから、恨みつらみが山ほど蓄積してしまい、結果その思念が固まって、怨念と化しているのだから。
だって、神社に向かっている最中も、それは酷いものだったもの。
「おおーい!絢女――!居るんだったら出てこーーい!」
「絢女―――!お兄ちゃんも心配して待っているぞーー!」
山に向かって声をかけるのは良いけれど、そこにお兄ちゃんを加えるのはやめて欲しい。
向こう側に見える藪の向こう側に、黒髪の女性が現れたように見えるから。
「居た!居た!絢女!こんなところに隠れていたみたい!」
ガサガサガサッと音がする薮の中を、狩野部長が突き進んで行く。
結局、絢女を探すには人海戦術が良いだろうということで、演劇サークルの男子部員は、兄の邦斗を除いて全員ついて来ることになったのだった。
「絢女!心配したんだよ!」
部長は優しく声をかけながら薮の向こう側に声をかけると、しばらく無言のまま佇み、そうしてこちらの方を振り返りながら、
「ねえ、絶対に黒髪の女の人、ここに居たよね?」
と、言い出したのだった。
「お・・俺も見た・・」
「俺も・・・」
みんなが立ち止まって、その場に固まっていると、
『ヴゥウウウウ』
と、声がしたわけだ。正直に言って、すぐ近くから声がしたように聞こえる。
「今、誰か何か言ったか?」
「言ってない」
「俺、ヘンテコな声が聞こえたんだけど」
「俺も・・」
『フゥウウ』
「ため息?」
「すぐ近くから聞こえて来たんだけど!」
ここまでは、気の所為で済ましたものの、次第に状況が怪しくなってくるわけだよ。
「俺、耳鳴りが酷いんだけど」
「いや、俺もキーンとする」
ちなみに、僕も耳鳴りがしている。
「俺、なんかまぶたが落ちてくるんだけど」
「眠くないんだよ?俺も眠くないんだよ?だけど、目、瞑りそう、何故?」
「え?」
「えええ?」
「わああああああ!」
後ろを振り返った連中が、僕を見て逃げていく。
なにしろ僕は今、スケキヨマスクを装着状態だったので、幽霊と勘違いしたのだろう。
「先輩、いつまで私の肩を掴んでいるんですかね?今きっと、私の後に背後霊がいるみたいな感じに見えたんだと思いますよ」
怖くて怖くて仕方がない僕は、さつきの肩に掴まりながら、彼女の後を歩いている。さつきは、よっぽど強い怨念でなければ霊障を全く感じないタイプなので、
「周りの雑草が生い茂っているからって、みんなパニックになり過ぎていませんか?怖いって思うから怖いんですよ」
なんてことを言っている!
お前は〜見えてないからそんなことを言えるんだと思うぞ〜。
耳鳴りも、瞼が落ちてくるのも、立派な霊障のひとつだからね!
「ぎゃーーーーっ!」
土の中から指が出て来て、僕の足首を掴もうとしている。
「先輩うるさい」
「うわっうわーーっ!」
思わずよろけて転んだ僕は、草むらの中に突っ込んでしまったのだが、そこには匍匐前進をして来ましたみたいな女の幽霊が、埋もれていたわけだ。
「うわーーっ!」
立ちあがろうとして、足がもつれて転ぶ僕の前方では、無数の蛇が道路を横切っていくのが見えた。
「蛇だ!蛇!蛇!」
「道だけじゃないって!川を見ろ!川を!物凄い蛇が川を遡って泳いでいるぞ!」
カーブを曲がったところで山の中を流れる小川が見えて来たのだが、その小川を逆流するような形で、埋め尽くすほどの蛇が泳いでいく。
「「「「ぎゃーーーっ!」」」」
普通はね、見える人と見えない人に分かれるものなんだよ。
聞こえる人と聞こえない人に分かれるものなんだよ。
さすが最恐の心霊スポットといわれるだけあるよ、濃度が濃過ぎてみんな、霊体験が出来ちゃっているんだよ。明確に言うと、天野さつき以外は、ってことになるけども。
「ええ?蛇が出たんですか?何処?何処?何処?」
藪や小川の方を眺めながら、天野さつきはあっち行ったりこっち行ったりしているんだけど、彼女一人だけが大量の蛇を見つけられていない。
つまりはこの蛇、実体があるものじゃなくて、霊体のようなものだということがここで判明したわけだ。
「ちょっと僕は無理だわ、帰ることにする」
「俺も無理、お腹が痛くなってきた」
「無理、無理、この異常現象にはついていけないって!」
半ば切れ出した部員が元来た道へと回れ右をしていくと、部長の狩野まで、
「ここで進む組と、ホテルへ帰る組に別れよう。良くある心霊現象みたいに、途中で引き返した数人のグループが、その後、行方不明となってしまいました。なんてことになったら困るから、僕がホテルに帰る組を引率していくことにするよ」
なんてことを言い出した。
すでに真っ青な顔をしている社長とオーナー、おじさん二人組が、がっしりと僕の両腕を捕まえているのは何故?おじさん二人に囲まれたスケキヨ、シュールさが半端ないと思うんだけど?
「だったら、俺が神社に行くグループの引率をするよ!」
赤峰はバカじゃないだろうか?
蛇の遡上に興奮の声を上げ、幽霊が見えたかもと言っては、薮の中へ突撃し、挙げ句の果てには、神社に行くグループの引率を自らやるだって?
「そこはもう、みんなで帰るんじゃダメなの?僕は帰ったほうがいいと思うけど?」
僕の言葉に、おじさん二人が頑なに首を横に振っている。何故だ?
「いや俺さ、まじで今、高まっていると思うんだよね」
「はあ?」
「みんなが騒ぐ通り、神社に向かうまでの道の間に、たくさんの霊がいるんだと思うんだよ。これで蛇が襲いかかって来るようであれば、この先には行くなってことになるんだろうけど、川を逆流してまで道案内してくれているわけだろ?」
すごい発想、奴は変態なのかもしれない。
「蛇まで案内してくれているんだから、これは行かない訳には行かないだろう」
「へー、赤峰先輩は蛇を見たんですねー」
蛇を探しているさつきは、この場所では一生見れないと僕は思う。
何せ彼女は、超強力な霊しか見えない体質の持ち主なんだからさ。
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