【掌編】世界で一番すばらしい国【1,000字以内】
石矢天
世界で一番すばらしい国
僕は旅をしている。
世界にある様々な国を、自分の目で見て回るためだ。
ものごとにはなんだって『はじまり』というものがある。
この旅にだって、もちろんある。
「お前はこの国に生まれて幸せだ」というのが、僕の父の口ぐせだった。
同年代の友人たちに聞くと、どこの親も同じことを言うそうだから、この国の大人たちみんなの口ぐせだったのかもしれない。
ある日、父と母に「この国の外を見てみたい」と言ったら、ちょっと引くくらいブチ切れられた。
「この国のなにが不満なんだ!」
「国の外は野蛮人ばかりで危険だ!」
「「この国に居続けることが私たちの幸せなんだ!」」
ちょっとした好奇心で言っただけなのに、こんなに怒られるのかというくらい怒られた。そのせいで、国の外を知りたいという気持ちは歳を重ねるにつれてどんどんふくらんでいった。
「僕は旅に出ようと思うんだ」と親友に伝えたら、目を丸くして驚いていた。
「この国がどこよりも素晴らしい場所なのに、旅に出る必要があるのかい?」
「それを知るために旅に出るんだ」
「外の国ではこの国の常識なんか通じないんだぞ。わけのわからない風習があったり、人の生きていけないような環境だったり、なにもしてないのにいきなり襲われることだってあるんだぞ!?」
「もちろん、覚悟の上さ」
親友とこんな会話をしたときは、ちょっと大げさだと思っていた。
この旅で、どれもこれも余すことなく経験することになるわけだけど。
僕の決意が変わらないことを悟ったらしく、親友はそれ以上、僕を止めるようなことは言わなかった。
「ところで、いつ出発するんだ?」と親友が尋ねた。僕は「今からさ」と答えた。
「ひとつだけ、お願いがあるんだけど……」
「なんだい?」
「いつかこの国に戻ってきたら、教えて欲しいんだ」
「もちろんさ」
何を、なんて聞かない。
そんなものはひとつしかないからだ。
僕はこれからも旅をすると
【掌編】世界で一番すばらしい国【1,000字以内】 石矢天 @Ten_Ishiya
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます