言い訳してよ
仁科佐和子
第1話 言い訳なんてしないでよ
彼は昔から優しい人だった。
私達はいわゆる幼馴染。同い年のはずなのに小さい頃からあれこれ面倒を見てきたせいで、付き合うようになってからもすっかり私が主導権を握る羽目になっていた。
彼は時間にルーズなところがあって、よく待ち合わせに遅刻しては私を怒らせた。
遅刻するたびに、彼はあれこれ言い訳をした。
「今日は困ってたおばあさんを派出所まで案内してたんだ」
「出かけようとしたら家の鍵がなくて探してたんだ」
「お腹を空かせた猫がまとわりついてきて餌をやってたら遅くなっちゃったんだ」
その度に私は彼の言葉を一蹴した。
「言い訳なんてしないでよ! そんな嘘が本当かもわからないような話、聞きたくもないのよ!」
私が怒ると、彼は困ったように眉を下げ弱々しく笑いながら「ごめん……」と謝る。
昔は私のほうが背も高かったのに、中学校で抜かれて高校では差をつけられた。
私に怒られると彼は、飼い主に叱られた大型犬のようにシュンと項垂れる。
「もう! 今度から絶対に言い訳なんて聞かないんだからね!」
私はその姿を見るとなんだか罪悪感に駆られて、それ以上は怒れなくなってしまうのだ。
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