昔々の言い訳

らんらん

懐かしむ

 雨が私の身体を打ち付ける。

 突如、私は昔のことを走馬灯のように思い出した。



 子供の頃から、私は言い訳してばかりの人間だった。その癖は今もこうして治っていない。

 試合に負けては、


「捻挫していたから。」


 手紙を読み違えては、


「目が霞んでいたから。」


 そのような言い訳ばかりしていた。正直、それが良いことだったのかはわからない。父様や母様に何度叱られたことか、数え切れない。一時期は、言い訳をする気さえ、なくなってしまった。だが、その言い訳のセンスがいい方に向いたこともあった。

 それはある冬、私はあろうことか、寝坊し、集合時刻に遅れ、上方はカンカンに起こっていた。私は、言い訳こそするものの、土壇場に滅法弱いのだ。

 もはやこのままでは首の飛びかねない状況であったのだ。私は、焦って、


「道に迷っていたうぐいすの歌声に、聴き惚れてしまっていた。」


 と、言ってしまったのだ。流石にこのときは覚悟を決めた。しかし、上方は、起こるどころか、寧ろ爆笑していた。


「お前は、なんて面白いやつだ。この雪の降り積もる冬に、うぐいすが道に迷って歌っている。それに聴き惚れてしまったと。実に滑稽過ぎて叱る気もなくなったわ。」


 寧ろ、このときのお陰で今の立場にいるのかもしれない。全くおかしな人生だ。それでも、この歳まで生きていけたのだから、充分満足ではなかろうか。太閤様の為に、私は戦ったのだ。鉄砲で撃たれ、馬から振り落とされても、薙刀で抵抗したのだ。

 部下達が私によってくる。このように、戦国の世で、可愛い部下が沢山いるのは非常に恵まれているな。

 そう思いつつ、私は最後の言い訳を言った。


「私はお前たちにとって悪い例だ! 私を踏み台にして進むのだ!」


 泣きそうな部下が敵陣へと走り行く。そうだ、それでいいのだ。それが、言い訳の凄さなのだか……ら。



 戦国の世、武将同士の大きな戦にて、名も無き言い訳の天才が、この世を去った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

昔々の言い訳 らんらん @rantetetan

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ