第55話 炎上マネージャー

――――【薫子目線】


 今日は私が担当しているAチームのライブだったけど……、


 ――――はぁ……。


 ――――う~ん……。


 明らかにAチームのファンたちは浮かない顔でテンションも低く、ため息ばかりついていた。


 ――――さやちゃん……いないんだ。


 帰り際にファンがさびしそうにと呟いたひとことが、突き刺さる。私のチームは集客力において他を圧倒的かつ、ぶっちぎりに引き離していたのにいまやどうだろう。


 立ち見ですらすし詰め状態だったのに空席が目立つ。他のチームの集客は大きく落ち込んではいないのに私のチームだけが目に見えてファンが減っていたのだ。



 公演が終わり覇気のないAチームのメンバーを励ますために私は声をかける。


「みんな、なにやってるの! ダメダメじゃない! あんなつまらない公演でファンが納得してくれると 思うの? いつまでも白石さやにすがるのは止めなさい!」


「でもさやがいつも私たちを励ましてくれたんです」


「薫子さんはいつも怒ってばっか……」

「なっ!? 私はみんなを励まそうとしてるのに、そんなことも分からないなんて、どうかしてるわ」


「さやさんは藤原さんに叱られて、落ちこむ私たちにいつも寄り添ってくれていたんです! なんでそんなに優しく出来るの? って訊いたら、『いつもお兄ちゃんが励ましてくれるから、みんなにおすそ分けだよー』って……」


 なんですって!? あのキモいシスコン男が沙耶乃を支えていたとでも言うの?


「いいえ、そんなことないわ!」

「薫子さん?」

「あなたたちは私の言うことに従っていればいいの! 私はあの白石さやを育てた敏腕マネージャーなんだから」


「「「「「「……」」」」」」

「なに、私に不満でもあるの? 私の声一つで舞台に立てなくなるってことを忘れちゃ困るわ」

「はい……」


 どちらが立場が上なのかはっきりさせておかないと、この年代の子たちはあの綾香って小娘みたいにすぐにつけあがるんだから!


 それにしても、綾香よ! ホント、なにをやってるのかしら!


 とっくにさやの兄をたらしこんでいるかと思ったら、ちんたら恋愛ごっことかありえないわ。男なんてちょっとセクシーな衣装で誘えば、すぐに猿みたいに腰を振るっていうのに。


 まったくギャルみたいな格好してるくせにウブかっつーの。ぶってる場合じゃないわよ。しかも好きでもない男と寝るんじゃなくて、好きな男と寝るのが怖いとか、マジあり得ない。


 童貞を殺す服でも送ってやろうかしら?


 ていうかノーブラに男物のシャツでも着て、悩殺でもしてやれば、いいのに。


 見事成功した暁には、ご褒美がてらちょろっと舞台に立たせて……あの程度の子、吐いて腐るほどいるから、使い捨てなんだけどね。


 ちょっと夢見させてあげて、ポイよ。



 ミーティングルームを出て、休憩室で一服しようとすると声がした。


 ――――ねえねえ、藤原マネージャーって、なんでAチーム担当なの?


 ――――さあ? 出資者の推薦とか聞いたけど。


 ――――白石さやしか育てられてないのにさ。


 ――――育てるもなにもさやは元から凄かったじゃん!


 ――――だよね~!!!


 ぐぬぬ……。


 他チームのアシスタントたちが好き勝手に私のことを誹謗中傷してちゃってくれてる。


 ドン!


 天井まであるパーティションの板をパンプスで蹴りつけると、彼女たちは驚いて一斉に身体をビクつかせていた。


 透明な窓からなかにいる彼女たちを睨むと縮こまって、猫に睨まれたネズミのように部屋の隅っこに集まって震えていた。


「ふん、下っ端のくせに生意気な口利いてんじゃないわよ! 敏腕マネージャーの私と違い、あなたたち程度の者なら代わりはいくらでもいるんだから、それくらい覚えておきなさい」


 私がドアを開けて言い放つと、怯えの色が見える彼女たちは抱き合って震えながら私の言葉に涙ながらに頷いていた。


 は~、立場の弱い子をいじめるのはホントすっきりするわ。



 仕事のストレスを彼女たちにぶつけて帰宅し、お風呂からあがって、髪の水気をふき取るのもそこそこに缶ビールを煽る!


 グビッ、グビッ、グビッ……。


 ぷはぁぁぁぁーーーー!


 最っ高!!!


 疲れた身体にキンキンに冷えたのど越しと染み渡るアルコール。今日は嫌なこと忘れて呑んじゃる! と思っていたら……、


 ――――プルルルルルル♪


 スマホがやかましく鳴る。


 ピッ♪


 もちろんもう完全オフモードに入っていた私はスマホの電源を落として着信拒否を続けていた。


 ――――プルルルルルル♪


 ああっ、もう! なんなのよ!


 自宅の電話にまでかけてきたようで観念して出てみるとアシスタントマネージャーの花沢だった。


『薫子さん、大変です!!』

「なんなよ、ゆっくりしてるってのに」

『申し訳ありません。でもすぐにお伝えしなきゃと思って。メンバーのツイッターが炎上してます』


「なんですって!? なんでもっと早く連絡して来ないのよ!」

『いえ、薫子さんに繋がらなくて……』

「男なら気合いでつなげなさいよ! って、それより炎上のことよ!」


 私は花沢から炎上の内容を聞き、またYMS劇場へととんぼ返りする羽目になってしまった……。

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