第30話 ラスボス登場

 芳賀を気絶させたら、服部が俺を睨んで怒る。


「よくも悠斗をやりやがったな!」


 逆に俺は服部に、幼馴染の首を絞めやがって! と反論したかったが、そんなことを言えばまた綾香が勘違いしそうで、言うに言えないのがもどかしい。


「ほんと、情けないわね。意気地がないったらありゃしない。ちょっとは春臣を見習いなさいよ」


 綾香は気絶している芳賀を軽く足先でつついて文句を言っていたが……。



 おまいうとしか言いようがない。



 俺は素早くバックルを外して、ベルトを抜いた。別に綾香の水着姿に欲情したわけじゃない。最近、沙耶乃に迫られてからというもの、綾香がボリュームに欠けるような気がしてならないのだ……。


 ちな俺のズボンは腰腹にぴったりフィットして、ずり落ちることはない!


 外したベルトを半裸の変態野郎に叩きつける。



 バチーーーーンッ!



「あぎゃあーーーーっ!」


 鋭い炸裂音が部屋中に響いて、服部の鍛えあげられた大胸筋に大きなミミズ腫れが走っていた。


 うっわ、痛そう……。


 でも止めない!


「おまえがいじめてきたクラスメートの分だよ!」


 まったくそんなことは思っていないが、力を行使するなら大義名分は必要なのだ。まあ綾香もいじめに関与していたんだけど、いまはそんなこと言っている場合じゃない。



 ビシッ! バシッ! ビシッ! バシッ!



 スナップを効かせ、打ち込んでいるのだが服部は腕でガードして、ううっと唸りながらも耐える。服部はそのままガードを固めたまま、体当たりしようと突進してきて、俺は仕方なくガードの薄い太股を狙ったときだった。



 バチンッ!!!



 太股に革ベルトが当たった音とはまったく違う、なにか変な音がした。服部を見ると……股を手で押さえて顔が紫へと変色してしまっている。


「あーあ、無理に突進しようとするから」


 俺のベルトは服部の股間にクリーンヒットしていた。


 突進どころか綾香を犯そうとか思うのがそもそもの間違いってもんだ。


 俺は女王さまになったかのように鞭替わりの革ベルトを何度も叩きつけると服部はすっかり従順な下僕へと変化していた。


「して……許して……もうしないからぁぁ……」

「その筋肉は服部じゃなくハッタリだったな」

「つまんないわよ」


 俺のギャグにすかさず、つっこむ綾香……。


「綾香は厳し過ぎんだよ!」


 服部をうれしくない奴隷化し、武秋に向かって、俺は叫ぶ。


「武秋! 出てくんのが遅いんだよ!」

「うるさい! ヒーローは遅れてくるものだ」


 武秋を無視して、俺が綾香の手を取ろうとすると、


「遅いわよ! なんでもっと早く助けにきてくれなかったの! あいつらに私の純潔が穢されそうになってたんだから!」

「えっ!? 綾香って、処――――」


「ああーっ!! うるさいうるさい! 春臣は黙ってて! ほんとデリカシーの欠片もないんだから」


 喰い気味に叫んで俺の言いたいことを遮った綾香。


「も、もう、春臣。こんな雑魚ども、早くやっちゃってよ。私は家に帰りたいの!」

「春臣、悪いことは言わん。つき合う女は考えたほうがいいぞ」

「なんですって!?」


 綾香のお姫さま発言に武秋が呆れ顔で忠告してくれる。


「つき合ってないから……」


 告白はしたけど……。いまなら、ふられて良かったとすら思えるのは沙耶乃のおかげだろう。


 武秋に現状を説明しただけなのだが、なぜか綾香が噛みついてくる。


「私とつき合いたいって、告ってきたたくせに!」

「いまはつき合いたくない」

「は? ああ、落ち着いたら、つき合いたいってことね。了解了解~♪」


 なにが了解なんだろうか?


 俺たちの間で言い合いしていると、騒ぎを聞きつけ、チャラそうな優男が隣の部屋から現れて綾香に言い放っていた。


「綾! こんなことをして分かってんだろうな! ガキどもが片づいたら、セクシー女優に堕としてやるから覚悟しとけ! こっちは契約書があんだからよ!」


「その子は十七歳だ。親の同意のない契約書は無効なんだよぉ!!!」

「えっ!?」


 俺はチャラい優男に言い返してやると綾香が驚いている。


 どうやら、契約のことについてはっきり分かってなかったらしい。勉強不足過ぎる……。


 優男はたまたまそばにいた武秋に殴りかかっていったが、イケメン顔がたんこぶやら青あざができるまでぼこぼこに反撃されてしまっていた。


 まんまと騙された綾香にやれやれと思いつつも、 ようやく方がついて、綾香を連れて無事帰れると思っているときだった。


 いきなり隣の部屋のドアが開いて、スーツ姿の男が入ってくる。


「ガキどもがーーっ! やらかしてくれたなぁ!」

「社長っ!!!」


 チャラ男はスーツの男の登場に驚いており、スーツの男はジャケットを脱ぎ捨てると右手で鬱陶うっとうしそうにネクタイを緩め解く。グレーのベストという出で立ちになったかと思うと、その左手には……。



 日本刀のようなモノが握られていた。



「あははははっ、おまえら終わったぞ! 諏訪社長は剣道六段に、居合道教士だ!」


 武秋に顔をボコボコにされたチャラ男がご丁寧にも俺たちに教えてくれた。言っていることが本当なら、つまり実力は本物ってわけか……。


 芸能事務所っていう伏魔殿ダンジョンを攻略していたら、ラスボスのご登場に俺と武秋は顔を見合わせていた。


「武秋、綾香を連れて逃げてくれ」

「春臣ッ! 貴様はなにを言ってるんだ! いくら春臣が強くてもあんなのは無茶だぞ!」

「大丈夫だ。俺には勝利の女神沙耶乃がついてる。負けるわけない!!!」


「そんな~そんな~、私が勝利の女神とか、春臣にお世辞を言われてもうれしくないんだからね!」

「さあいくぞ、春臣の女」

「ちょっとぉ! 春臣がどうなるか見てたいんだけど」


 なぜか綾香が顔を赤く染めていた。


 なんで?


 女神は綾香じゃねえし、沙耶乃だしな。いやそれよりも目の前の刀男だ。


「さあ、刀狩りでもさせてもらおうか!」

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