第25話 底辺アイドルまっしぐら【ざまぁ】
――――【春臣目線】
ヴーー♪ ヴーー♪ ヴーー♪
放課後、沙耶乃と一緒に下校していると珍しくバイブレーションにしていたスマホがポケットのなかで唸っていた。
「おや? 虎太郎くんかなー?」
「たぶん、そうだろ」
沙耶乃には俺の内情は知られており、年頃の男子ならば「ははっ、女の子からだよ」とか一度でいいから言ってみたい気もするが……沙耶乃を悲しませたくない気持ちもある。
まあ俺に女の子からLINEなんて届くはずないんだがな、ははっ!
思っていて、悲しくなるのでさっさとスマホを確認すると意外な相手で驚く。
【綾香】
《あんたは散々バカにしてたけどぉ 私今日からアイドルだから!》
《どう? 私がちょっと本気出せばこんなもんよ》
・
・
・
《引退して落ち目の沙耶乃とはわけが違うの!》
《私ってやっぱ天才っ!》
《私を落とした審査員ってば無能じゃん》
数年ぶりに送られてきた綾香からのLINEメッセージにうれしいというより、ウザいくらい連投されてくる自慢内容に正直閉口してしまう。
「綾香からだった……」
「えっ!? 綾香ちゃんから? なんて?」
俺のひとことに、沙耶乃は身を乗り出してスマホを覗き込んだ。
「私たち綾香ちゃんのことバカにしたりなんかしたかな?」
「いや、したことない。むしろ俺が綾香から馬鹿にされてたくらいだから」
「だよねー。でもお兄ちゃんをバカにするとか、ありえないし、綾香ちゃんはホント男の子を見る目がないよ。昔は『春臣、助けて! 春臣、お願い!』ってお兄ちゃんに頼りっきりだったのに……」
「沙耶乃は俺を買いかぶりすぎなんだって。俺はそんなスゴい男じゃないよ」
「ううん、お兄ちゃんは沙耶乃の世界で一番! 最高の彼氏なんだよっ!!!」
「えっ!? 俺が沙耶乃の最高の彼氏ぃぃ!?」
俺が驚いて、スマホを手から落としそうになると沙耶乃は「危ないよー!」と言い、スマホをキャッチして俺に渡すと、
「そんなに反復されると恥ずかしいよぉ」
カバンをおしりに当てながら両手で持って、道端の石ころを軽く蹴りながら、顔を赤くして照れていた。
「ごめん……なんかうれしくて」
「沙耶乃もお兄ちゃんとこうやっていっしょに下校できてうれしいよ。お兄ちゃんが沙耶乃の彼氏になってくれて、二人で帰れるなんて今でも夢見てるみたいだから」
沙耶乃は目を閉じて、俺に身体を預けてくる。俺は恥ずかしさのあまり沙耶乃の横顔をちらとしか見られなかったが、安心しきって本当にしあわせそうな表情を浮かべていた。
綾香に振られて間もない頃なら、心に余裕はなかったが沙耶乃のおかげで俺はやさしい気持ちを取り戻せていたと思う。
【春臣】
《馬鹿にしてない おめでとう!》
《綾香もようやく夢を掴んだんだな がんばれ》
俺の嘘偽りのない気持ちを綾香に伝えたのだが……、
【綾香】
《春臣のバカバカバカっ! 絶対見返してやる》
《もう今度会っても、絶対口聞いてやんない!》
《ヴィーナスステージって小さな事務所だけど、私が入ったからには大きくしてみせる!》
《グループ名は
【春臣】
《わかった 綾香がテレビで見れるのを楽しみだ》
最近情緒不安定になっていた綾香だったが、アイドルのオーディションに合格したことで自信を取り戻せたなら良かったと思えた。
「沙耶乃、I♡SISって知ってる?」
「ううん、知らないよ」
「だよな……」
だけど聞いたことも見たこともない事務所とアイドルグループ……。一抹の不安はあるがいまやグループアイドル戦国時代と言ってもいい。俺や沙耶乃が知らなくても当然だろう。
だが不思議なことに大量に送られてきたLINEは、翌日以降にはすっかり鳴りを潜めた。俺はそのときやっぱり綾香から嫌われていて、単に自慢したかっただけだと思ってしまっていた。
――――【綾香目線】
「なにこれ……」
「もちろんシェアハウス」
私をスカウトしたチャラい優男がひとことで質問に答えた。名前は皆川と言うらしく、スカウト兼マネージャーと教えられた途端に雲行きが怪しくなる。
契約が済み、私は本格的なアイドル活動のため休学を勧められ、これから寝泊まりする場所を案内された。場所は事務所の隣の部屋だったのだが……シェアハウスというよりユースホステルって言うの? それより酷い感じ。
二段ベッドが部屋にぎゅうぎゅうに押し込まれ、人がやっと通れるくらいの隙間しかない。
「ここって研修生の部屋だよね?」
「いいや、みんなここに住んでる」
「えっ!? アイドルなのに相部屋!?」
「そうだよ、地下アイドルが自分の部屋なんて持てるとか、テレビに出れるくらいにならないと無理だなぁ」
「うそ……言ってることと全然違うじゃない! 私帰るから! 携帯返してよ」
「無理無理。綾香ちゃん、さっき契約書にサインしたでしょ。契約不履行で帰ったら違約金三千万円支払ってもらうからね」
シェアハウスに入居するに当たり、部屋代の担保として皆川に取り上げられた携帯を返してもらうよう詰め寄ったが、彼は鼻で笑って取り合うことはない。
「……そんなぁぁぁ」
いまになって、皆川たちに騙されたと気づいたのだが、もうすでに遅かった。
「みんな~、新人が入ってきたからあいさつして」
私が落ち込んでいると皆川はシェアハウスにいた住人たちに声をかけていたのだけど、私は彼女たちを見て絶句してしまう。
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