第45話 ぱい二乗

「ああっ! ダメぇぇーーっ! お兄ちゃん、そんなところ攻めないで!」


 沙耶乃が黄色い声をあげて、ベッドのうえでばたばたと足をばたつかせ暴れていた。


「ふははは、沙耶乃! 俺色に染めてやるっ!」

「いやぁぁぁーーーーん」

「おりゃおりゃおりゃぁぁーーーっ」


 ベッドのうえで激しく暴れる沙耶乃を抑え込む。沙耶乃の抵抗などお構いなしにずんずんと粘っこい液体で染めあげ、一気呵成の攻めに沙耶乃はぴんっとつま先まで足を延ばして、沈黙してしまった。


 俺にすっかりやられた沙耶乃はまぶたに微かに涙を浮かべて悲しそうな表情で言う。


「や、やめてぇぇーーっ、お兄ちゃん酷い……そんなべちゃべちゃにするなんて……」

「沙耶乃がいけないんだ。こんなまっさらなまま放置しておくから」


 俺は沙耶乃をイカ臭くしてやったのだ。テレビのモニターにはアイブラックを眉間にまで繋げたゲームキャラが俺の勝利を称え飛び跳ねている。沙耶乃は頬を膨らませて、少々お冠のようだった。


 ちな抑え込んだのは沙耶乃の勢力で物理的にはなにも酷いことはしていない。それにしても妙に色っぽい声で叫ぶものだから、両親に聞かれてないか心配になる。


 スプラトゥーンで沙耶乃に勝利を収めたおれだったが……。


 沙耶乃はコントローラーをテーブルのうえに置いたかと思うと、立ちあがっている。


「あっ!? 沙耶乃どうしたんだよ」


 俺に負けた沙耶乃はそそくさとSwitchを片づけたかと思うと部屋に戻ってしまった。


 もしかしてふて腐れて機嫌を損ねてしまったのだろうか? ゲームとはいえ、まだやりだして間もない沙耶乃につい熱くなって怒涛の攻めを見せた俺も大人気なかったかもしれない。


(兄として、彼氏として失格だな……)


 かなり腕をあげてきたとはいえ、もっと接待プレイに徹すべきだったのかもしれない。沙耶乃に謝ろうと俺は沙耶乃の部屋のドアをノックした。


「沙耶乃、ごめん……。もっと紳士なプレイを心がけるべきだったよ」

「待って待って!」


 どうも沙耶乃は慌ているようで、部屋のなかからどたばたと音がしていた。ちょっとばかり待っていると沙耶乃が開けたドアの隙間から顔を覗かせる。


「お兄ちゃんの部屋に持っていこうと思ってたんだけど、沙耶乃の部屋でする?」

「あ、うん……」


 部屋の真ん中に乱雑に置かれたゲーム機本体とコントローラー……、どうやらプレステ4を部屋から持ち出そうとしていたらしいが結局、沙耶乃の部屋でプレステ4のゲームをすることになった。



 ソフトは間違いなくアレだろう!



 俺と沙耶乃でプレステの配線などをつなぎ直して、ゲームを再開する準備は整った。


 コントローラー片手に目を輝かせる横顔は元トップアイドルだっただけあり、ドキッとさせられるくらいかわいい。未だに沙耶乃が妹から彼女になったなんて信じられないくらいだった。


 沙耶乃は丁寧に手入れの行き届いた右手の人差し指をスーッと伸ばすとかけ声をかける。


「ガンダムブレイカー、スイッチオーーンッ!」


 なんだか沙耶乃は冷えピタが必要になりそうかけ声でプレステを起動させていた。


 機体選択で俺も負けじと叫ぶ。


「俺はガンダムで行く!」

「じゃあ、沙耶乃は――――」


 沙耶乃は人差し指を唇に当てて悩ましげな表情を浮かべていたが、俺にはすでに刻の涙が見えてしまっている。


 ニュータイプなのかと思わせる無双ぶりでジムスナイパーやパワードジム、スタークジェガンなどカスタム量産機で沙耶乃は主役級のモビルスーツを駆る俺を簡単にボコる。



 ズキューーーーーーン!



 沙耶乃の鬼エイム照準合わせで俺のガンダムはビームライフルに撃ち抜かれしまっていた。


「お、俺はガンダムで逝った……」

「モビルスーツの性能の違いが、戦力の決定的差じゃないんだよ、お兄ちゃん」


 ああ……。


 つか沙耶乃が高性能なプロトタイプやワンオフ機に乗ったら、俺は余計に勝てないじゃん!


 俺と沙耶乃の勝率はジェリドとカミーユの戦績ぐらいといったところ。


 2勝10敗だ……。


 しかし、そんな俺にもチャンスが巡ってくる。


「ああーーっ、ダメダメぇぇ!!!」


 あと一撃で沙耶乃から勝利を得られると思い、俺が止めとばかりにコントローラーを握り締め、「落ちろぉぉーーー!!!」と勝利を掴めと轟き叫ぼうとしたときだった。


「えーい!」


 沙耶乃はMSを操る俺に直接物理攻撃をとてもかわいらしい声と共に吶喊とっかんしていたのだ。


 ちゅっ。


「えっ!?」


 俺の頬に触れる沙耶乃の柔らかな唇に俺はゲームのことなど、まったく目に入らず戸惑った。


 その間にもファンネルで沙耶乃のスタークジェガンを捉えていたはずが、一気に接近を許しビームサーベルで俺の操るサザビーはコクピットを貫かれてしまっている。


 沙耶乃の駆るスタークジェガンが勝利を収め、俺はうなだれ、ぼそりとつぶやいた。


「ま、まだだ……まだ、終わらんよ!」

「うん、そうだね。沙耶乃もまだお兄ちゃんにキスしたりないよ」

「へ?」


 んふふと微笑んだ沙耶乃の言葉に俺は驚いてしまう。


 ひ、卑怯ですよ! 白石さやを名乗ったほうが……。


「ああっ!?」


 出かける前のちょっとした暇潰しのはずが沙耶乃にちゅっちゅっと熱の籠もったキスで愛情を表現されてしまうなんて……。


 もうゲームどころではなくなってしまってた。



 沙耶乃の愛情を一身に注がれた俺……、部屋に戻って、


「よし、大丈夫みたいだ」


 姿見で首筋や肩周りにキスマークがついていないか充分に確認したあと、Tシャツにズボン、そのうえからパーカーを羽織るといったラフな格好に着替えていた。


「沙耶乃ー、準備できたー?」

「うん、いま行くー!」


 沙耶乃はふりふりのフリルついたブラウスにボウタイ、長めの肩紐のついたワンピースといった出で立ちでいる。


「どうかな、変じゃない?」

「変じゃない。いいところのお嬢さまみたいだよ」

「ありがとー、お兄ちゃん!」


 俺がありのままの感想を返すと沙耶乃は嬉しそうにしていた。それにしても肩紐がいい仕事をしているのか、沙耶乃の豊満なたわわをより際立たせている。


 今日はデートではないのだけれど、二人でお出かけだ。俺たちはゆのちゃんと約束していたプライベートレッスンを行うため、連れ立って歩く。



 目的地は時間借りしていた近所の公共施設。



 施設の外のベンチで沙耶乃とレッスンの内容の打ち合わせをしていると、


「お待たせしました! はぁ、はぁ、今日はよろしくお願いします」


 サマーニットにジーパン姿のゆのちゃんが息を切らしながらも元気なあいさつをしながら現れた。俺はゆのちゃんの胸元にどうしても目が寄ってしまう。


 メッセンジャーバッグを斜めがけして、たわわをアピールしているようだった。


 もしかして、俺を意識しているとか?


 そんなことを思ってはダメだと視線をあげるとゆのちゃんが頬を赤らめて、恥ずかしそうにしていた。ゆのちゃんに胸元を見ているのが、めちゃくちゃバレてた……。


 はわっ!?


(こっちは更にデカいぞ!!!)


 俺は恐々と沙耶乃のほうを見ると、あろうことか沙耶乃はブラウスの生地を撫でたかと思うと下乳を支えて、たわわを紐と手で寄せてあげて俺にアピールしている。


 送られてくる視線で感じる「負けないんだもん!」という確固たる意志表情。


 なんだか二人が怪しい雰囲気になりそうだったので俺は二人の背中を押して、施設のなかへと入っていった。


「予約していた君塚です、よろしくお願いします」

「はい、どうぞ」


 カウンターにいる受付のお姉さんに予約番号を伝え、指定のBルームの鍵を受け取った。


「お兄ちゃん、それじゃあとで」

「ああ」


 沙耶乃とゆのちゃんは女子更衣室へ。二人と別れて俺も着替えにゆく。着替え終えた俺は先にBルームで待っていた。


 青少年だと時間数百円という格安で借りられ、音響設備の整ったスタジオとまではいかないものの、壁一面の鏡とバレエなどに使うバーが設置されてある。


 肩慣らし程度に鏡を見ながら、シュシュッとシャドーしてると着替え終えた二人が入ってきた。


「「えっ!?」」


 二人は俺の動きを見て、口を押さえて無言になってしまっている。


 しまった……。


 これじゃ、陰キャが強い子に憧れて、シャドーの真似事してるみたいじゃないか。



 クソハズい。



「お兄ちゃんが久しぶりにシャドーしてるとこ見た! やっぱり格好いいねっ!」

「はい! 本物の格闘家みたいです!」


 えっ!? マジ?


 もっと馬鹿にされるかと思ったんだけど。二人に誉められて、なんかちょっと嬉しくなった。



 ちょっ、沙耶乃……攻めすぎてないか!?


 俺なんかより、沙耶乃たちだ。



「どうしたの、お兄ちゃん?」


 そんな俺を見透かしたのか、目を合わせて理由を訊ねてくる。俺は思わず沙耶乃から目を逸らしたのだが、逸らした先にはゆのちゃんがおり……。


「い、いや……そのなんだ、目のやり場に困るっていうか……」


 沙耶乃はスカウトされる前まで習っていたレオタードに袖を通していたのだが、ボディラインがくっきり現れ過ぎてて、俺はとても直視できないでいる。


 まあ一言で言えば、大人がサイズの合わないスク水を着てしまったみたいなことになってる。


 ゆのちゃんはぴっちりとしたバレエ用トップスとフレアパンツを穿いていた。


(どっちも正解! 俺のなかでは……)


 二人とも美少女に加えて、プロポーションも抜群だった。アイドルという人に見られる職業だから、当たり前と言えば当たり前なんだけど。


 俺は普段体育に使ってるダサジャージ。


 どうして、二人は俺の妄想を肥大化させようとしてくるんだろうか?


 俺が邪な心でいると二人はペアでストレッチを始めていた。黄泉坂でレッスンを受けた者同士、二人とも手馴れたルーティンでこなしていく。


 沙耶乃に補助してもらい開脚前屈しながら、ゆのちゃんは申し訳なさそうにしていた。


「すみません……私なんかのためにお二人にお時間作っていただいて」

「いいの、いいの。気にしないで。ゆのちゃんは私の後輩なんだから!」


 ゆのちゃんの身体は開脚の度合いは百五十度。女の子としては硬くも柔らかくもないくらいだろうか。


 交代しながらストレッチしていくのだが、沙耶乃は長い足を大きく広げて、真一文字になったかと思えば前屈して、ぺたりと胸をフローリングの床へと落としてふーっと息を吐いていた。


 床に挟まれるたわわ……。


 素晴らしい。


 ゆのちゃんが「先輩、スゴいです」と沙耶乃の身体の柔らかさを誉めて、「えへへ」と沙耶乃が照れている。


 ストレッチを終えたゆのちゃんに俺の心情を告げていた。


「実はさ、俺も薫子さんのこと苦手なんだよ。だからゆのちゃんにはあの人を見返してやってほしいって願いもあるから」

「そうだったんですね! じゃあ私、君塚さんのためにもっともっと頑張ります!」


 あ、いや俺のためじゃなくて、ゆのちゃんが黄泉坂のトップアイドルになるためなんだけど……。


 ま、今はそれでもいっか。


―――――――――あとがき――――――――――

春臣はちゃんと沙耶乃を俺色に染めることができるんでしょうか? どちらかと言うと沙耶乃色に染められそうwww 読者さまは沙耶乃派? ゆの派? それとも綾香派? またコメントいただけるとうれしいです。

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