第44話 NTR作戦【綾香目線】

 ジムの練習生たちが窓の外で見ていた女の子たちを人払いしたあと、私はなかへと通された。


 するとどうだろう、「なによ、あの女……ちょっとかわいいからって、武秋くんにちやほやされて」と嫉妬の炎が渦巻くが、まあ私くらいになるとそう思われても仕方ない。


 かわいいって罪ね。


 エッグティーンの読モから黄泉坂49の研修生、はぁーん、ちょっと足踏みしちゃったけど、もうこれはアイドルエリート街道まっしぐら!


 群を抜く私はあなたたちとは住む世界が違うの。


 沙耶乃以上に美しく、あの女と違って天然の私がわざわざ汗臭いところに足を運んであげたといのに。


「いったいなんだと言うのだ。俺はこの通り、鍛錬に忙しい。用件がないならさっさと帰ってもらおう」


 けど目の前のイケメンは私の尊顔を拝んでも、見るからに嫌そうな顔をして、話したくもなさそうだった。


(ホント失礼しちゃう)


 沙耶乃の前では固まって、敬語でしか話せないヘタレのくせして!


 春臣なら嫌な顔されたって、そういうプレイだと思えばまったく苦にならない。ただし、目の前のイケメンは別。私は眉間に皺を寄せながら、吐き捨てるように顔だけはイケメン、中身は脳筋男に言い放った。


「私も好きでもない、あんたと話さないとならないのは苦痛だわ」

「それには激しく同意する。おまえは例えて言うなれば、ゼラニウム……見た目はそこそこでも心が腐っていて臭くて堪らん!」


 女の子に向かって、臭いとか言うなんてあり得ない!


 それに心が腐ってるって、馬鹿なことを……、私の心は澄み切っていて、いつも春臣のことを想ってる。偶々悪いことに巻きこまれただけなんだから!


「つか、あんたのほうが汗臭いわよ!」

「なっ!?」


 急に私の汗臭い発言に戸惑い、身体の匂いを嗅ぎ始めたイケメン。


 あーやだやだ。


 こんな仕様もないことをわざわざ時間を作ってまで話しに来たんじゃない。本当なら春臣をずっと見ていたかったのに。


 こいつの汗臭さは堪らないけど、春臣の汗の匂いなら、好き。沙耶乃がいなければ、春臣のお布団や枕の香りを堪能できていたはずなのに。


 武秋は必死に制汗スプレーを脇や首筋にかけたかと思うとタンクトップの裾をめくって、お腹や背中にも噴射していた。私はテーブルに出されたコップの水を飲み干すと、本題を切り出した。


「良い話を持ってきてあげたの。最後まで聞けば、あんたにも損はないわ。あんた沙耶乃のこと、好きよね?」

「さ、沙耶乃さんのことか!?」


 ぐいっと身を乗り出して、武秋は沙耶乃の素晴らしさを語り出す。


「あのお方はおまえと違って、清らかで清純で美しく綺麗だ。まさに手折らざる花とは沙耶乃さんのことを言う。春臣を見事に討ち果たした暁には俺は沙耶乃さんにプロポーズを申し込もうと思う」


 まあ、どうせそんなことだろうと思った。


 しつこい言い回しを重ねる目の前のイケメンに辟易しそうになってしまう。それにしてもつき合ってもいないのにプロポーズって、この男はイケメンなのに馬鹿なんじゃないかといつも思ってしまう。


 だから春臣に都合よくあしらわれて負けるのよ。


「じゃあ、話は決まり。春臣から沙耶乃を寝取りなさい」


「は? 寝取るだと!? おまえは一体なにを言ってるんだ!? 春臣は沙耶乃さんの兄だろ? 寝取るってなんだ? 俺は兄である春臣に頭をさげて、頼むつもりでいるのだか……」


 ああっ、もう!


 事情を知らない鈍感男にいちいち説明するのが面倒でならない。


 それこそ取っ替え引っ替え女の子を自由に入れ替えて遊べるような容姿と実力を兼ね備えいるのに、あの地味を装ってる作成沙耶乃のほうが好きなんてどいう趣味をしているのか、さっぱり分かんない。


「じゃあ教えてあげる。春臣はね、嫌がる沙耶乃を無理やりレイプしてものにしたのよ。酷い男でしょう?」

「いやいや、どう見ても仲の良い兄妹ではないか。馬鹿も休み休み言え」


「ふーん。じゃあ、これ見ても嘘って言えるかしら?」


 私はこっそり隠し取りした春臣と沙耶乃がキスしている画像を疑り深い武秋に見せつけた。私のスマホを両手で掴んだ武秋はぶるぶると二の腕が揺れ出してくる。



 バキッ!!!



「えっ!?」

「はぁ、はぁ、ゆ、許すまじ春臣っ!? 俺は終生の強敵ともとして認めていたというのに沙耶乃さんをもてあそぶなど言語道断! 畜生にももとるクソ野郎だ!」


 私のスマホ、真っ二つに折れちゃってる……。


「どうしてくれんのよ!!!」

「ああっ! どうしてくれようか!」


 まったく私の言葉に耳を貸さない。弁償してもらわないとここから帰れない!


 つか、携帯ショップに足を運ぶのも面倒極まりないわよ。


「沙耶乃さんは俺が守る! 貴様はせいぜい春臣を縛りつけておくんだな」

「言われなくてもそのつもり! まったく私のスマホ弁償しなさいよ!」


 沙耶乃、沙耶乃……こいつも春臣と同じで私の言うことに耳を貸そうとしない!


「ああっ、沙耶乃さん……なんてかわいそうに。俺は春臣に手込めにされようとも関係ありません。必ずあなたを幸せにしてみせる!」


 ああ、だけどスマホは大損失だったけど、なんか上手くイケメン馬鹿の武秋を口車に乗せることができたわ。いいじゃない、将来有望な武秋と結ばれるのがあんたにはお似合いなの。


 でもひとつ気になることがあった。


 こいつは沙耶乃がアイドルになる前から、ずっと沙耶乃のことを熱い眼差しで見続けていて、野暮ったい格好してても、惚れているような気がしたのだ。


 私はどうでもいいことだと思いつつも、どうしても気になることがある。


 それは……。


 武秋は沙耶乃が白石さやだってこと、知ってるのかしら?


 そんなことよりも、これで万全の体制ができたわ。私が沙耶乃から春臣を奪い返す完璧なプランよ。


 覚悟しなさい、沙耶乃。


 幼馴染が負けヒロインなんて定説、私が覆してやるんだから!


―――――――――あとがき――――――――――

これは沙耶乃にざまぁされる気配が漂ってきましたw 綾香は春臣を沙耶乃から奪い返せるんでしょうか? 綾香のざまぁが気になる読者さまはフォロー、ご評価お願いいたします。

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