第41話 焦燥【沙耶乃目線】

 リビングのレースのかかったカーテンから外を覗くと、今日も懲りずに電柱の影から綾香ちゃんが顔をあげて、お兄ちゃんの部屋を見ていた。


 雨の日も来てるから、ホント熱心だよねー。


 たぶん、私が独りで外に出て行くのを見張ってるんだと思う。お兄ちゃんと私が離れたら迫ろうなんて、浅はかとしか言いようがない。


 唯一、お兄ちゃんのことを好きって思ってた綾香ちゃんは「あんたみたいなキモいシスコン、好きじゃないわよ!」って言いながら、毎日家に通ってたんだけど、中学の終わりぐらいには疎遠になっちゃってる。


 私はある日、綾香ちゃんと二人きりになったとき、訊いてみた。


『お兄ちゃんのこと、嫌いならなんで家に来るの?』

『そ、それは……春臣が変な気起こして、沙耶乃に悪いことしないか見張ってるのよ! 感謝しなさい』


 とか言ってた。なんの感謝なんだろう? 私はお兄ちゃんになら、いたずらされても構わないって思ってたのに……。


 あとあと気づいたことだけど、綾香ちゃんは私とお兄ちゃんが恋人同士がするようなことをしないか、見張ってたんだと思う。


 中学生になってしばらく経ったったくらいに黄泉坂49にスカウトされてからはお兄ちゃんと過ごす時間もめっきり減ってしまって、寂しくて仕方なかった。


 高校に入るとお父さん、お母さんがアイドル活動に配慮してくれて、堀北学園に通わせてくれたんだけど、もっとお兄ちゃんと過ごす時間が少なくなって辛くて堪らなくなって……。


 もちろん黄泉坂メンバーから更にセンターを務めるようになったけど、アイドル活動そのものは面白いメンバーに囲まれファンに愛され、忙しかったけど、とっても楽しかった。


 研修生のときから、アイドルになった私を支え続けてくれ、いつも世話を焼いてくれるお兄ちゃんのことが益々、好きになっていつもお兄ちゃんが彼氏だったら、ってホント最高に幸せなんだろうな、とか妄想するようになってしまってる。


 言い寄ってくる男の子のアイドルや俳優たちのかわいい女の子と遊んでやろうという気色の悪さが筒抜けなのに対し、お兄ちゃんの私を想う純粋さがより鮮明に際立たせていた。



 お兄ちゃんのこと、嫌いとか言ってるくせにお兄ちゃんから好かれてる綾香ちゃんのことが羨ましくて仕方なかった。


 綾香ちゃんがあんな馬鹿な振り方さえしなければ、私はお兄ちゃんの幸せを願って、二人を応援してあげようかと思っていたのに。



 綾香ちゃんは本当に素直じゃない。



 でも大丈夫。綾香ちゃんにお兄ちゃんには触れさせない、会わせたくない。だって、私……お兄ちゃんとえっちも、結婚もできるって分かったから!


 綾香ちゃんがお兄ちゃんの告白を受けていたら、私はお兄ちゃんと綾香ちゃんのえっちを指を咥えながら、慰めることになってたと思う。


 もうお兄ちゃんに酷いことした綾香ちゃんに遠慮なんてしてあげない。私とお兄ちゃんがちゃんと愛し合うところを見せてあげる。



 ぜんぶが遅いんだよ、綾香ちゃん……。



 みんな、お兄ちゃんの魅力に気づかず、見る目がないなぁって思ってた。それが綾香ちゃんがやらかした事件以来、みんなお兄ちゃんが頼れる存在だって気づき始めてきてる。


 最近、美穂ちゃんたちと話してるとお兄ちゃんのことばかり話題に出てくる。ちょっとぶっきらぼうな美穂ちゃんがお兄ちゃんと軽く挨拶するときなんて、恋する乙女の目をしてて……。



 私には分かる。



 美穂ちゃんは確実にお兄ちゃんに気があるって。ううん、美穂ちゃんだけじゃない。奈緒子ちゃんも「君塚って、ああ見えて優しいよね」って、よく誉めてる。


 おまけにゆのちゃんまでお兄ちゃんのことを想って歌うとか言っちゃうんだもん……。どんどん、お兄ちゃんが遠くに行っちゃう。


 お兄ちゃんの評価があがるのは身内として凄くうれしい。だけど、恋敵ライバルが増えるのは凄く好ましくない……。



 お兄ちゃんの部屋で隣合って寝てたんだけど、他の女の子に取られたくない気持ちがどんどん強くなる。綾香ちゃんも今の私みたいに嫉妬しちゃっておかしくなったのかな?


 お兄ちゃんは一旦、寝始めるとなかなか起きない。こんなことしたら叱られちゃうけど、気持ちを抑えることができない。添い寝だけじゃ、安心できないよ……。


 朝起きたら、お兄ちゃんは驚いちゃうかも。



――――翌朝。


「沙耶乃!?」


 お兄ちゃんが私の名前を叫んだことで目を覚ました。驚くのも無理はない。


 お兄ちゃんの眠るお布団に潜りこむ前に……、おへその見えるキャミソールを脱ぎ捨て、ベッドに放り投げた。ホットパンツも脱ぎ捨て、下着だけになる。


 写真集を撮ったとき、お兄ちゃんだけ見て欲しいと思ってたのにファンのみんなに見せることになってしまって、ちょっと悔しい思いと恥ずかしい表情でいたら、カメラマンさんから激賞されてしまって複雑だった。


 でもここから先はお兄ちゃんだけ……。


 ホントはお兄ちゃんに脱がして欲しい。ホックを外して、細い紐を肩から片方ずつ外すとするすると肌をこすりながらブラジャーがカーペットのうえに落ちた。露わになる私のおっぱい。


 大きさは綾香ちゃんに負けてないと思う。


 恥ずかしがって、一緒にお風呂に入ったときはお兄ちゃんはちゃんと見てくれなかった。恥ずかしいけど、お兄ちゃんには見て欲しかったのに……。


 子どもの頃よりすっごく大きくなった私のおっぱいを。


 すやすやと寝ているお兄ちゃんの前でおっぱいを晒しながら、パンティの細いサイドに手をかけると膝にまで一気にさげた。


 お兄ちゃんに見られていたら、恥ずかしくて、ここまで大胆に大事なところを晒せないと思うけど、お兄ちゃんに好意を示しつつある女の子たちに負けたくない気持ちが私を後押ししている。


 足ぐりから片方を抜いて、もう一方を抜いたら、私は寝ているお兄ちゃんの前で一糸まとわぬヌードを露わにしていた。脱ぎ捨てた服やパンティが乱雑に散らかっていると、激しいえっちをしたような雰囲気を醸し出してしまってる。


 ヌードのまま、お兄ちゃんのお布団に潜りこんだら、お兄ちゃんのパジャマのボタンも外していた。すると露わになる逞しい胸元と引き締まり六つにはっきりと区切られた腹筋。誰かにひけらかすことなく、私だけが知っているお兄ちゃんの真の姿。


 そのままお兄ちゃんに跨がり、ゆっくりと上半身を傾けていくと素肌同士が触れ合って、お兄ちゃんの温かみと鼓動がおっぱいを通して、伝わってくる。


 お兄ちゃんの胸板に頬をすり寄せるだけで感じる幸せ。


 いつも私を守って、優しく包みこんでくれるお兄ちゃん。だけど、それは妹として……。やっぱり彼女として、ひとりの女の子として愛して欲しい。


 穏やかに寝息をたてるお兄ちゃんが愛おしくて、お休みのキスをした。いつかお兄ちゃんが私を恋人として、抱いてくれることを信じて……。


「ううん……おはよ、お兄ちゃん♡」

 

 お兄ちゃんのこと好き過ぎて、抱きついたまま眠ってしまっていた、しかも全裸で。


「や、やけにやけにお布団が重いと思ったら、沙耶乃が……これじゃまるで縦四方固めじゃないか……」

「だいしゅきホールドのほうが良かったかな?」


 抱きついたままの私に焦るお兄ちゃんだったが、ちょっぴりえっちなことを言って挑発してみるとお兄ちゃんの顔はみるみる内に赤くなってしまっていた。


 そんなお兄ちゃんがかわいいと思っていたら、ぎゅっと抱きついたままの私の背中に温かいものが触れる。



 お兄ちゃんの手だ!



 抱き締め合った私とお兄ちゃん。もしかして……と思ったときだった。


「沙耶乃……俺は沙耶乃のことが大好きだ。だけど、まだそういったことをするには……時期尚早だと思う」


 うぶに思えたお兄ちゃんは私の周りにいる男の子たちよりも誰よりも冷静で、私のことを想ってくれていた。


 それでも……。


「綾香ちゃんじゃないけど、沙耶乃も寂しかったの。綾香ちゃんだけじゃない、みんなみんな、お兄ちゃんこと好きになっちゃうんだもん!」 


「それは買いかぶりすぎだって。ストックホルム症候群じゃないけど、みんな一時的な気の迷いだろう。じきに俺のことを知れば冷めるって」


 私がお兄ちゃんに訴えると、微笑みながら、髪を優しく撫でてあやしてくれていた。思わずヌードでお兄ちゃんのお布団に忍びこんでしまった焦燥感はそれで癒えるわけがなく……。


「いくらゆのちゃんがかわいそうでも、お兄ちゃんを渡したくないよ……」

「そうだね、俺たちがつき合ってるなんて言えないよな……。沙耶乃は優しい後輩想いの子だ。そんな沙耶乃を悲しませるようなことはしないから」


 お兄ちゃんも私と同じ考えだった。


 今、ゆのちゃんにお兄ちゃんが私の彼氏だなんてこと言ったら、心が不安定のゆのちゃんはまた大事な命を絶とうとしてしまうかもしれない。

 

 ゆのちゃんが私を見る目は羨望。


 ゆのちゃんがお兄ちゃんを見る目は恋心。


 兄妹と紹介してしまったのが、すべての間違いだったと思う。


「ゆのちゃんが落ち着いたら、ちゃんと俺から伝えるよ。俺と沙耶乃は恋人同士だって」


 伝えられなかったことを心のなかで嘆いていたら、お兄ちゃんは私の失敗を察してくれたのか、はっきりと言ってくれた。


 私とお兄ちゃんは恋人同士。


「うん!」


 その一言で抱えていたのぜんぶが吹き飛ぶように思えて、お兄ちゃんが大好きな想いをこめて、満面の笑みで頷いていた。



 でもまだ不安は残る。



「お兄ちゃんは沙耶乃のこと……好き?」


 そう私はまだお兄ちゃんから求められたことがなかった。私は両手を突いて、うえから涙目でお兄ちゃんを見つめていた。いつもよりお兄ちゃんは私から目を逸らして戸惑っているっぽい。


「俺は沙耶乃のこと、大好きだよ」

「うん、知ってる……。でも、妹としてでしょ?」


 いじわるだったかもしれない。


 好きなら態度で示して欲しくて、目を閉じた。お兄ちゃんからキスですら、されたことがなかったから。


―――――――――あとがき――――――――――

申し訳ありません、更新予約するのをすっかり忘れておりました……、またリリースいたしますのでよろしくお願いいたします。


沙耶乃しか勝たん! のはずが当の沙耶乃はそう思ってなくて、禁断のお兄ちゃん絶対渡さないモードが発動しちゃいましたw


【ネトラレうれしい!】というタイトルでNTRざまぁラブコメ新作書いてみました。良かったらご覧ください。

↓表紙リンク

https://kakuyomu.jp/works/16817330667920018002

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