第13話 義妹の気持ち
「おまえたちは血のつながらない義理の兄妹だ」
父さんから告げられた言葉に、沙耶乃は口が開いたままになってしまい両手でそれを塞ぐような仕草をしている。俺と同じく動揺しているようだった。父さんの告白に絶句してしまったが、おかしなことに気づいた。
「誕生日が同じなのに実の兄妹じゃないって、どういうことなんだよ! おかしいだろ!」
俺と沙耶乃は誕生日が同じなのに双子の兄妹じゃないだなんて、信じられるわけがなかった。知らず知らずのうちに席を立ちあがり、父さんに怒鳴るように言ってしまっていた。
そんな俺に動じることなく父さんは、
「偶然の一致だ」
との一言で済ましてしまう。
父さんのほうを見た母さんは、父さんが頷いたのを機に口を開いた。
「沙耶乃はね、とある芸能人が未婚のまま妊娠してしまい、事情によってうちが引き取った子なの……ちょうど、春臣が生まれたぐらいにね」
俺の妹の沙耶乃が養子だっただなんて……。
さっきまで家族であんなに
俺はわけが分からなくなってしまっていた。
「嘘だっ!!!」
ずっと俺の妹だと思っていたのに、急に血がつながらないなんて言われたって、どうすりゃいいんだよ!
「「春臣っ!」」
「お兄ちゃん!」
三人が呼び止めようとするのも聞かず、俺は混乱して、沙耶乃にプレゼントを渡すことなどすっかり忘れて自分の部屋に引きこもってしまっていた。ずっと実の妹だと思っていた沙耶乃と血がつながっていないだと?
信じられない。
何かの冗談であって欲しかった。
確かに俺、父さん、母さんとも沙耶乃の顔形はまったく違っていた。
あまりにも美しく華やかな顔立ちに整い過ぎたプロポーション、また音楽、演劇、ダンス……どれをとっても一流になれるような才能にあふれていたのだから……。
俺は布団をかぶりベッドのなかでくるまっていた。そのなかで考えることは沙耶乃のこと。
物心つくころには沙耶乃は俺の隣にいた。いつも俺にべったり、どこに行くにも一緒。そんな甘えん坊で天真爛漫な沙耶乃がかわいくてたまらなかった。
幼稚園ぐらいのとき、俺が父さんに遊んでもらうように鍛えてもらっていると、沙耶乃は「お兄ちゃん、遊ぼ」と背中に抱きついてきて、困ったように父さんのほうを見ると、頷いて俺たちと遊んでくれた。
同い年にも
俺がうじうじと一人で考えごとをしながら部屋に引きこもっていると、ドアがノックされて沙耶乃が問いかけてくる。
「あのね、お兄ちゃん……私が養子って分かっても、あの約束はまだ有効だよね?」
「ああ、もちろん」
誕生日プレゼントとして、沙耶乃が俺とデートしてくれるって奴だよな。
沙耶乃だって悩んでいると思う。ましてや、自分が養子だって知ってしまったのだから。
「部屋……入っていい?」
「ああ、鍵はかけてないよ」
ドアをおずおずと開けて入ってくる沙耶乃、いつもは元気よく入ってくることが多いのに……。やっぱり両親か血がつながってないと打ち明けられて、ショックだったのかもしれないな。
布団をかぶり、貝になっていた俺はベッドの縁に座ると沙耶乃もその横に座ってくる。
「なんだか、驚いちゃった」
「俺もだよ……」
膝のうえに肘を置いて、がくりとうなだれてしまった俺とは対照的に沙耶乃はベッドの後ろに手を着いて天井を見上げていた。
「なんでお父さんも、お母さんも黙ってたんだろうね?」
「俺たちも来年は十八で成人だからとか?」
ずっと血のつながった妹だと思っていた沙耶乃が他人の子どもって分かっただけで、こうもやもやするのはなんなんだろうか?
「沙耶乃はまだ、お兄ちゃんって呼んでいいのかな……?」
「なに言ってるんだよ、もちろんにいいに決まってる」
血がつながってないと分かっただけで俺と沙耶乃が一緒に歩んできた十七年間が嘘になるわけじゃない!
血縁でも骨肉の争いを繰り広げてしまうことなんて世の中、山ほどあるんだから。
「沙耶乃、これからもずっと兄妹でいような!」
「あ……うん……お兄ちゃんはそう思ってるんだ……」
ん?
沙耶乃が何故か、浮かない顔をしていた。血がつながってなくても、俺は実の妹のように思っているのに。俺はなにか間違ったことを言って、沙耶乃を傷つけてしまったんだろうか?
ただ、今はナイーブなときだ。
理由を訊かずに今はそっとしておくほうがいいだろう。特に沙耶乃は養子ってこともあるし。
俺は話題を変え、さっきちゃんと渡せなかったプレゼントのことを謝罪する。
「沙耶乃、さっきはごめん。ちゃんと誕生日プレゼントを渡せなくて……」
「そうだよ、お兄ちゃんがせっかく買ってきてくれたのにもったいないよぉ!」
よかった!
やっぱり俺の妹だ! ぷくぅと頬を膨らました沙耶乃がハムスターのようにかわいくて、
「あははは、それじゃヒマワリの種を食べ過ぎたハムスターだよ!」
「んもう、沙耶乃はハムスターじゃないもん」
沙耶乃は俺を笑わせ、おかげで先ほどまでの陰鬱な雰囲気は吹き飛んでいた。
「分かった分かった。お詫びにあとでスタークジェガン、一緒に作ろうな!」
俺のその一言で、そっぽ向いてぷりぷりしていた沙耶乃は目を糸のように細めて、にぱぁと緩んだ表情へと早変わりする。
「ほんとに!? ありがとう、お兄ちゃん! でもスタークジェガンなんて、よく買えたね!」
「ああ、ちょっとヤバかったよ」
沙耶乃の笑顔とアルバムをトレードすることになったが、こればかりは仕方ない。
(俺にとっては沙耶乃の笑顔が最優先なのだ!)
万歳しながら、俺に飛びついてきた沙耶乃を俺は支え切れなくて、そのままベッドに押し倒される形になってしまっていた。俺を下に四つん這いで見つめてくる沙耶乃、これじゃまるで俺が沙耶乃に壁ドンされているみたいだ。
なにかをするでもなく、じっと俺の目を見つめてきて、沙耶乃の綺麗な瞳のなかに俺がいた。ずっと見つめていると沙耶乃に吸い込まれてしまいそうなくらい透明に澄んでいる。
「沙耶乃……もうそろそろ、デートの時間じゃないかな? 遅れると映画見れなくなってしまうぞ」
「うん……あともうちょっとだけ、お兄ちゃんを見ていたいの」
俺はこのままだと、沙耶乃にキスされてしまうんじゃないかとか、馬鹿なことを考えてしまった。まったくロクでもないことしか頭に浮かんでこない。
実際はそんなことなくて、あ、あれだよな、義理の兄妹なってしまったけど、変わらずに仲良くいようみたいなスキンシップの一環だよな?
あくまで沙耶乃が俺のことを好きって言ってくれているのは兄妹愛としてであって、恋愛感情はないだろう。だって沙耶乃は俺とは違い、日本を代表するトップアイドルと言ったって、過言でないのだから。
(って、沙耶乃!?)
沙耶乃は俺の目を盗み左手を着く位置を変えていた、あろうことか俺の脇の間に……。まさか“逃がさない“という意思表示なのか?
俺の予想は当たってしまったのか、沙耶乃は目を閉じて、ゆっくりと俺に顔を寄せており、沙耶乃の麗しい唇がもう俺の唇へと触れそうになってしまっていた。
いくら義理と分かったとはいえ、妹とキスなんてインモラルなことをしていいのか!?
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