第6話 キャストオフ

 突然の妹の乱入に俺は慌てて、タオルを湯に浸けて股間を隠した。


「遅いから様子見にきちゃった!」


 遅いって、まだ五分も入ってない。まあ沙耶乃も俺のせいで濡れたから仕方ないか。


 いや、仕方ないわけない。


 いくら実の兄妹とはいえ、思春期まっさかりの高校生の男女が一緒のお風呂に入るなんて!


 俺が早く風呂からでないばかりに「待たせて、ごめん」って、言ったそばから、沙耶乃ははらりと巻いたバスタオルをキャストオフしてしまう。


 な!?


 呆気あっけに取られたかと思うとバスタオルが俺の頭にかかり前が見えない。まさか沙耶乃のやつ、裸で俺と一緒にお風呂に入ろうだなんて思ってないだろうな?


 俺も相当馬鹿だと思いつつも、頭に被せられたタオルを振り払うと、まぶしいまでの沙耶乃の姿があった。


 白く清純さをアピールするフリル付きのトップとパレオを巻いたボトムス……俺はこの水着を見たことがある。



 【白石さや写真集】で着ていたものだ!



 トップアイドルの写真集でも十万も売れれば、好調という出版不況にもかかわらず、まさかの百万部を売り上げてしまったものだ。


 そんな神ってるアイドルが俺の妹……。


 写真集を見せてもらったが、沙耶乃はやっぱり輝いて見えた。もちろん、黄泉坂はセクシーなアイドル路線じゃないから、そこまで過激な写真はない。だけど、それが逆によいというか、身近にいる妹系アイドルって感じで売れたんだと思う。


 amazonレビューを見ても星4.8で俺と同じく妹感が最高にいいと多く書かれていた。


 ソファーに寝転がり、肩紐の細いキャミソールにフリース生地のホットパンツという生活感あふれるスタイルにふくよかな谷間にこぼれる汗。Switch Liteスイッチライトを持って、いたずらっぽい笑みを浮かべている写真は絶賛されていたし……。


(俺にとってはいつもの光景なんだけど)


 今、俺の目の前の沙耶乃が着ている白い水着はハワイロケで着ていたもの。燦々さんさんと照りつける太陽のなかではじけるような笑顔で撮られていたのが強く印象に残っている。


 しかし、当たり前のことだが写真で見るより迫力がまったく違った。


「お兄ちゃんとお風呂に入るなんて、何年ぶりだろうね?」


 ふふっと小悪魔的な微笑びしょうに俺は苦笑いする他ない。


 実は沙耶乃はブラコンが過ぎて、中学になっても俺とお風呂に入ろうとするので、これにはめちゃくちゃ焦った。


 だって、俺はもう下の毛が生えようとしていたのに、怖いもの知らずなのか、積極的というか、揶揄からかいたいのか、本心は分からなかったが屈託のなさには俺のほうが心配しまくった。


 沙耶乃の身体つきも、すでに女の子から大人の女性に変わっていたから……。


『沙耶乃、俺たちはもう中学生なんだから、別々にお風呂に入ろうな』

『えっ!? お兄ちゃん、沙耶乃のこと嫌いになっちゃったの!?』


 俺が諭すと悲しむ沙耶乃だったが、両親の説得もあり、『うん、分かった……』と寂しそうな表情を浮かべていたのが、少し心残りではあった。


 そんなやり取りがあったのも、今は懐かしい。



 いや懐かしいじゃねーよ!!!



 距離感のバグり過ぎた沙耶乃に綾香に振られた悲しみで奈落の地に落ちた俺の心はそれどころじゃなくなっている。


 しかし気になることがひとつあった。それは沙耶乃の体型だ。もの凄く食べ物や喉など健康には気を使っていて、体重の増減なしって言っていたのに、写真を収録したときより、胸とお尻のボリュームが増しているような気がする。


 そんなわけないよな?


 俺がたかくくっていると沙耶乃は大胆な行動を起こしながら、言ってきた。


「最近ね、この水着もちょっとキツくなってきたかも」


 沙耶乃は水着のなかに人差し指を入れて、ずり上がってしまい、たわわな下乳を隠そうとしていた。


 なっ!?


 それだけに止まらない。今度は俺にぷりんとしたお尻を向けて、恥ずかしそうに食い込んだボトムスの裾を直していたのだ。


 沙耶乃の水攻めじゃない、水着攻めの前に俺の身体は股間にどくどくと血を流してしまう。このままでは墨俣すのまた一夜城ならぬ、素股一本城が築城されてしまう。


 築城! ちがったチクショー!


 俺の気を知る由もない沙耶乃は攻める手を休めることはなかった。


「お兄ちゃん、あのね。沙耶乃も冷えてきちゃったから、浸かっていい?」


 なんですとぉぉーーーっ!?


「じゃあ、俺があがるからっ!」

「だーめ! お兄ちゃん、温まってないのに今あがったら、風邪引いちゃうよ」


 沙耶乃は正論を述べ、バスタブから上がろうとする俺の手を押さえる。俺が確かにと頷いている間にも妹は隙を見せなかった。


「うんしょっ、と」

「あ、はい……ってーーーーっ!?」


 水着のまま、足をひたしたかと思うと、あろうことか、どんどんエネルギーを充填じゅうてんしつつあった俺の腰のうえに重なるように座ってしまう。


 恋人同士しか許されないお風呂の浸かり方だ!


「紗耶香……この浸かり方はちょっと……」


 俺が困ったような情けない声で訴えると、沙耶乃は平然と答えた。


「対面で入ると足が当たっちゃうよ?」


 はいそうですね。足を互い違いにして、浸かると沙耶乃の綺麗なおみ足が俺の股間に触れて、それこそ大惨事。


「なんだか昔を思い出すね」

「ああ、そうだな」


 沙耶乃からふと出た言葉に俺のよこしまな心は浄化される。物心つく頃には沙耶乃と一緒に父さんにお風呂に入れられてたっけ。父さんのうえに俺が座って、俺のうえに沙耶乃が座る。ときどき俺と沙耶乃は前後したけど。


 昔の懐かしい思い出に浸りたかった沙耶乃をいやらしい目で見てしまった自分が恥ずかしい。


 自分たちで危なげなくお風呂に入れるようになってからは、父さんの代わりに綾香が加わるんだけど、今は考えたくなかった。


「あの頃はお父さんの胸板や背中、スゴく大きく感じたけど、今のお兄ちゃんのほうが逞しいかも」

「そうか? 今でも父さんはデカいぞ」

「大きいのとは、また違うかも」


 昔ほどトレーニングはしてないと思うが、ラガーマンみたいな身体つきをした父さんと俺を比べて、沙耶乃はふふっと笑う。綾香に振られた情けない俺を誉めて、慰めようとしてくれているのかもしれない。


 そんな紗耶乃に励まされたり、どきどきさせられたりで俺の冷えた心身は一時的にしろ、すっかり温まっていた。


「沙耶乃、俺……そろそろあがるよ」

「お兄ちゃん……ふふっ、これから本番なんだけどね」


 本番? なんのことだ?


 水着のトップスを結んでいる紐に手をかけた。


「緩んでるなら、俺が……」


 結び直してやらないと、とか思っていると沙耶乃はあろうことか紐を解いてしまう。そして、振り向き様に俺の視界は沙耶乃の高校生らしからぬ豊満なバストを隠していた布切れ一枚に覆われてしまっていた。


 さっきまで沙耶乃のけしからんおっぱいを包んでいただけあって、妹の生暖かい体温が布を通して伝わってくる。こんなの身につけたら、結膜炎や物貰ものもらい程度の眼病ならすぐに治ってしまいそう……


 沙耶乃の暴走はそれだけに止まらない。水着の紐を俺の後頭部で結んでしまった。


「紗……耶……乃……んぷぷ……」

 

 明らかに当たってる。いや目が塞がれて違う可能性もあるかもしれないが、沙耶乃のあれが俺の口と顎辺りでぷるるんと躍動しているように思えた。


「お兄ちゃんにならって思ったんだけどね、やっぱりちょっと恥ずかしいね……」


 薄布を隔てて、沙耶乃のあられもない素肌が露わになっていると思うと実妹なのに徐々に股間がヤバくなってきていた。俺の心眼は沙耶乃が手ブラで頬を赤らめているような姿を捉えている(願望)。


 恥ずかしいという紗耶乃だったが、俺もこんなところを誰かに見られでもしたら確実に社会的な死が訪れるに違いないだろう。いや、ファンに見つかれば間違いなく吊し上げられて生け贄だ!


「沙耶乃……これ以上はマジでやばいからな。俺あがるからっ!」


 いくら実の兄とはいえ、妹の神乳を拝むなんておこがましい。俺は自分の能力を過信してしまい、水着心眼のままバスタブから出ようとした。



 しかし!



 それがまずかった。俺は手を滑らせてしまい、連鎖的に足まで浴槽につるりといってしまった。


「ひゃんっ! お、お兄ちゃん……大胆すぎるよぉ」


 俺の左手はなにかとても柔らかく手に吸い付く感触を捉えている。顔面も柔らかなエアバッグに保護され、事なきを得ていた。


 触れたのは間違いなく沙耶乃のたわわ……。


 右手はもっとヤバいかもしれない。なにか伸縮性に優れた布のようなところにはまってたんだから!


「ごめんっ!!!」


 俺は慌てて顔に被せられた水着を取り、沙耶乃から離れた。すると俺の目に飛び込んできたのは大きな乳房を抱える沙耶乃の姿。


 あまりの神々しさに完全にたがが外れてしまった俺の下半身はタオル越しにだけど、見られてしまっていた。


「あっ、お兄ちゃん! せっかく背中流してあげようと思ってたのにぃーーっ」


 これ以上、沙耶乃に優しくされたら、理性が崩壊しそうだったので風呂場から一目散に這い出ていた。まさか背中を流すって、あの豊満な胸を使ってとかじゃないことを願いたかった。

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